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『グローバル化する医療』


メディカルツーリズムとは何か

北欧のノーマライゼーションエイジレス社会の暮らしと住まいを訪ねて

『グローバル化する医療』
メディカルツーリズムとは何か

著者:真野 俊樹
出版社:岩波書店

【著者プロフィール】
多摩大学医療リスクマネジメントセンター教授、藤田保健衛生大学医学部客員教授、医師、医学博士、経済学博士、日本内科学会専門医、MBA。名古屋大学医学部卒業、コーネル大学医学部研究科、昭和大学医学部専任講師、大和総研主任研究員を経て、現職。


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2006年に医療を受けるためにタイ、シンガポール、インドなどアジアを訪れた外国人旅行客は180万人、市場規模は68億ドル(約7,800億円)に達するとされる(経済産業省2007)。海外からの観光客を増やす機運を背景に、わが国でもニューツーリズムの一つとして最近とみに注目され始めているメディカルツーリズムだが、医療というのは本来地域に密着した社会インフラシステムであるにもかかわらず、なぜ先進国の患者が自国の医療を受けずにわざわざ海を渡り国境を越え、アジアの新興国の医療を受けに来るのか。著者は、供給国のアジアでのメディカルツーリズムの実態調査と、需要国の医療体制の比較研究をふまえ、「実は、この答えは、グローバル化にある。医療で経済発展を遂げたい、という新興国の思惑と合致した時に、医療あるいは患者といった、最もグローバル化しにくいと思われてきたものまでも、グローバル化したのである。医師にとっても、その働き場所の選択肢がグローバル化しており、そのために、医者の偏在という現象が世界的に起きている。」と分析する。本書は、メディカルツーリズムの増加とその原因を考察することにより、医療をグローバルな産業政策、観光政策の観点からも考える時代になってきていることを、気づかせてくれる。

主要目次紹介

【1章 興隆するアジアの医療国家】
メディカルツーリズムの受入国になっているアジアの新興国、タイ、シンガポール、インド、韓国、台湾、中国の医療政策、医療構造を調査している。タイは豊富な観光資源と医療を組み合わせ、株式会社立病院を中心にアメニティの高い病院をつくり、国策としてメディカルツーリズムを推進し、シンガポールは産業政策として医療を位置づけ、医療を産業として推進するという国の強い方針のもとに、その是非はともかく医療のグローバル化を最も上手に利用している。インドは世界の病院を目指し、「アメリカ帰りの医師による高度な医療水準、現地の安い人件費、土地に支えられた安い医療費、英語の通じる環境によって、特に英語圏からの人気がある。タイ同様豊富な観光資源もあり、リゾートと医療技術を満喫する外国人が増えている。」韓国も「2009年には外国からの患者が前年と比べ六割増え、四万人の大台に達すると見込んでいる。」ように、メディカルツーリズムを積極的に推進している。

【2章 グローバル化する医療】
タイでは、アジアの医療ハブ構想の下に外国人患者へのビザ発行簡素化などの政策が実施され、「外国人患者数は2004年に100万人を超え、タイ民間病院協会は2010年までに200万人に増加すると予想している。」が、なぜ新興国でこのように医療がグローバル化したのか。メディカルツーリズムとはなにか。メディカルツーリズムを通して見えてくる、医療が抱えるさまざまな課題と難しさを考えさせてくれる。

【3章 いま、世界の国々の医療は】
アメリカ、イギリスなど先進国の医療事情を調査し、これら先進国では、それぞれの国が抱える医療制度の問題から、患者が海外へ流出するメディカルツーリズムを生み出していることを明らかにしている。アメリカでは高い民間保険料、人口の6分の1を占める無保険者、「心筋梗塞で入院して3,000万円の請求書が来た」といった話があるような高額な医療費、イギリスでは「総合医療の外来を受診できるまでの平均待機期間16週間、1年以上手術の順番待ちをしている者46,000人」とのデータからもわかるように、医療を受けるために極めて長い待ち時間という深刻な問題が、その背景にあることを示唆する。

【4章 医療を支えるものは何か】
国民皆保険という世界でもまれにみる制度を構築してきた日本もいま、医療費削減、医師の偏在、病院倒産、医療崩壊という大きな社会問題に直面している。医療を支える医療政策の複雑さ、難しさに言及しつつ、医療現場を支えるためには、過重労働になっている医師のワークライフバランスを改善することの重要性も指摘している。

【5章 日本の医療の明日―医療を育てるために―】
これからの医療は、一つはメディカルツーリズムに代表されるグローバル化の趨勢であり、もう一方で、病気を予防し病気を悪化させない予防医学重視とかかりつけ医強化というローカル化の動きの二つの方向性が顕著になるという。医療の質を問うとともに、患者の流動化に加え医師および医療従事者のグローバルな流動化が起きている原因を解明する。メディカルツーリズムの増加原因を考察するために、供給側の新興国と需要側の先進国の医療事情と政策を調査することにより、日本の医療のあり方を考えてきた著者は、「医師のありよう、医療従事者のありように優しい医療政策が、医師などの偏在を解決し、最終的には、国民にやさしい医療政策になるのではないか。」と結語して執筆を終えている。



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グローバル化する医療
著者:真野 俊樹
出版社:岩波書店