トップページ > 叡智の泉 > ココロのエッセイ「渥美 和彦 氏:わが国に、いま、何故、統合医療が必要なのか」

 
わが国に、いま、何故、統合医療が必要なのか

渥美 和彦 氏
日本統合医療学会理事長/東京大学名誉教授

【略 歴】
昭和3年9月25日生(大阪)
S29年3月 東京大学医学部卒
S30年4月 東京大学医学部付属病院木本外科において心臓外科を専攻し、人工臓器や医用工学の研究に従事
S39年5月 東京大学医学部医用電子研究施設助教授
S42年1月 東京大学医学部医用電子研究施設教授
H元年3月 東京大学定年退職、東京大学名誉教授
H2年5月 日本工学院専門学校校長に就任
H3年7月 第15期日本学術会議会員
H6年7月 第16期日本学術会議会員第七部長
H7年3月 日本工学院専門学校退職
H7年4月 鈴鹿医療科学大学学長に就任
H10年11月 鈴鹿医療科学大学退職
H10年12月 日本代替・相補・伝統医療連合会議(JACT)理事長
H12年7月 第18期日本学術会議会員
H12年12月 日本統合医療学会(IMJ)代表

【主な賞】
S41年 朝日学術奨励賞(朝日新聞社)
S57年 アメリカレーザ医学会賞(アメリカレーザ医学会)
S63年 バイオマテリアル科学功績賞(日本バイオマテリアル学会)
H3年 日経BP技術賞(医療部門、日本経済新聞社)他多数

【役 職】
国際人工臓器学会 元会長
国際レーザー医学会 名誉理事長
日本レーザー医学会 元会長
日本サーモロジー学会 元会長
日本生体磁気学会 元会長
日本エム・イー学会 元会長
日本人工臓器学会 元理事長
日本医療情報学会 元副会長

【主な著書】
人工臓器(東大出版会, 1970年)、医用サーモグラフィ図譜(医学書院, 1971年)、医療情報システム総説(企画センター, 1973年)、人工臓器─人間と機械の共存─(岩波書店, 1973年)、レーザー医学─基礎と臨床─(中山書店, 1980年)、バイオメディカルエンジニアリング─21世紀のMEを探る─(オーム社, 1984年)、医学これからこうなる(集英社, 1986年)、シリーズ1990 人工臓器─不老不死の時代は来るか─(東京書籍, 1987年)、人工心臓─未知なるミクロコスモスへの挑戦─(三田出版会、1989年)、人工臓器─生と死をみつめる新技術の周辺─(NHKブックス、1996年)、バイオメーション─21世紀の方法序説─(清流出版、1998年)、統合医療への道─21世紀の医療のすがた─(春秋社、2000年)、代替医療のすすめ─患者中心の医療をつくる(日本医療企画、2001年)、自分を守る患者学─なぜいま「統合医療」なのか(PHP新書、2002年)、統合医療がよくわかる「老い方上手」(PHP研究所、2009年)など他多数。


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新しい理想の医療・統合医療

最近、我が国のみならず世界各国では医療崩壊の危機が叫ばれており、医療改革を求める国民の声もいよいよ高まってきている。確かに、近代西洋医学は、この200年の間に次々と発見・開発された新しい科学技術の導入により著しい進歩を遂げ、各種疾病の治療や予防に大きく貢献してきた。しかし、“心の癒し”や“個々の医療におけるQOLの向上”など、個人のニーズには必ずしも応えることができなくなっている。

そこで、米国において検討されたのが、鍼灸、指圧、マッサージ、カイロプラクティック、ハーブ、ヨーガなどの相補・代替医療である。しかし、これらは近代西洋医学を“補完”する役割は果たすことができても、“代替”することはできないことが判ってきた。そこで、新しい理想の医療の考え方として登場したのが、近代西洋医学と相補・代替医療、それに伝統医学を加えた“統合医療”という概念である。

ここで、統合医療の定義をあげてみると、
1)患者中心の医療
2)身体のみならず、精神、社会、さらにスピリチュアリティなど全人的医療
3)治療のみならず、むしろ疾病予防や健康増進に重点を置く医療
4)ヒトが生れて成人し、老化し、死ぬまでの一生の包括医療
などである。

米国で進む統合医療の研究

1981年、ハーバード大学のアイゼンベルグ教授が、『米国民の代替医療に関す利用実態を調査したころ、国民の1/3が既に代替医療を利用している。』という報告を行った。この報告に外科医でもある一人の国会議員が関心を示し、議会に働きかけて、米国の国立健康研究所(NIH)に、代替医療の調査室が設置された。このNIHが調査した結果、更に米国民の代替医療への関心と利用割合は高まる傾向にあり、1985年には、その利用率が40%を超えていることが判明した。

