トップページ > 叡智の泉 > ココロのエッセイ「中野 健二郎 氏:日本の外へと目線を広げ、自ら動く姿勢が不可欠な時代に」

 
日本の外へと目線を広げ、自ら動く姿勢が不可欠な時代に
社団法人関西経済同友会 代表幹事/株式会社三井住友銀行 代表取締役副会長 中野 健二郎 氏

中野 健二郎 氏
社団法人関西経済同友会 代表幹事
株式会社三井住友銀行 代表取締役副会長

【略 歴】
昭和22年8月13日生
出身地:熊本県

【学歴】
昭和46年3月 九州大学経済学部卒業

【職歴】
昭和46年4月 株式会社住友銀行入行
平成05年5月 本店営業部本店営業第一部長
平成10年6月 取締役 証券部長
平成13年4月 株式会社三井住友銀行執行役員 投資銀行統括部長
平成14年6月 常務執行役員 大阪本店営業本部長
平成17年6月 専務取締役 法人部門統括責任役員
平成18年4月 副頭取 法人部門統括責任役員
平成19年4月 副頭取 コーポレート・アドバイザリー本部担当、大阪駐在
平成20年4月 代表取締役副会長 大阪駐在

【関西経済同友会活動歴】
14年7月 入会
16年5月 幹事(~18年度)
19年5月 常任幹事
人口減少社会委員会委員長、総合政策審議会委員
20年5月 代表幹事に就任
現在に至る


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内向き志向で国際感覚に乏しい日本

一昨年秋のリーマンショックによる世界的な経済危機の余波が根強く残るなか、デフレや円高の進行等も重なり、日本経済は先行き不透明な状態が続いている。昨年8月の衆議院選挙の結果、歴史的な政権交代により誕生した鳩山新政権は、すでに発足から8カ月程度が経過するものの、数々の重要課題を解決できず迷走を続けている。このような経済、政治の状況から、国民の中に閉塞感が一層強まってきている。

一方、世界では、経済のグローバル化、ボーダレス化が進むなか、「G7からG20へ」の急速なシフトに象徴されるように、先進国主導の経済から多様化する世界経済へと大転換が進んでいる。

このようななか、現在の日本に危惧されることは、日本の外に目を向けることへの意識の欠如である。島国であるため、かねて国全体として内向き志向が強く、国際感覚に乏しかったことは歴史が証明している。しかしながら、今後、国際的な大競争のなか、日本の外で起こっていることから目を背けると、政治、経済、外交など様々な面で日本の孤立がますます際立つのではとの強い危機感を持っている。

日本の外への目線が足りない現政権

まず憂慮すべきは、現政権における日本の外への目線の欠落である。
例えば、世界を舞台とした企業間の競争が激化するなか、各国は国を挙げて自国の企業の競争力強化を後押しする施策や環境整備等を進めている。翻って日本では、現政権が家計重視に偏りすぎで、かつ企業の競争力を削ぐような政策に舵を切っており、このままでは企業の国際競争力は劣化の一途を辿ってしまう。

また、さらに象徴的な事柄としては、多極化をはじめ世界的な変化のなかで、米日関係に「揺らぎ」が生じ、これに対し現政権が場当たり的な対応を繰り返していることであり、その一例が日を追うごとに深刻度を増す沖縄の米軍普天間基地の移設問題である。現政権は米日関係の意義や日本を含めたアジア太平洋地域の安全保障など「世界の中の日本」という視点がいかにも足りない。昨年11月に、関西経済同友会のミッションで米国を訪れた際に、我々が肌で感じた米国側の苛立ちに比して、現政権はこの問題にあまりに無頓着で、かつ無計画にみえる。

一方で、現政権がマニフェストに掲げた「東アジア共同体」構想についても、中身が不明瞭で理念の域を超えておらず、多民族・文化を抱えるアジア地域の実情、その中での日本の立ち位置を正しく把握しているようにはとても思えない。

地域活性化にも外への目線が不可欠

地域活性化という観点でも、外への目線が不可欠である。
大阪~東京間を頻繁に行き来する立場から、よく「東京に比べて関西の経済はどうですか」と問われることがある。しかしながら、世界地図でみても、日本は東のはずれにある小国にすぎず、その中で局地的な経済について過度に言及したり、国内地域間での競争を考えたりするのは意味があろうか。むしろ、国際的な競争を念頭に、外からみた地域の特色、強みをいかに経済活性化に繋げるかに重きを置くべきだ。

さらに、関西は歴史的にも地理的にもアジアに近いということから、アジアとの関係強化、アジアからの訪問者誘致が目標とされて久しいが、現在まで、関西がひとつに纏まってこのために動けているかといえば疑問が残る。海外からみて日本の一地域にすぎない関西が、大阪、兵庫、京都、奈良、滋賀、和歌山、とバラバラに動いていては、魅力が伝わらないだろう。

外への目線の欠落が民間企業の競争力低下も引き起こす

このような外への目線の欠如は、我々民間企業も例外ではない。
携帯電話の「ガラパゴス」化に象徴されるように、日本は島国でありながら人口1億2,000万人という中途半端に大きな内需を有するため、企業の視点が内向きとなり、国際競争に敗れてしまった分野が多く存在する。このような日本の企業と国内の市場が海外からみてどのように映っているかを意識する必要がある。

最近では、とりわけアジアをはじめ発展著しい新興国のボリュームゾーンを取り込むことの重要性が各所で叫ばれている。激動する世界市場に対応することは重要だが、日本企業が皆、このような需要に的を絞るのが果たして正解といえるか。むしろ、外からみた日本の強みは技術力であり、他の国に負けない品質、安全性等である。これらを強みに商品開発等を行い、競争力を磨いていくべきではないか。

また、企業が実際にアジア市場等へ進出する際、需要の「取り込み」という手前勝手な視点で臨むのは問題がある。アジア諸国が経済成長により急速にプレゼンスを高めるなか、相互の理解を深め、Win-Winの関係を築かなければ、アジアでの展開は難しいだろう。

日本の外へと目線を広げ、自ら動くことが不可欠

このようにわが国を取り巻く環境は大きく変化しており、国、地域、企業には変化に怯むことなく、知恵、工夫を絞り対応していくことが求められる。とりわけ、我々民間には、政治の方向が定まらない今こそ、日本の外へと目線を広げ、自ら動き、果敢に挑む姿勢が不可欠といえるだろう。

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