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大阪・関西 日本の活性化飛躍に思う
丸一鋼管株式会社 代表取締役会長兼CEO 鈴木 博之氏

鈴木 博之 氏
丸一鋼管株式会社 代表取締役会長兼CEO

生年月日:1946年2月7日

<最終学歴>
1969年 3月 東京大学工学部機械工学科卒
<社内歴>
1980年 7月 住友商事㈱退社、丸一鋼管㈱入社
1981年 1月 アメリカ事務所長
1983年 6月 取締役就任
1984年 4月 取締役東京事務所長就任
1990年 2月 常務取締役就任
1997年 6月 専務取締役就任
1999年 6月 代表取締役副社長就任
2003年 4月 代表取締役社長就任
2013年 6月 代表取締役会長兼CEO就任
<関連会社役員>
丸一鋼販株式会社 代表取締役社長
九州丸一鋼管株式会社 代表取締役社長
Maruichi Sun Steel Joint Stock Company 取締役会長
MKK・USA・INC 取締役社長
Maruichi KUMA Steel Tube Private Limited 取締役会長
<一般社団法人 関西経済同友会>
2003年 5月 幹事
2009年 5月 常任幹事
2016年 5月 代表幹事(2016年5月~2018年5月)
<趣味>
家庭菜園、ジャズ、小唄(春日流)
<座右の銘>
「疾風に勁草を知る」

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(はじめに)

2016年5月からの2年間、関西経済同友会の代表幹事を務めさせて頂きました丸一鋼管会長兼CEOの鈴木博之です。今期の事業計画のテーマとして「未来社会の仕組み創りと成長を担保する提言と活動を行う」を掲げ、世界の潮流が大きく変化する中、われわれ経済人はどういう未来を築いていくのか、そのためには今何をなすべきか、という事を念頭においてこの1年間活動して参りました。活動のまとめも含め、私の今の思いを述べさせていただきます

(現下の海外情勢)

韓国文在寅大統領の呼びかけに呼応した、北朝鮮の韓国平昌冬季オリンピックへの参加、それに端を発した韓国特使と北朝鮮金委員長との会談以降、核とミサイル問題に対する北朝鮮の動きが活発化してきました。中国習近平国家主席との首脳会談、4月末に予定される南北朝鮮首脳会談、5月または6月に予定される米朝首脳会談など、朝鮮半島の非核化への進展の期待が高まっております。しかし過去の例から見ても、北朝鮮の対応には、楽観的な見方や安易な合意は禁物であり、核とミサイルの廃棄に関しては、完全で検証可能で不可逆的な合意内容であるべし、それが実行されるまでは圧力はかけ続けるべしとの、4月17日の訪米における安倍総理のトランプ大統領への進言は的を得たものであります。また、拉致問題を議題にするとの確約を得たことも会談の意味は大きかったと評価できます。

一方、米国との通商問題については、2国間のFTA協定の協議ではなく、自由で公正な貿易を通じて世界経済の成長を高めることのできるTPP協定への米国復帰を粘り強く説得することは重要でありますが、現実問題、年間7兆円に上る対日貿易赤字の縮小を要求する米国に対して、日本は米国に対して具体的な対案を考えざるを得ないでしょう。シンゾー、ドナルドの両国首脳の親密な関係だけでは、この件は収まらないと我々は覚悟せざるを得ないでしょう。

(現下の国内情勢)

今期通常国会は1月22日に召集されたが、予算以外重要法案の審議は進んでおらず、我々の生活、企業活動に大きな支障を与える状態にあります。停滞の原因は、厚生労働省の裁量労働制に関係する不適切な調査データー問題、森友学園への土地売却に関係する財務省の決裁文章書き換え問題、防衛省における自衛隊のイラク派遣日報の隠蔽問題、加計学園の今治獣医学部設置に関する柳瀬首相秘書官の“首相案件”の発言否定問題、財務省福田事務次官の女性記者に対するセクハラ発言等、不祥事多発にあります。どの内容も一般社会や会社では考えられない、中央政官界の、国会軽視、国民軽視、女性蔑視を含めたガバナンスやコンプライアンス欠如にあり、大変嘆かわしく時代錯誤な状態にあることを露呈しており、これを契機として日本は思い切った大改革が必要です。さもなくは、世界の主要国の一員とは認められないでしょう。

(海外視察やセミナーを通じて)

人口知能(AI)、ビッグデータ、IoT、ロボットなどの革新的な技術を利活用した、新たなビジネスやサービスが創出され、第4次産業革命の時代到来と言われています。蓄積されるデーターの利活用、人口知能(AI)を搭載した家電製品は当たり前になり、自動運転の実証実験が各国で進められ、シェアリングエコノミーが身近になったと強く感じております。

昨年11月にアジアのデジタル革命分科会において、シンガポール・中国の深セン・香港の視察に参加しました。特に深センはアジアのシリコンバレーと言われていますが、中国の戦略的な成長を遂げている経済特区を視察して、第4次産業革命の時代を実感した次第です。10年以上前は、世界の工場として安価な労働力で海外メーカーの下請けをやっていた街が、国内外からの人・モノ・カネを集積させ、世界規模の企業を輩出させるベンチャー機運に満ち溢れる街に変貌しており、衝撃を受けました。

