大林 剛郎 氏
一般社団法人 関西経済同友会代表幹事
株式会社大林組 代表取締役会長
【生年月日】
昭和29年6月9日
【学歴】
昭和52年3月 慶応義塾大学経済学部卒業
昭和55年6月 スタンフォード大学大学院修了
【職歴】
昭和52年4月 株式会社大林組入社
昭和58年6月 取締役就任 東京本社総務部次長
昭和60年6月 常務取締役就任
昭和62年6月 専務取締役就任
平成 1年6月 代表取締役副社長就任
平成 9年6月 代表取締役副会長就任
平成15年6月 代表取締役会長就任
平成19年6月 取締役就任
平成21年6月 代表取締役会長就任(現任)
現在に至る
【関西経済同友会 主な活動歴】
平成 1年 7月 入会
平成 4年 4月 幹事
平成 5年 5月 常任幹事(平成19年6月まで)
経済政策委員会委員長(平成8年5月まで)
平成11年 5月 米国・欧州委員会委員長(平成14年5月まで)
平成14年 5月 海外交流委員会共同委員長(平成19年6月まで)
平成16年 5月 都心居住推進委員会委員長(平成19年6月まで)
平成21年 5月 常任幹事(平成23年5月まで)
アジアとの共生を考える委員会委員長
(平成23年5月まで)
平成23年 5月 代表幹事
現在に至る
戦後、日本国民は荒廃したわが国を復興すべく、経済的な豊かさを求め懸命に働き、生活水準を飛躍的に向上させた。また、安定した社会・生活基盤を実現するため、日本は住宅やマンションなどの居住施設、オフィス、工場、道路、河川、港湾、空港など、積極的に都市基盤を整備してきた。当社も総合建設業として、土木、建築事業を中心に安全で安心して暮らせる都市のため社会インフラ整備、魅力ある都市づくりに貢献すべく邁進してきた。
近年は人口構造の少子高齢化と経済のグローバル化が急速に進むなか、わが国を取り巻く環境は厳しさを増している。一方、このような環境のもと、国民の生活スタイル、人生観は多様化し、経済的な豊かさや競争力よりも、「生活の質(Quality of Life)」を重視する概念が芽生えてきている。都市に関しても、単に機能中心のオフィスの建築など、物理的な都市機能を追及するだけではなく、そこに住む人間の生活とのつながりのソフト面を大切と考えるようになってきている。具体的には、建築、設計、都市工学、建築材料、工法などの工学的な分野のみならず、音楽、アート、演劇などの芸術文化、福祉や健康的な暮らし、「都市と人、都市と周辺のつながり」がこれからの都市づくりに求められる。特に、日本が少子高齢化社会を迎えるにあたり健やかで文化的な社会を実現するためには、医療・健康、文化・環境分野などを充実させることがこれから日本、関西の目指すべき人に優しい都市づくりであろう。
健康都市デザイン研究所様におかれては、健やかで文化的な市民協働社会、患者と医療者が信頼しあう患者主体の医療・健康社会など、人々と社会の願いを実現させていくことにご尽力されている。医療、福祉・商業施設などの建築設計・環境デザインや健康・文化・環境を推進する都市事業コンサルティングなど、広範囲に渡り生活の質を豊かにする環境づくりに積極的に取り組まれている。これは先ほど述べた「都市と人、都市と周辺のつながり」を大切にする都市づくりの先駆的な企業活動と言えよう。
ここで、私が理事長をつとめている公益財団法人大林財団において、都市研究振興に貢献した方への顕彰事業と都市学術研究に対する助成事業をおこなっているので簡単に紹介したいと思う。顕彰事業では昨年、英国の彫刻家を表彰した。英国の寂れた炭鉱・製鉄産業地域に巨大な彫刻作品を作り、彫刻作品によって都市に暮らす人々の豊かさに貢献したという都市とアートの関係が大きな選考理由であった。
また、助成事業のひとつに「単身高齢者の継続的居住を可能にする都市環境のあり方」という研究課題がある。これは日本の地方都市で今後増加する単身高齢者が、住み慣れた地域で継続的に居住するための生活環境について研究する興味深い内容であった。
これらの企業活動や都市研究を踏まえ、ここ関西にて人に優しい都市づくりを実現するには何が必要であろうか。関西にはもともと名立たる大学をはじめとする教育機関や研究機関があり、現在注目されているバイオメディカル分野でも政策的にクラスターづくりを進めてきた。2012年には京都大学の山中教授がiPS細胞にてノーベル賞を受賞したが、関西には「再生医療」という画期的な都市づくりの核が存在する。これからの関西は、住む方々が誰でも気軽にこのような医療サービスを受けられるように体制の整備された都市、つまり、人に優しい先端医療都市を目指すべきではないだろうか。それにより、日本のみならず世界から先端医療を求める人々が集まるだろう。
また、関西はもともと文化・環境とつながりが強い地域でもある。文楽や上方歌舞伎など独自の文化が培われる土壌であることに加え、かつて、関西には堀川や太閤下水などの水路が東西南北に張り巡らされた「水の都」であった。近代化とともに水路が埋め立てられ、水と関わりが深い生活文化や景観が失われたが、現在、我々経済界が中心となって、大阪駅前の梅北2期の緑地化や御堂筋にて「水の路」づくり構想を打ちあげるなど、かつて関西に存在した都市づくりに大切な緑や水を取り戻そうとしている。つまり、文化・環境により人々に潤いやゆとりを持たせ、人に優しい都市を取り戻そうとしているのである。これら医療・健康、文化・環境分野と現存する都市機能を有機的に融合させ、人々が豊かさを実感し、笑顔溢れる優しい都市が実現されることを期待する。