トップページ >  インフォメーション  > 第1回夢洲新産業・都市創造セミナー『いのちを響き合わせる未来社会の共創~2025大阪・関西万博に向けて』開催報告

第1回夢洲新産業・都市創造セミナー
『いのちを響き合わせる未来社会の共創~2025大阪・関西万博に向けて』開催報告

2020年10月7日

第1回夢洲新産業・都市創造セミナー「いのちを響き合わせる未来社会の共創~2025大阪・関西万博に向けて」を、2020年8月3日(月)、Zoomウェビナーによるオンラインにて、一般社団法人夢洲新産業・都市創造機構主催で開催いたしました。
開催直前の告知にも関わらず、経済界、学界、医学界、経済団体、行政機関等から300名を超える方々にご参加いただき、盛大に開催できましたことを厚く御礼申し上げます。

開会のご挨拶

井垣 貴子
一般社団法人夢洲新産業・都市創造機構 理事・事務局長
本日は第1回夢洲新産業・都市創造セミナー「いのちを響き合わせる未来社会の共創~2025大阪・関西万博に向けて」にご参加戴きまして、誠に有難うございます。
一般社団法人夢洲新産業・都市創造機構は、2018年6月から活動してきた夢洲新産業創造研究会が成長し、2020年3月に一般社団法人を設立し移行し、新型コロナが深刻化する時期と重なりましたが、御蔭様で現時点で法人会員が106法人を超え、5つの部会に520名を超える会員が登録され、主にオンラインで活発に活動を進めております。
当機構が注力しているテーマは、2025大阪・関西万博のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」「SDGs達成への貢献」「Society5.0の実現」等です。このミッションを指針に、いのち輝く未来社会を実現するために、産学公が志を共有し、オープンイノベーション拠点を構築し、知恵、技術、リソース等多様な連携、共創による新産業創出と未来都市創造を促進し、グローバルイノベーションエコシステムの形成を目指しています。
折しも先月13日に、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会様が、大阪・関西万博の会場デザインプロデューサー、会場運営プロデューサー、テーマ事業プロデューサーを決定されました。大阪・関西万博のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」を実現するため「いのちを高める」「いのちを響き合わせる」など、8つのテーマ事業を設け、テーマ事業プロデューサーは、この8つのテーマ事業を、パビリオンでの展示やイベントを通じて表現されます。
こうした流れにいち早く共鳴し、当機構において主に大阪・関西万博に関連するテーマで夢洲新産業・都市創造セミナーを継続開催する運びになりました。7月13日にプロデューサーが公表された僅か約半月後の本日、宮田先生に来阪戴き、第1回セミナーを開催できますことを、宮田先生はじめご登壇者様に深く感謝申し上げます。
それでは、第1部の講演を始めさせて戴きます。ご講演頂きますのは、慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授で、「いのちを響き合わせる」をテーマに、大阪・関西万博テーマ事業プロデユーサーにご就任されました宮田裕章先生でございます。宮田先生は、東京大学大学院医学系研究科教授などを歴任され、多くの要職に就かれ、データサイエンスなどの科学を駆使して社会変革に挑戦し、現実をより良くするための貢献を軸に研究活動を行っていらっしゃる大変著名な先生でいらっしゃいます。
また、座長をして頂きますのは、大阪大学大学院医学系研究科外科学講座心臓血管外科学教授で、心臓の再生医療で世界をリードされていらっしゃいます澤芳樹先生です。澤先生は一般社団法人日本再生医療学会理事長、一般社団法人医療国際化推進機構理事長、一般社団法人inochi未来プロジェクト理事長等多くの要職に就かれています。
世界中が新型コロナウイルスに直面し、予測できない不確実な未来に向かって生きていかなければならない今、人々は「いのち」の尊さを深く受け止め、社会や経済はまさに“いのち革命”“いのちの新世紀”“いのち産業”の歯車がハイスピードで回り始めています。本日のセミナーが、“いのちの新世紀”を切り拓く“いのち革命”を触発し、いのちと響き合う“いのち産業”と“いのち未来健康都市モデルを、関西から生み出し、世界80億人の「いのちを救い、力を与え、いのちを繋ぐ」2025大阪・関西万博に貢献する一歩になれば幸いです。
それでは、宮田先生、澤先生、宜しくお願い致します。

第1部 講演

講演テーマ:いのちが響き合う”いのちの新世紀”へ 宮田 裕章氏
慶応義塾大学 医学部教授
大阪・関西万博 テーマ事業プロデューサー 担当テーマ:「いのちを響き合わせる」