また、今年2月の「第56回関西財界セミナー」を京都で関西経済連合会と共同開催し、政治・社会、経済、文化等さまざまな視点から、関西・日本が抱える今日的な課題を議論しましたが、“イノベーション”が関西の活性化のキーワードとの結論に至りました。

こうした国内外の状況を踏まえて、既成概念に囚われない斬新な発想を持ち、意識改革を進め、規制緩和により“イノベーション”から生まれた新しい技術やアイデアを、早期に社会実装化を図るスピードが重要です。

関西には、“ものづくり”企業が多くあり、大手企業をサポートする中小企業の集積もあります。高度な研究機関、著名な大学もありますので、関西における“イノベーション”の創出の為、異業種・異分野における交流や産学官の連携を促進して、国内外に対する発信能力を向上させる必要があります。

(インバウンド需要)

関西は“観光先進地域”を目指しています。2017年関西の外国人観光客は前年比17.8%増の約1,200万人、関連消費も約1.15兆円強に達しました。インバウンドの飛躍的な増大は、LCCの増便等による中国、韓国、台湾からの訪日観光客者数の増加が一因ですが、今後は経済発展が見込まれるインドネシア、ベトナム、フィリピン等からの訪日客も増加、東アジア諸国からのリピーターが期待されます。一方、欧米からの比率は11%にとどまり、まだまだ欧米の訪日客を開拓する必要があります。関空は国際空港としての機能をさらに拡充し、世界中からの観光客を受け入れ、3空港一体運営で関西の活性化に大きな役割を果たすことを期待しています。

関西を訪れるインバウンド観光客の消費額の95%が大阪と京都に集中しています。関西の各都市・地域はこれまで以上に連携を深め、大阪・京都以外の地域における消費を促し、関西を訪れる観光客の“消費のパイ”の拡大を図る必要があります。現在のインバウンド観光客の平均滞在日数は7日前後であり、観光客の“長期滞在の促進”が必要と言えます。関西には、長い歴史と伝統により育まれた文化・世界遺産そして豊かな自然があります。世界中に関西の持つ魅力を発信し、外国の人々をより惹きつける“広域観光”と“長期滞在”の仕組みづくりを進めていく必要があります。

(スポーツ)

2019年のラグビーワールドカップを皮切りにゴールデンスポーツイヤーズが始まります。2020年の東京オリンピック・パラリンピック、2021年には第10回ワールドマスターズゲームズ(WMG)関西が開催されます。WMGには国内外から約5万人の参加者を想定していますが、今後の重要な課題は参加者の確保と認知度UPです。海外参加者は2万人ですが、北米・オセアニアを中心とした“リピーター”が約1万人いると言われています。残り1万人をアジア地域から参加を募るべく、さらなるPR活動が必要となってきます。また、国内においても3万人を想定、協議開催日は平日が中心であることから、各企業には「健康経営」への取組みとして、有給促進や参加費補助なども積極的に検討し、併せて認知度UPにも努めて頂きたいと願っています。

(万博・MICE/IR)

こうした国際的スポーツイベントを通じて広域観光や地域活性化に取組み、併せて“2025国際博覧会”の大阪・関西への誘致と実行に繋げたいと思っております。万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)は、17の課題解決を世界で進めて行くことを掲げています。万博を通じて、世界の人々に対して“社会の未来像”を提示します。

我々は万博開催予定地である夢洲に、世界最大級の国際会議場・展示場(MICE)に加え、ホテル、カジノなどを含めた統合型リゾート(IR)を誘致し、新たなインバウンドの開拓も目指しています。経済効果は万博開催年の2025年は、MICE・IRと併せ2.6兆円、その後も毎年1.1兆円が見込まれるとの試算があります。万博とMICE・IRの誘致の実現は、大阪ベイエリアを活性化させる大きな起爆剤となると確信しています。

(最後に)

政治及び経済において、海外情勢が刻一刻と変化する中で、適格な情報入手と変化への対応力が、企業経営にとりリスクを最小化しチャンスをモノにする最善策であると考えます。

大阪・関西においては、WMGやMICE/IRなど、当会が過去に蒔いてきた幾つのも種が、弛まぬ活動の成果として、蕾となり、まもなく開花しようとしています。こうしたプロジェクトの実現のための活動を継続するとともに、今後のさらなる飛躍に向けた新たな種を蒔いていかねばなりません。

今後、大阪・関西が大きく飛躍するためには、関西経済同友会だけでなく、関西経済連合会や大阪商工会議所を含めた3経済団体が一体となって解決すべき課題に取組み、また自治体や国とも連携しながら、関西がアジア、世界のゲートウェイとなるべく、挑戦していかなければなりません。

最後に、歴代代表幹事、財界の先輩・仲間の皆さん、行政の関係者、そして何よりも関西経済同友会会員の皆様にこの2年間大変お世話になりました。特に井垣さんには本当にお世話になりました。皆さんに心から感謝申し上げます。私自身は微力ながらこれからも大阪・関西の活性化に向けて力を尽くしていきたいと思います。有難うございました。

以上