蔭山 秀一 氏
株式会社三井住友銀行 取締役副会長
生年月日:昭和31年7月4日
昭和54年 | 3月 | 神戸大学経済学部卒業 |
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昭和54年 | 4月 | 株式会社住友銀行入行 |
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平成10年 | 10月 | 鳳支店長 |
平成11年 | 10月 | 熊本法人部長兼熊本支店長 |
平成13年 | 4月 | 株式会社三井住友銀行 今里法人営業部長 |
平成14年 | 6月 | 大阪駅前法人営業部長 |
平成14年 | 9月 | 梅田法人営業第二部長 |
平成15年 | 10月 | 神戸法人営業第一部長 |
平成18年 | 4月 | 執行役員 京都北陸法人営業本部長兼京都法人営業第一部長 |
平成20年 | 4月 | 執行役員 京都北陸法人営業本部長 |
平成21年 | 4月 | 常務執行役員 大阪本店営業本部 大阪本店営業第一、第二、第三部担当 |
平成23年 | 4月 | 常務執行役員 コーポレート・アドバイザリー本部長 |
平成24年 | 4月 | 取締役兼専務執行役員 コーポレート・アドバイザリー本部長、大阪駐在 |
平成25年 | 4月 | 取締役兼専務執行役員 大阪駐在 |
平成26年 | 4月 | 取締役兼副頭取執行役員 大阪駐在 |
平成27年 | 4月 | 取締役副会長 大阪駐在 |
平成27年 | 5月 | 一般社団法人 関西経済同友会 代表幹事 (H27.5月~H29.5月) |
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関西経済はいま大きな変化のうねりにいる。ただし、それは多くの関西人がこれまで経験したことのないほど、非常に明るい方向の変化であり、不透明さを増す世界経済と好対照となっている。関西経済同友会の代表幹事を2年間務めた中で、関西経済は今後どのように変わっていくのか、多少の期待も込めて中長期的に見通してみたい。
確かに関西経済は、長い間、地盤沈下と揶揄されてきた。実際、関西の域内総生産の全国シェアをみると、大阪万博の1970年がピークであり、その後一貫して低下してきた。東京一極集中が止まらないのも、関西の元気の無さが一因であったと言っても過言ではない。世界レベルの大学、高度な研究機関、グローバルな大企業、そして厳しい競争にもまれた非常に高い技術を持つ多種多彩な中小企業が揃うという世界でも屈指の地域であるのに、なかなか経済が上向かないことが不思議に思えて仕方ない。
しかしながら、足もとでは、冒頭書いたように、関西経済復活を期待させる動きが見え始めている。その一つがインバウンド観光客の増大。2016年に関西を訪れた外国人は940万人、3年前から比べると実に3.6倍となっている。LCCの増便が続く関空と伊丹空港は昨年民営化され、神戸空港もコンセッションの真っ最中。民間の知恵が試される。
その延長線上に、2019年から始まるゴールデン・スポーツ・イヤーズ(ラグビーW杯、東京オリパラ、関西WMG)がある。特に、2021年に開催される関西ワールドマスターズゲームズは、関西全域で開催される一般人の為のスポーツイベントで、関西がスポーツやスポーツ産業の一大拠点になれるのかという試金石だ。
また、大阪港の390haの巨大埋立地・夢洲においては、いわゆる統合型リゾート(IR)と国際博覧会(万博)の誘致に向けた動きが加速している。
IRと言えばカジノと言われるが、我々は大型MICE施設(会議場や展示場)を併設するためには全体面積の数パーセント程度の土地にカジノが併設されるのも止む無しと位置付けている。これまで日本にはなかった規模のMICE施設を利用するのは、大勢のビジネス客や学者たちで、今好調の観光客とは違った層の人達だ。IRには、ここでしか楽しめないアミューズメント施設や大型ホテル、一流レストランなども併設され、まさに関西のインバウンドのランドマークとなりうる。IRを目指して訪日した観光客は、さらに関西全域や西日本各地にも足を伸ばし、各地の歴史・文化に触れることでリピーターとなってくれるだろう。つまり、IRはインバウンドにおいて、関西・西日本、ひいては日本全体のゲートウェイとして機能することが期待される。
一方で、大阪市はこの夢洲をスマートシティにする構想を持っている。具体的には、エネルギーコントロール、高度通信インフラ、防災、環境など、IOTを活用した未来都市を作ろうという計画であり、更には、規制緩和により、社会実験の場、ビッグデータを集積出来る場にするというものだ。これまでのスマートシティはエネルギーコントロールを中心に展開されてきたが、夢洲のスマートシティ構想は未来のまちづくり構想だ。2025年の万博誘致に成功すれば、医療・ヘルスケアだけでなく、関西の持つ素晴らしいインフラ技術を世界中にアピールすることが可能であり、関西経済復活を世界に印象付けることも夢ではない。
さらに、リニア新幹線や、北陸新幹線の新大阪までの延伸や、湾岸線や淀川左岸線といった高速道路のミッシングリンクの解消など、広域インフラ整備も着々と進展している。結果として、東京や北陸が日帰り圏内になり、関西の誇る歴史・文化・芸術・食といったものを存分に、日本を訪れる人たちに楽しんでもらえるようになるのは間違いない。また、広域インフラ整備が進めば、IRやUSJのある大阪湾岸エリアから3つの空港へは、驚くほどスムースにアクセスできるようになり、関西の競争力は一層高まることは間違いない。
大阪市内に目を転じると、みどりとイノベーションの融合を目指す大阪駅前の超一等地17haの「うめきた2期」のまちづくりや、再生医療研究の拠点形成や阪大アゴラ構想をコンセプトとする「中之島4丁目」の再開発なども進み始めている。けいはんな学研都市がいよいよ機能し始めた関西が「ものづくりの街」として復活するためには、これらは全て失敗の許されないプロジェクトであり、単なるお題目ではなく、きちんと経済合理性に基づいて話を進める必要がある。
ベンチャー企業育成も関西経済活性化のために必要不可欠である。京大・阪大で100~150億円規模のベンチャーキャピタルが設立される等の動きもみられるうえ、大阪イノベーションハブ等の行政の支援組織も立ち上がっている。そもそも関西は「やってみなはれ」に象徴される通り、新しいものを生み出すのに適した土地であり、私がお会いしたハーバード大学の教授陣も、こうした関西の気質を高く評価している。だからこそ、足許のこうした動きを一過性のイベントにするのではなく、一つのエコシステムとして完結されたものにし、永続的にベンチャー企業が次から次に生まれるようにしなければならない。
今申し上げたとおり、関西は、この数十年なかったような色々な好材料を目の前にしている。我々はこれらのチャンスを西日本や関西全体を俯瞰し、目先の利益に惑わされない長期的な視点に立って現実のものにしていかなければならない。昨年、関西経済同友会は70周年を迎えたが、80、90、100周年の際、「2017年にあれほど頑張ったから今がある」と言われるよう、関西財界・行政・地域が一致団結しなければならないと思う。
私は、代表幹事就任時、「関西経済の活性化を一つの柱として代表幹事業務にまい進したい」と申し上げた。いままさに、関西経済は復活に向けて動きが加速しており、私の仕事もこれに関するものが非常に多かった。こうしたポジティブな時代、関西経済の再浮上の兆しが見える時代に代表幹事を務めさせて頂いたことを本当に幸運であったと思う。
最後に、いま花開こうとしている関西経済活性化の種をまき、それを長い時間をかけて育ててきた歴代代表幹事、財界の先輩、行政の関係者にお礼を申し上げることで、本稿の締めくくりと致したい。
以 上