今日はお招きいただきまして有難うございます。私の医学におけるキャリアは、心臓外科とのコラボレーションから始まっており、澤先生にはかれこれ10年以上、この領域でお世話なっております。また、この心臓外科全体をリードされる澤先生には非常に敬意を感じており、今回このような形でコラボレーションさせていただくことを大変光栄に感じています。
私からは、この大阪・関西万博のテーマと関連付けて「いのちが響き合う」「いのちの新世紀」とは何かお話させていただきます。50年前の大阪万博では、多くの人の記憶に何が残ったかというと「月の石」や「太陽の塔」と言う声が多いでしょう。では「月の石」は振り返って考えると、どのような意味を持っていたのでしょうか。当時は海外旅行等に一般の人が行けるようになり、人々が国境を越え始めました。そんな中大阪万博に来て「月の石」を見ることで、国境を越えた関係だけではなく、地球という単位で自分達を認識出来たのです。「月の石」を見た瞬間に「我々は同じ地球に生きてるんだ」という認知のパラダイムシフトが起き、それはすごく大きなシフトになっていたのではと考えます。
そして、もう一つが「太陽の塔」です。世界全体が文明、あるいは技術こそ全てだという中で、岡本太郎は命の輝きを示し「芸術は爆発だ」と表現したのです。文明信仰論に対して真っ向から、ある種、命を中心にした軸を打ち立て、多くの人がそれに心を動かされたのです。これは大阪・関西万博にも繋がるテーマになるのではと思います。
大阪・関西万博の来場者には勿論お祭り気分を味わってもらうことも大事ですが、万博を世界観を変えるような体験に出来るかが、我々の大きな勝負だと思っています。今、時代はどういう転換点を迎えているのでしょうか。世界は今、コロナウイルスをきっかけに大きな転機を迎えています。死者数だけだと日本自体まだ少ないので実感がない方も多いと思いますが、経済も含めるとこれは本当に未曽有の出来事です。世界恐慌より厳しいとも言われています。GDPの4月から6月期の各国の結果が、マイナス数十パーセントという世界恐慌レベル、あるいはそれ以上と出ています。これは100年に1度の出来事なのは間違いありません。
例えば今のアメリカの状況として、リーマンショックの時の失業保険の申請人数を遥かに超える天文学的数字の申請があります。このグラフでは1600万人が失業保険を申請したとあります。しかし、その後2020年4月だけでも4200万人が失業保険を申請しました。とんでもない状況に今、各国がなっています。そして、アメリカが直面しているのは経済的な格差だけではありません。彼らが今、もう一つ直面してるのは「Black Lives Matter」です。これは、アメリカが建国時から抱えてきた人権の問題です。独立宣言の際、奴隷制の批判が削除され、そして権利章典にはアフリカン・アメリカンの権利は書かれていませんでした。つまり積み残してきた建国時からの課題です。この問題に向き合わないと先に進めないという、退路のない変化に入ってます。
もう一つの事例がドイツです。先日EUは保障へ合意しましたが、ドイツ一国だけでも国家予算の4倍の保障を積み上げています。端的に言うと、子ども達の未来をある程度担保に入れて、犠牲にしてでも現在を取るという選択をした国もあれば、あるいはスペインのようにベーシックインカムの議論が始まっている国もあります。このように世界は今、間違いなく退路のない変化に入っていると言えます。つまり、大阪・関西万博は、こういった退路のない変化に入った世界、これからの社会がどうなっていくのか、その未来を見せなくてはいけません。
そしてもう一つ、この今回の一連の変化が不可逆である理由は、第4次産業革命、あるいはデジタルトランスフォーメーション、そして日本では「Society5.0」と言われるものに起因します。古くはアルビン・トフラーが提唱したように農業革命や産業革命、情報革命と言われていました。現在では情報革命の今までの30年間、数十年間は単なる序章に過ぎず、ここから先の10年が世の中の構造を決定的に変えると言われています。
その序章として、例えば今、経済がどうなってるのか見てみましょう。20世紀に世界をずっとリードしてきたのはエクソンモービルやロイヤル・ダッチ・シェル等の石油企業でした。いわゆるモノを扱う企業です。この石油メジャー企業が時価総額のトップを走ってきたのですが、2013年にGAFAの4社が抜き去り、その後時価総額が数倍になっています。そして、このコロナ禍における2020年4月、東証一部上場企業全ての時価総額を足しても、このGAFAにマイクロソフトを足した5社の時価総額に及ばない程になりました。それだけ富の独占、寡占が進み、世界は新しい資源によって回り始めています。データで回り始めてるということが言えるのです。そしてコロナ禍において、今までのエビデンスのスピードだけでは追い付かなくなりました。「マスクが効く・効かない」という論争は以前からあり、WHOがマスクの効果を認めたのは2020年5月末でした。日本はそれ以前より、花粉症に対する耐性から多くの人がマスクを着用していましたが、ドイツや台湾は実は2020年3月の時点で公共交通機関でマスク着用を義務付けていました。世界のエビデンスが追い付く前に自分達でデータを採り、必要な対策をどんどん行ったのです。
