山中 諄 氏
社団法人関西経済同友会 代表幹事
南海電気鉄道株式会社 代表取締役会長兼CEO
【略 歴】
昭和18年2月1日生
出身地:三重県
【学歴】
昭和40年3月 立命館大学経済学部卒業
【職歴】
昭和40年4月 南海電気鉄道株式会社入社
昭和62年7月 同 自動車事業本部自動車部長
平成3年4月 同 鉄道事業本部運輸部長
平成7年6月 同 取締役 鉄道事業本部次長
平成9年6月 同 常務取締役 バス営業本部長
平成13年6月 同 代表取締役社長
平成17年6月 同 代表取締役社長(執行役員)
平成19年6月 同 代表取締役会長兼CEO
現在に至る
【関西経済同友会活動歴】
平成15年5月 入会
平成16年5月 幹事(~平成18年度)
「水都・大阪」推進委員会委員(~平成20年度)
平成18年5月 市民の自立と社会参画委員会委員長
平成19年5月 常任幹事(~平成20年度)
市民会議推進委員会委員長
総合政策審議会委員(現任)
平成20年5月 企業経営委員会委員長
平成21年5月 代表幹事
現在に至る
我が国は、長期にわたるデフレなど不安要素が尽きず、景気の先行きは極めて不透明である。さらに、東アジアを取り巻く環境の変化は我が国外交に大きな課題を投げかけている。国会情勢や財政不安、社会保障、少子高齢化などといった問題もあり、我が国は政治、経済、社会、外交・安全保障など様々な分野において構造的な課題に直面している。そのため、国家全体が閉塞感に覆われており、この閉塞感を打破し、国民が安心して生活することができる社会を構築しなければならない。
我が国を活性化する切り札の一つが「観光」である。日本人が見る世界地図は日本を中心に描いているが、海外の方が見る世界地図では、日本は「極東」という言葉が示すとおり世界の「端」にある。いかにも遠い国というイメージだ。加えて、島国という地理的要因、他国との交流に積極的でなかったという歴史的要因もあいまって、我が国は政府・国民とも観光に対する意識が観光先進国に比べ低いものであった。観光産業がGDPに占める割合が低いことは、それを証明しているといえる。
しかしながら、観光産業は裾野が広く、多くの設備投資を伴わずとも地域における経済波及効果が極めて大きい。人口減による経済へのマイナス効果を相当程度減殺する。
我が国には、歴史・文化、自然、食など世界に誇れる魅力が数多くある。それらを海外からの観光客=インバウンドに知ってもらうためには、戦略的なPR・積極的な情報発信に加え、空港などのインフラ整備、入国時の負担を軽減する規制緩和などが必要だ。そして何よりも、外国の方をお迎えする「おもてなし」の気持ちが最も大切である。
インバウンドに対する観光資源が豊富にあるのが関西である。日本にある世界遺産14件のうち、5件は関西にある。また、国宝の半数強、重要文化財の半数近くが関西に集積しており、まさに歴史・文化遺産の宝庫といえる。加えて、多彩な食文化や個性的な街、多様なショッピングゾーンなど、様々なニーズに応えることができる観光資源を数多く有している。
近年、注目を集めているニューツーリズム(メディカルツーリズムや産業観光など)の対象となる観光資源も関西には豊富だ。これらを活用し、インバウンドの取り込みを図ることは、関西活性化のための必要条件であるといえる。
もちろん、豊富にある観光資源にあぐらをかくことはできず、いかに付加価値をつけるかが大きなポイントとなる。インバウンド取り込みのためには、外国人から好まれる形にすることが必要であり、そのためには関西在住の専門家・留学生といったネイティブの感覚を取り入れる必要がある。
一方、関西だけでなく我が国全体の課題であるが、案内サインの外国語表記が著しく不足している。私たちもそうだが、海外へ行って一番困るのが言葉の壁である。インバウンドの取り込みに成功している地域は外国語表記が充実しており、関西でも官民が一体となって案内サインの充実に取り組む必要がある。
関西の観光の現状は、行政面と産業面において課題が山積している。まず行政面について、観光振興のためには広域連携が不可欠であるが、これまでは各府県がバラバラのまま、自己アピールを行ってきた。そうではなく、府県の枠を超えて関西という広域が面としてアピールすることが必要である。ただし、海外では関西という地域の知名度は極めて低いため、知名度の高い「京都」を軸とするなど、外国人の目線に立った情報発信が必要である。
広域行政推進のため年内にも設立予定の関西広域連合では、「広域観光・文化振興」「広域産業振興」「広域医療連携」「広域防災」「広域環境保全」などの事業が予定されている。広域的かつ大局的な見地から、府県一律ではない、戦略的な選択と集中が行われることが期待される。
一方産業面の課題としては、関西としての観光推進体制の確立に取り組むことが求められる。関西広域連合は、官の組織という性格上、戦略策定や環境整備、サポート(資金的支援)に特化し、民間を中心とした組織が観光推進の実行役となって、両者が緊密な連携をとり、観光振興を図る必要がある。
観光推進においても地域間競争が激化しており、時間的余裕はない。産官学と市民が連携し、関西により多くのインバウンドを呼び込むため、早急に取り組みを開始する必要がある。