加藤 貞男 氏
日本生命保険相互会社 代表取締役副会長
【生年月日】
昭和23年12月20日生
【学歴】
昭和46年3月 京都大学 経済学部 卒業
【職歴】
昭和46年3月 日本生命保険相互会社入社
平成4年3月 同社 川越支社長
平成6年3月 同社 企画広報部長 兼 調査部担当部長
平成7年3月 同社 主計部長 兼 調査部担当部長
平成9年3月 同社 主計部長 兼 審議役(総合企画部)
平成9年7月 同社 取締役
平成14年3月 同社 常務取締役
平成18年3月 同社 専務取締役
平成19年1月 同社 取締役 専務執行役員
平成19年7月 同社 専務執行役員
平成21年7月 同社 代表取締役 専務執行役員
平成22年3月 同社 代表取締役 副社長執行役員
平成23年4月 同社 代表取締役副会長
現在に至る
【関西経済同友会 主な活動歴】
平成22年4月 入会
平成22年5月 幹事
平成23年5月 常任幹事(平成25年5月まで)
経済政策委員会委員長(平成24年5月まで)
平成24年5月 新しい日本のあり方委員会委員長
(平成25年5月まで)
平成25年5月 代表幹事(平成27年5月まで)
昨今、女性の活躍推進に向けた機運がかつてない高まりを見せている。市場が国境を越えて拡がり、消費者ニーズが多様化する現代において、企業が持続的成長を実現していくためには、多様な人材の活躍が欠かせない。中でも消費者目線や生活者目線といった価値観を持ち、企業活動に新たな活力をもたらす女性の活躍を促進していくことは重要である。現在、各企業において、女性の活躍を支援する取組が進められているものの、試行錯誤を繰り返しながら取組んでいるのが実情と言えるのではないか。
日本生命においても、女性の活躍に資する取組を進めているものの、まだまだ途上であり、女性の働き方をより一層柔軟かつ多様なものとしていくためには、テレワークの導入をはじめ、取組むべき課題が多く残されていると感じている。当社は、全社員7万人のうち9割を女性が占める会社であり、女性の特性を最大限活かすことが最重要経営課題と言っても過言ではない。当社の取組も踏まえ、女性の活躍を支援していく上で、私なりに重要だと感じる点をご紹介したい。
女性の活躍を進めるための取組としては、育児休業制度や短時間勤務制度といった環境整備、いわゆるハード面での取組に焦点が当てられがちであるが、それにもまして、多様な働き方を認め合う男女双方の意識改革といったソフト面での取組が肝心であると感じている。
とりわけ、重要なことは男性の意識改革である。わが国では、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」との固定観念的な役割分担意識が根深く残っており、このことが女性の活躍を推進していく上での大きな障害となっている。例えば、わが国の子育て期の男性の家事・育児にかける時間は1日平均1時間程度と、欧米の3分の1に過ぎない。また、残業や長時間労働を当たり前とする、いわゆる「男働き」を求める意識も根強く残っている。女性の活躍を支援していく上では、男性が固定観念を脱し、働き方を従来のワーク型からワークライフバランス型に変えることで、女性が活躍し易い風土を作っていくことが肝要である。
また、女性の意識改革も大切である。例えば、現在では管理職への昇進を望まない女性が多く存在しているが、独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査によれば、理由として「仕事と家庭の両立が困難である」とともに「周りに同性の管理職がいない」との回答が顕著となっている。このことから手本となる女性管理職が身近に増えれば、管理職への昇進を望む女性も増加していくものと考えられる。全ての女性が管理職を目指すというものではないが、自らがロールモデルになっていくという気概を持つ女性が増えていくことが望まれる。その際、上司が経験不足を埋めるための指導や研修等を通じて、女性の背中を押すことで本人の意識を変える手助けをすることも大切であると感じている。
男女双方の意識改革を進める上では、「トップの決断」が非常に大きな意味を持つ。当社では、これまで、育児休業制度や短時間勤務制度といった環境整備に加え、ワークライフバランスセミナーの開催等を通じ、男性を含めた全職員へのワークライフバランスの浸透に着手したものの、男性職員の育児休業率が1%程度にとどまるなど、意識改革を実現するまでには至らなかった。
そこで2013年度より、男性職員の育児休業100%取得をトップダウンで推進することとした。当初は、会社の本気度を推し量るような意見もあったが、経営層全体が固い意志を示すことで、次第に社内全体に取組の輪が広がり、2013、2014年度と2年連続で100%を達成することができた。マスコミでも大きく取り上げられたが、この取組の結果、男性職員がワークライフバランスを意識するようになるなど、男性の意識改革に繋がった。また、男性職員が家事・育児に参画するようになったことで、仕事と家庭の両立に取組む女性職員への理解が進み、女性部下の育成やマネジメントにもプラスの効果が表れている。さらには、働き方に対する女性職員の意識改革にも繋がるなど、女性活躍推進に向けての好循環が生まれ始めている。
あくまで女性活躍を推進する主体は企業で働くヒトである。多様な制度を整えたところで、それを活用するヒトの意識が変化しなければ、宝の持ち腐れに終わってしまう。ヒトの意識を変え、行動を変えるためには、何よりトップの決断が不可欠である。