そして、私自身が3月、4月の第1波といわれる感染拡大期においてどんな取組をしていたかお話します。日本は自粛の一環として、まず休校措置を行いました。それで政府は交通量の減少を把握し、上手く行っていると考えました。一方、フランスのロックダウンの結果を見ると、交通量といわゆる飲食を含む娯楽施設の量が両方ドンと落ちています。日本・東京は交通量は落ちていましたが飲食は落ちなかったのです。木曜日、金曜日になると、むしろ例年通りになります。ここを抑えることができなければ感染は止まらないということで、Googleと連動しながら実態を把握し、LINEと連携をして8300万人の方に調査を4回行いました。そして、2500万人ぐらいから毎回データを集めさせていただきました。この調査でも、やはり一般の職に比べて飲食店、あるいは対人接客を含むサービス業、外回りの営業に携わる人たちの感染リスクは数倍でした。ここを抑えないと感染は収まらないとの方針で対策を行いました。一方、ステイホームをしてる人達は、リスクが高い東京であったとしても発熱率が大きく広がっていません。
このようなデータを踏まえ、第1波に対する対策を打っていましたが、データが集まっていなかった第1波の頃は、世界中、何をすれば効果的か分からなかったので、とにかく経済を止めて自粛するしかなかったのです。大事なのは、この数カ月で世界中がデータを蓄積して分かったように、有効な対策やリスク管理をして検査を適切に行えば、経済止めなくても感染を抑える可能性があることです。これは実効再生産数を改めてチェックをしたのですが、第1波のとき一番感染があったのは、やはり飲食、外回り営業のアクティビティだったのです。このような所に対して適切なリスク対策を行うべきと、チェックリストを配布しました。ただ、残念ながら経済を早く開けなければいけないので、海外と比較してこの辺りを十分対策をしないまま経済を動かしてしまったのが今の日本の現状であります。
例えば、ベトナムはこういったガイドラインを適切に行っているかどうかをチェックをし、それが守られてないと工場等は営業させません。そのため、ここからの日本は、こういった対策をきめ細かく打たなくてはならない。ステイホームは非常にシンプルな指示なので曖昧なお願いでも通じました。しかし3密をどう回避するかは、業種ごとに全くやり方が違います。業種をきめ細かく分けられるかどうかが一つの勝負と考えています。政府はガイドラインの実施状況をチェックするなど、そういったことも行っていますが、ここまで広がると、もしかしたら通常のガイドラインだけでは間に合わないかもしれません。営業時間の変更等も手を打たなくてはいけない。ただ実態がないことなので、現在、第5回のLINE調査を企画しています。
今、家庭内感染が多く出始めていますが、実際、若い年齢層だけの中での感染に留まっているのか、市中にどれぐらい広がっているのかはデータを採らないと分からない。そのためこういったデータを踏まえて対策をしようという取組を、私は今行っています。このような現実にコミットする実践を行いながら、社会変革のビジョンを考えていく。私は医療以外の領域も含めて、科学でどう社会を良くしていくかが専門です。
そうした中で、データの重要性が世界中で認識されています。ここで中国の事例を紹介します。今までの銀行は、融資先のデータだけを持っていました。しかもお金の取引だけなので、ある程度データを集めても一定でプラトーに達していたのです。しかしどのような変革が起きたか。公共料金の支払い等、様々なデータをアリババやテンセントという企業が集めることにより、お金を貸して返ってこない確率が10分の1まで少なくなったのです。そうすると、もう既存の銀行は勝負にならず、この2社のようなデータを持っている企業の支配下に入っていく。このような現象があらゆる業界で起こり始めるのです。
もう一つ中国の事例を紹介します。今までの保険は、契約証書を渡した後は解約されないように上手くステルスを効かせて距離を取るのが一つの王道でした。平安保険はそうではなく、アプリをインストールさせ、病気になった時に最善の医師にかかれるよう病状に合わせて紹介し、そして治癒までコミットします。あるいは、そもそも病気にならないように普段からサポートも行います。こういったサービスを展開することにより、彼らは今、世界一の生命保険会社になりました。
