『北欧のノーマライゼーション』
エイジレス社会の暮らしと住まいを訪ねて
北欧のノーマライゼーション
エイジレス社会の暮らしと住まいを訪ねて
著者:田中一正
出版社:TOTO出版(TOTO株式会社文化推進部)
【著者プロフィール】
大和ハウス工業株式会社東日本シルバーエイジ研究所長、西日本シルバーエイジ研究所長、総合技術研究所副所長を歴任後、現在は障害者・高齢者の生活を補助する人支援ロボットを研究・実用化を進めるロボット事業推進室長。
2015年には4人に1人、2025年には3人に1人が65歳以上になると予測され、世界で例がない早いスピードで高齢化が進む日本。ノーマライゼーション、つまり「誰もが普通の生活を普通にできる権利」を実践する福祉の国スゥエーデンとデンマークへの旅を通して、著者は「二つの国の、ごく普通の高齢者が老後を過ごしている生活環境の良さは想像以上であった。クオリティ・オブ・ライフの高さは、これからの日本の高齢者の暮らしを考える上でも参考になることばかりであった。」と語る。高齢社会をテーマに撮影を続けている写真家川口政則氏の手になる数多くの美しい写真とともに、「老後を、誰とどこで、どういうふうに過ごすか」という日本の社会と個々人が直面する重い課題に対して、国家の制度や文化の違いを超えて、豊かな示唆と希望を与えてくれる。
【1章 ノーマライゼーションの国】
いくつかの高齢者施設を訪ねて、ノーマライゼーションや福祉が言葉としてほとんど使われていないほど、「どんな立場の人であっても『等しく社会に参加できて、普通に暮らす権利がある』という考えが、スゥエーデン社会の根幹にあり、そういった考え方は呼吸をするのと同じように当たり前で、自然なことだ。しかも、その考えをスゥエーデンの人々は徹底して実践しているのである」と、感慨深く報告されている。
【2章 シニア住宅「ローデット」ではじまる新しい人生】
ストックホルム市に隣接するナッカ市にある、介護や介助を必要としない元気な高齢者のためのシニア住宅「ローデット」の入居者の生活ぶりから、「老後とは『人生の終末』ではなく、『新しい人生のステージ』だということである」という強いメッセージが伝わってくる。
【3章 グループホームに暮らす】
「今回の旅の主な目的は、スゥエーデンにおけるグループホームでの認知症高齢者の暮らしや、グループホームを設計する上でどのような介護への配慮や工夫がなされているかなどを含め、グループホームが認知症高齢者に及ぼす効用を知る」ことだった著者は、いくつかのグループホームを訪ね、「驚きの連続だった」と記す。生活の質、クオリティ・オブ・ライフの高さに加え、「グループホームは建物や住環境それ自体が介護の一部」というスゥエーデンの経験知には、学ぶべきことが多い。
【4章 「フォルクヘメット=国民の家」と「連帯の精神」】
「貧しさと向き合って生まれた『国民の家』の国家観と、貧しさのなかで育んだ『連帯の精神』」で社会保障システムの基盤をつくってきたスゥエーデンだが、最近は民間活力を導入し、公設民営が大きな流れになっていることが紹介されている。
【5章 生活者の目線 デンマーク】
「生活者大国と形容され、生活者の視点に基づいた国づくり」を基本とするデンマークを訪ね、地域に密着した多機能統合型のモデルケースであるソフィールドの高齢者タウンの事例調査から、「高齢者の暮らしに必要な機能のすべてが整っている」まちづくりであり、「日本の高齢社会が学ぶべき一つの大きなヒントであり、モデルではないか」と著者は言及している。