鳥井 信吾 氏
サントリーホールディングス株式会社 代表取締役副社長
【生年月日】1953年1月生まれ
【学歴】1975年03月 甲南大学理学部卒業
【略歴】伊藤忠商事株式会社を経て
1983年06月 サントリー株式会社入社
1987年09月 同社 京都ビール工場、山崎蒸溜所を経て、大阪工場長
1992年03月 同社 取締役 生産企画部長
1994年10月 同社 取締役 生産第1部長
1999年03月 同社 常務取締役 ロジスティクスセンター長
2001年03月 同社 代表取締役専務取締役 SCM本部長
2002年03月 同社 生産研究部門担当、マスターブレンダー
2003年03月 同社 代表取締役副社長
2009年02月 同社 サントリーホールディングス株式会社
代表取締役副社長(現任)
【公職】
2010年05月 公益財団法人サントリー文化財団 理事長(現任)
【受賞】
2012年01月 デンマーク王国 ダネブロー騎士勲章受章
【関西経済同友会活動歴】
2002年04月 入会
2002年度 幹事
2003年~2011年度 常任幹事
2003年度 地域主権委員会委員長(2004年5月まで)
2003年~2005年度 「水都・大阪」推進委員会共同委員長(2006年5月まで)
2006年度 CSR・企業倫理委員会委員長(2007年5月まで)
2007年~2008年度 環境委員会委員長(2009年5月まで)
2009年度 関西の歴史・文化と観光を考える委員会共同委員長(歴史・文化分科会担当)(2010年5月まで)
2010年度 歴史・文化委員会委員長(2011年5月まで)
2011年度 歴史・文化振興委員会委員長(2012年5月まで)
2012年~2013年度 代表幹事
ウイスキーとワインの共通点は、時間と共に熟成し、生き続けることにある。ウイスキーは、オーク(楢[なら]、日本ではみずなら)の樽の中で5年、10年、20年と春夏秋冬を繰り返し熟成を続ける。ワインは、最初はオークの樽に、その後ガラス瓶に詰め直されて5年、10年、20年とワインセラーの中で眠る。
20年後のある日、ウイスキーの樽を開け、ワインのコルク栓を抜くと、最初の頃とは全く違った芳醇な香と味があらわれる。これが熟成である。それは、青く、すっぱい未熟な果物が赤く、黄色く、甘い香りのフルーツに熟することに似ている。よく熟成した香りは、柑橘の香り、トロピカルフルーツの香り、木の香り、ハーブや薬草の香り、甘い蜂蜜の香りなどなど・・・。
サントリーは、長年ウイスキーやワインの研究をしてきた。最新の分析機器は、ppt(1兆分の1)の単位まで物質の量や動向を明らかにする。しかし、この最新の装置でウイスキーやワインを分析しても、化学記号が人間の香味の感覚と一致する事はなかった。
考えられる理由は二つある。一つは、分析機器の性能がウイスキーやワインに対する人間の感覚に追いついていないという考え方。今の段階では、まだ科学が人間の感覚に負けているということだ。
もう一つは、分析機器の問題ではなく、『そもそも脳の香味感覚のメカニズムは、化学分析で表現できるものではない』という考え方だ。つまり、ウイスキーやワインの香味を物質に置き換えて表すことは出来ないことになる。
実際に酒を造っていると、ウイスキーやワインがどんなものになるか、結果を予想することが出来ない。しかし、この「わからない」ところがおもしろい。山崎ウイスキー蒸溜所では、必ず正月に奈良県大神神社に参拝、『酒造りの無事』を祈る。「苦しい時の神頼み」とまではいかないとしても、やはり「神様にお願い」していることには違いない。
酒造りの不思議なメカニズムをウイスキーでは「風土」と言い、フランス人達は「ワインのテロワール」と呼ぶ。この様に、『酒づくり』とは『文化そのもの』である。