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日本の新しい未来のために
住友電気工業株式会社社長 松本正義氏

松本 正義 氏
住友電気工業株式会社 社長

【生年月日】
昭和19年9月18日

【最終学歴】
昭和42年3月 一橋大学 法学部卒業

【主要略歴】
昭和42年4月 住友電気工業株式会社入社
平成 4年1月 自動車企画部長
平成 4年7月 自動車部長
平成 8年6月 支配人兼中部支社長
平成 9年6月 取締役支配人 中部支社長
平成11年6月 常務取締役
平成15年6月 専務取締役
平成16年6月 社長(現在に至る)

【団体・公職歴】
平成20年 7月 (一社)日本経済団体連合会 常任理事就任
平成20年12月 国立大学法人一橋大学 理事(非常勤)就任
平成22年 5月 (一社)関西経済同友会 常任幹事就任
平成22年 5月 (社)如水会 理事長就任
平成22年 7月 大阪商工会議所 常議員就任
平成23年 2月 (公財)日本陸上競技連盟 評議員就任
平成23年 5月 (公社)関西経済連合会 副会長就任
平成24年 7月 (一社)大阪陸上競技協会 会長就任


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いつも不確実な時代

変化の時代ということがよく言われるが、時代は常に変化し続けてきたのであり、いつも不確実であるということに変わりない。いま我々が認識しなければならないのは、その変化が目まぐるしいほどのスピードを伴っており、また、その波及力がグローバル規模であるなど、変化の質がこれまでとは大きく異なってきているということである。

グローバリゼーションの進展

そして、変化の中でも、特に、グローバリゼーションの進展は無視することができない。米ソのデタントに始まる二極対立するイデオロギー世界の崩壊、そして、情報通信技術と運輸技術の進展によって、グローバリゼーションが一気に進行することになったが、その結果として、ASEAN、インドなどの新興諸国が次々と市場経済に参入し、その存在感を強めてきている。
また、中国も市場経済に移行したが、アダム・スミスのいう「見えざる手」ではなく、国家という「見える手」の下での資本主義、いわば“国家資本主義”という独自のポジションにより急成長を遂げてきており、いまや、世界は「市場経済にある民主資本主義」対「国家資本主義」という新たな二極化の局面を迎えている。
グローバル競争が過熱すればするほど、中国のように自国保護主義的な政策を選択する国が今後現れないとも限らず、世界経済はグローバリゼーションとナショナリズムが併存する混沌とした様相を呈していくのではないかと考えられる。

経営騎士道

一方、日本を見てみると「金がすべて」という拝金主義の時代を経て反省期に入っているが、社会格差は広がりを見せるばかりである。 “歴史は繰り返す”とはよく言ったもので、産業革命華やかなりし英国のビクトリア朝は今日の日本よりもひどい状況にあったようである。新興産業家は労働者から搾取することで富を築き、労働者は劣悪な条件での労働を強いられていた。
当時の思想家であり歴史家でもあるトーマス・カーライルは、これを憂慮し、著書『Past And Present』の中で、営利至上主義の弊害を排し、新しい人間愛に基づいた経営を行う経営者像“Captains of industry”を提唱したのである。
一言で言うなら「経営騎士道」。
これは人の上に立っていかに他者を導くかというエリート論でもある。
若干の危うさはあるものの、市場原理主義をベースにした自由奔放な会社経営がまかり通る現在、経営者の頭のどこかに“Captains of industry”のコンセプトをとどめておく必要があるのではないだろうか。
また、企業を取り巻く利害関係者を同じレベルで対応する公益資本主義の考え方が最近徐々に浸透してきているが、株主だけでなく、社会やコミュニティ等を重要なステークホルダーととらえ、市場での競争はやりながらも、事業を通じて社会に貢献するというこの考え方が、混沌とした社会情勢を見るにつけ、いま改めて必要ではないかと感じるところである。

日本の最大の武器

日本は天然資源もなく、また、日本経済の牽引役の一役を担ってきた製造業も新興国企業の躍進に苦戦を強いられている状況にあり、事業の撤退、ビジネスモデルの転換、時には人員整理など、厳しく難しい様々な判断を迫られている。
しかしながら、グローバル競争を勝ち残るための最大の武器は、世界に冠たる技術力と製品力、そして、それを生む出す人材力ではないか。それ故、我々は真摯に人材を育成するということを考え、そして、人材の質を保ち、常に活性化するということにこそ最大限の努力を払うべきと考える。

気骨ある異端児

では、どういう人材を育成しなければならないか。
知力、体力、胆力が備わり、平常心、自然体、正々堂々の精神、誠心誠意の精神をもっているというのが基本。それは、非定型な問題が発生したときに、変化に翻弄されず、違った角度からも物事を発想し、平常心で判断し、迫力と勇気をもって対処できる人材ということである。私の言葉で言えば「気骨ある異端児」。
気骨ある異端児たるためには、人格-人柄と言ってもよいがそれを磨き、そして判断能力の基礎として、幅広い教養(リベラル・アーツ)を身につけていることが不可欠であると考える。教養とは人類の知的遺産。過去の偉人たちが時代の変化にどう対処してきたかを学ぶことで、対処能力にも違いが出てくるであろう。

日本の新しい未来のために

今から40数年前、米国の未来学者ハーマン・カーンは「進取の気性」、「旺盛なる冒険心」、「革新的指向」、「目標達成意欲」を当時の日本人の中に指摘し、その後の経済大国を予想した。いま一度その気質を取り戻させ、気骨ある異端児として、未来を担う若いリーダーを育てることこそが、日本の新しい未来を創り上げていく上でもっとも重要だと私は確信している。

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