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知と精神の時代
社団法人関西経済同友会 代表幹事<br />
西日本電信電話株式会社 代表取締役社長 大竹伸一氏

大竹 伸一 氏
社団法人関西経済同友会 代表幹事
西日本電信電話株式会社 代表取締役社長

【略 歴】
昭和23年1月25日生
出身地:愛知県

【学歴】
昭和46年3月 京都大学工学部電気工学科卒業

【略歴】
昭和46年4月 日本電信電話公社入社
平成12年8月 日本電信電話株式会社 理事 第二部門長
平成14年6月 株式会社エヌ・ティ・ティ エムイー東京
       代表取締役社長
平成16年6月 西日本電信電話株式会社
       常務取締役 ソリューション営業本部長
平成18年6月 同 代表取締役常務取締役
       ソリューション営業本部長
平成18年7月 同 代表取締役常務取締役
       戦略プロジェクト推進本部長
       ソリューション営業本部長兼務
平成19年6月 同 代表取締役副社長
       戦略プロジェクト推進本部長
平成20年6月 同 代表取締役社長(現職)

【団体・公職歴】
平成19年5月 社団法人関西経済同友会 常任幹事
平成19年8月 社団法人関西経済連合会
       組込みソフト産業推進会議 理事
平成21年7月 大手前・森之宮まちづくり検討会
       委員(~22.3)
平成22年4月 国立大学法人大阪大学
       経営協議会 委員
平成22年5月 社団法人関西経済同友会 代表幹事


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時代と産業の変遷

第二次世界大戦後の日本は、政府も企業も国民も一丸となって、日本国の復興にしゃにむに邁進した。
戦後の1950年代には、物資不足解消のために、量的充足を目指し、「鉄は国家なり」といわれた鉄鋼・造船といった重厚長大産業が日本の産業を牽引した。「トンの時代」である。日本人の勤勉性と統率力と向上心が発揮され、豊かさを求めてひたむきに邁進した時代でもあった。

その後1960~1970年代に入り、人々は質的満足を求め、自動車やTV・冷蔵庫・洗濯機といった家電製品が日本の産業を引っ張り、日本は豊かな国へと突き進んだ。日本列島改造論や一億総中流社会といった言葉がマスコミに登場し、日本人は豊かさを実感できる時代になった。自動車や家電製品は概ねキログラムで計量できるので、1960~1970年代は「キロの時代」でもある。

技術革新はさらにスピードを上げ、人々の欲望を満たすために「産業の米」といわれる半導体産業や金融産業が1980~1990年代の日本を牽引した。産業は日本国内を主戦場とみなしているだけでは立ち行かなくなり、米国との競争のみならず、グローバル競争を強く意識せざるを得ない時代となった。グラムを単位とする半導体や貨幣に象徴されるようにこの時代は「グラムの時代」である。

「グラムの時代」のあと、1990年代から2000年代前半は、知的充足を求めた「無重力の時代」となる。即ち、情報(コンテンツ)産業やサービス産業が百花繚乱の時代である。アナログからデジタルへ、更にはIP(インターネット・プロコトル)へ技術は進化し、コンテンツ産業という新分野が出現した。コンテンツやサービスは重さがなく、こういった産業がもてはやされる時代は「無重力の時代」である。

「量」から「質」、更には「知」へ

こうしてみると、産業に求められる要素は、時代とともに「量」から「質」へ、更には「知」へと変化している。2000年代後半からは、情報通信技術のイノベーションもあり、ライフスタイルが変わりつつある。FacebookやYouTube、Twitterなどのソーシャルメディアといわれるサービス産業が次々に現れている。また環境に優しいグリーンイノベーションも注目を集めている。明らかに価値観を含めたライフスタイルは変化しつつある。新しい文化創造やライフスタイル変化の時代は、言い換えれば「知の時代」である。

だからといってこれまでの産業が衰退したという訳でもない。例えば自動車産業についていえば、半導体を活用した自動制御技術により自動車の運転をより簡単に安全にしているし、更にGPSと連動したカーナビだけでなく、車に乗ったままでオフィスと同じ環境で作業ができるなど、グラムの時代・知の時代をうまく乗り切っている。

今後も、知(知識)を活用した新たな産業が創造されていくだろう。スマートグリッド・スマートシティもそのはしりである。「知」の先は「精神」である。

先人の教え

「知」は時代とともに大いに進化するが、一方「精神」はどうであろうか。

福沢諭吉は「学問のすゝめ」の中で、“愚民の上に苛(から)き政府あれば、良民の上には良き政府あるの理なり。故に今、我日本国においてもこの人民ありてこの政治あるなり。”

寺田寅彦は「天災と国防」の中で、“悪い年回りはむしろいつかは回ってくるのが自然の鉄則であると覚悟を定めて、よい年回りの間に充分の用意をしておかなければならないということは、実に明白すぎるほど明白なことであるが、またこれほど万人がきれいに忘れがちなこともまれである。少なくとも一国の為政の枢機に参与する人々だけは、この健忘症に対する診療を常々怠らないようにしてもらいたい。”と書いている。

今回の東日本大震災や福島第一原子力発電所事故の処理のまずさと遅さは、日本の指導者の精神の稚拙さが露呈したとしか言いようのない事態である。

リーダーは五つの顔を持つとも言われる。自分自身の考えを持ち、筋を論理的に組み立て話す哲学者の顔。物事を達成するための戦略家の顔。部下や相手の心の動きをつかみ、動かす心理学者の顔。部下や後継者を育てる教育者の顔。求心力を働かせて、部下をまとめる演出家の顔。

ここ数年の日本国の指導者を思い起こすにつけ、しっかりとした指導者を選ぶことが国民の義務であると痛感する。

知と精神の時代

日本は、今、国難の時代にある。国の借金は膨大なものとなり、少子・高齢化社会との認識は共有しているものの、年金や医療等の社会保障制度改革も遅々として進まない。EPAやTPPの本格的な議論にも入れない。日本企業の海外移転は進み、国内産業の空洞化が一層進んでいる。このような時代であるからこそ、日本が得意とする技術革新(イノベーション)を推し進め、「知」を活用した産業を創造し、グローバルな競争に打ち勝っていかなければならない。

と同時に日本人が古来より持っている大和精神を矜持し、この危機を乗り越えなくてはならない。まさに、一身独立して一国独立する事に他ならない。

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