このコロナ禍において大きく躍進したのが、Amazon.comやNetflixですが、彼らはデータを使って個別のアプローチをしています。今までは、例えばハリウッドであれば、白人の若者に受けるものを作れば映画館をいっぱいに出来ると考えられていました。そうすると妥協が必要であり、作品として雑なものになってしまいます。そうではなく、Netflixはデータで一人ひとりの個の特徴を把握していきました。例えばニューヨークに留学に来たインドの学生が苦労した話や、LGBTの方から世界がどう見えるのか、あるいは寿司職人の研ぎ澄まされた感性などです。今まで、そういったものは映画館を満員にできなかったので、コンテンツ産業から落とされていましたが、データで個をつかんで体験を届けることによりビジネスとして成立するようになりました。そして、クオリティーを妥協する必要がないので質が高いのです。アウェーであるアカデミー賞まで取ったというのが「ROMA」という作品です。
今までは、データを見てマーケティングするよりも、職人・プロフェッショナル達が「良い」と思うものを作ることが良いとされていました。私自身も数年前までそう思っていましたが、これが決定的に変わりました。最高の品質を追求するために、体験を捉えて届けていかなくてはいけないと世界が気付いたのです。これが一体何を意味するのでしょうか。今までは「最大多数の最大幸福を実現する“モノ”」を提供してきました。データを使うことによって、各個人が何を大切にするのかというのを捉えて、個別化でエンパワーメントをして、そして、誰も取りこぼさないということが出来るようになるのです。
医療に関しては既にプレシジョン・メディシンが始まっています。例えば、行政においては給付金の話が新しいかなと思います。当初は、勾配を付けて30万を給付する案でした。その方針は正しかったんですが、当時、日本がデータを活用できなかったため、一律に10万配るしかありませんでした。しかしこの時、理想的に、データがあれば何ができたかというと、一人ひとりの経済、収入が傷んだ人たちを的確に捉えて30万、あるいは時にはもっと、もしくはそれ以外のサービスを状況に合わせて充てていくことが出来ました。あるいはマスクも同じです。個別最適解だと在庫をたくさん持ってた方が良いので、不安だからマスクを買い込んでしまいます。例えば行政側で在庫管理がある程度できれば、高齢者や持病を持ってる人、学校や医療機関等に優先的に提供しながら、同じ在庫量でもちゃんと行き渡る運用が出来るのです。これがやはりデータの一つの力なのです。この行政の役割、そして社会のサービスがここから徹底的に変わっていきます。
こうしたイノベーションは、今までは起こらないと、そんな時代は来ないと言われてきました。しかし、このコロナ禍によって、状況は大きく変わったのです。テレワークはその最たる例です。テレワークを今までやろうとすると、対面に対して、それ以上の価値を証明しなくてはならず、証明したとしても手続き上できない、となっていました。これがコロナ禍で、特に大都市部である大阪や東京で一気に広がりました。このグラフは都道府県別のテレワークの実施割合を表しています。4月2日、4月7日、4月12日のたった5日刻みですが、緊急事態宣言を挟んで数十パーセント伸びたのです。通常、数年かけて広まる流れがこの1カ月、2カ月の間で一気に来たのです。そして、これは日本だけではなく世界同時に起こっているのが特徴です。
今後ニューノーマルや新しい日常と言われた時に、何を考えなければいけないかというと「テレワークや遠隔教育、遠隔医療や遠隔の会議によって何が出来るのか」という事です。対面の補完だけで考えると、劣化にしかなりません。例えば教育の観点で話してるのは「今まで子どもたちを一定数・3密空間に押し込んで授業をしてきたが、それが本当に素敵なノーマルでしたか」という問いです。確かに忍耐強い軍隊作るためには最高の教育かもしれません。以前から文科省が提唱しているイノベーション教育はそうではなく、自分で問いを立てる力が必要なのです。我々大学教員が自戒を込めて言いますが、詰め込み型の教育であれば、日本に今、名人が5人から10人いれば、その方が圧倒的に良いのです。遠隔教育では1人だと腐敗してしまうので、ある程度のチームで切磋琢磨していくとなった時に、教師が不要になるのではありません。教育の本質は「一人ひとりの子ども達の将来を見据え、どういうサポートをすれば伸びるのか。この子の可能性を社会の中で開くためにはどういう教育、学習が必要なのか」を一緒に寄り添って考えることです。例えばそれは、コーチングや、地域の中に出て行って、色々なお祭りを盛り上げることや、老若男女と交わりながら商店街を活性化させるという問いを一緒に企画を立てていくことかもしれません。今後こういった教育にシフトしていく必要があるのではないでしょうか。やはりコロナを機会に、世界中は今、パラダイムシフトしています。昔のノーマルを懐かしがることも勿論大事ですが、新しい選択肢が生まれたことにより、本質は何なのか考えた上で一歩踏み出していくというのが今、全産業で求められています。私自身は今、こういった取り組みを色々な分野の方と一緒にしています。