その後、NIHは、代替医療研究のための予算を増加するとともに、研究所内に、「国立相補・代替医療研究所」を設置した。また、この動きを受けて、ハーバード大学、コロンビア大学、スタンフォード大学、アリゾナ大学、ジョーンズ・ホプキンス大学、ミシガン大学などの13の大学に、統合医療センターがつくられ、研究費が支出されるようになった。これらの研究費は年々増加しており、2005年には年間、約400億円にも及び、遂にはホワイトハウス内に“代替医療に関する大統領委員会”が設置されるに至り、政府が、その教育・研究の奨励、および関連企業の育成など、統合医療の推進および運営に積極的に関係するまでになっている。

欧米には多くの国立統合医療センター

このような代替医療、あるいは統合医療の国立研究所が英国、ドイツ、スイス、オーストリア、ノルウェー、スウェーデンなどのヨーロッパの各国に設置されるようになった。最近、この傾向はアジア及びアラブにも及び、中国、韓国、インド、タイ、マレーシア、ドバイなどに国立統合医療センターが開設された。すなわち、欧米、アジアなどの諸国は、国策として統合医療を支援しているのである。

わが国における統合医療の推進

わが国では、従来、漢方、鍼・灸、ヨーガなどの分野において、伝統医学や代替医療が行われていたが、近代西洋医学と比較して、必ずしも重要視されていなかった、と言える。そこで、われわれ統合医療に関係する者は、統合医療を実現するために、下記の如き、いくつかの提案を行ってきた。

1)統合医療の地域モデル
2)統合医療の国家研究プロジェクト
3)統合医療センターの創設
4)統合医療大学の構想

そして、この他に統合医療を推進するための支援組織の設立に努力してきた。
先ず、各種の学術関連の約20の諸学会を糾合し、『統合医療を推進する学術連合(代表、渥美和彦)』が組織され、次いで、85人の議員から成る『超党派の議員連盟(代表、綿貫民輔)』が組織された。さらに、『文化人・企業の会(代表、中條高徳)、最近は、市民団体(代表、梶原拓)』などの合計、4団体が支援団体として組織された。現在は、これらが4位一体となって、統合医療を強力に推進している。

統合医療実現に向けて

ここで、統合医療の実現のための具体的方策を提案したい。

1)医療特区を設定し、問題点を明白にする。
先端医学センターを核として、周辺に代替医療、伝統医療などの施設を置き、統合医療による患者の臨床にあたる。そして、安全性、有効性、費用対効果、各代替療法施術者・提供者の資格問題、現状の医療体制への導入する際の問題、医療政策の改革などを検討する。
2)既に世界においては統合医療に関する有効性、安全性、経済性などの研究が国家レベルで行われており、これを踏まえ、我が国においても国家的研究プロジェクトを推進する。
3)国立統合医療センター
統合医療を実践する全国の施設の連携を図り、更に人材、技術研究報告などのデータベースを構築すると共に、国際交流を行い具体的政策立案のためのデータを整理する。
4)医科大学に統合医療学部、学科を新設する。
人材を教育するために、教育、研修、研究の場としての充実を図る。

国民のニーズを満足させ、全人的医療が行われ、予防、健康の医療の方向を目ざし、更には医療費が節減されるということになると、政府も真剣に“統合医療”の推進を検討する必要を認識すると考えている。

去る1月5日に『国家ヴィジョン研究会』の一員として、鳩山総理との会見の機会を得て統合医療推進の必要性を訴えた際、総理から「統合医療を推進するという渥美先生の意向に沿って、政府の中枢に伝える」という非常に有意義な回答を得るに至った。鳩山総理の方針は1月28日、参議院予算委員会劈頭に山根隆治委員(参議院議員)から為された統合医療に関する質問の答弁にも明確に現れており、質問を受けて総理が「推進する」と答えられ、次いで長妻厚生労働大臣が「省を一括して推進の体制を取り、本年度予算で国家予算を計上する」との回答を得た。

更には、1月29日の国会本会議における総理の施政方針演説で明らかにされた“いのちを大切にする予算”という素晴らしい展望の中で“統合医療を推進する”との明確なお言葉があった。

我々の全国の統合医療関係者は漸く“統合医療の時代来る”をひしひしと実感し、私の元に多くの激励と決意のメッセージが寄せられている。

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