その中で、あらゆる産業がこれから変わっていきます。金融や医療、生命保険や教育、そして製造業も変わります。農業も変わっていく。その中でやはり重要な要素となっていくのは、データなのです。データ駆動型社会の第1陣は独占と富の集中でした。先ほどお話したように、GAFAに世界中の富が集まっていますが、これも今、変わり始めています。事例として、EUのGDPRが挙げられます。これはデータにアクセスする権利を一人ひとりが持つ仕組みです。ただ、これには実は限界がありました。なぜなら、一人ひとり、個人の同意に基づいて使ってしまうと、逆に経済が止まるからです。データの価値とは、1人のデータ、これを1万人のデータに足すと、例えば良い医療が受けられるというものです。つまり、1万人が10万、100万、1000万になると、全体としても良い医療が受けられるとなります。データとは本来、共有財である事を医療のGDPRは見落としていました。
今、EUではデータ共有権を新しく確立し、そして世界を動かしていこうとディスカッションをしています。富を争って競争するのではなくて、共有できる新しい資源の中で「CO-CREATION」していく。これがこれからの経済においても重要になっていくでしょう。資本の論理で独占すると、アルコール依存症の方に「儲かるから」とアルコールを勧める等の事例が起きます。アメリカの前回の大統領選挙の際に起きたケンブリッジ・アナリティカ事件もその一つです。これは、投票行動を一番操るのに効果的なのは人の怒りであり、そこでFacebookのプロファイルを読み、対象者が何に怒るのかというのを明らかし、フェークニュースで焦点を当て人を操作するというものです。そして、中国の方針も挙げられます。確かに中国の最小不幸社会は、今回のコロナ禍においても非常に上手くコントロールされています。しかし、命の輝きを考えてた時に本当に良い解答なのかどうなのかと疑問もあります。最小不幸がクリアされた先に多元的な幸せがあるとすれば、良い回答ではないんだろう、という事も言えるのかもしれません。
「大阪トラック」を、昨年大阪で開催されたG20で打ち込みました。これは新しいデータガバナンスの在り方やデータ共有権、そして世界とCO-CREATIONするものです。今、世界経済フォーラム、そして日本政府とも話をしているのは、大阪・関西万博に向けて世界と一緒に新しい価値をつくり、それを大阪・関西がリードできるのではという事です。つまりデータを共有財として、世界各地の素晴らしい個性、それぞれの地域が大事にするものと響き合わせながら新しい社会をつくっていこうという考えです。
その中では如何にデータを共有していくかが非常に大事です。PeOPLeは厚労省に3年前に打ち込んだ、人を軸にした情報基盤です。今までデータは、企業が自治体、国が所持していましたが、人を軸にして人を介すことにより、そこに説明責任が生じ、企業側も信頼に応える事が必要になります。これが当初は絵に描いた餅だと批判されたのですが今はWHOの基準になり、そして、アメリカも来年度からこのような方針で、全ての医療情報を国民が見る事が出来る旨の宣言を今年3月にホワイトハウスが行いました。

この情勢で、社会が今後どのように開けていくのかでしょうか。今までの医療データは病院にあるものでしたが、これからはスマートフォンやIoT等を活用して、あらゆる領域からデータを活用出来る様になります。今まで医療分野は、特に急性期の疾患を中心に診ていました。もちろんここは今後も大事です。一方で、例えばフレイル、認知症に日本は年間15兆円の公的なお金、私的なお金を支出しています。これらはなった後に治すのはすごく難しい。ただ、かかる前であれば少しずつ改善の可能があるのです。これはフレイルになった方の死亡率がどう上がるかというデータです。世界的にも、平均歩行速度が秒速0.8メートルを切ると一気に死亡率が上がるのです。でも、この状態になってから治すのは非常に大変な事です。実際はどこから悪化しているのかというと、秒速1.7メートルぐらいから徐々に悪くなっています。しかしその程度であれば、自分で努力をすれば改善するのです。今まではそのようなデータがなかったのですが、最近ではそのデータがスマートフォンにあるんですね。
例えば「ポケモンGO」を健康目的に使用する事は今までなかなか成功しませんでした。健康目的で参加するのは1割程で、9割の方は関心がないのです。ただ、健康目的で生きてはいなくても、楽しい人生を送りたいという考えはその人それぞれにあります。80歳を超えて山登りがしたい方もいれば、若い人と一緒に楽しくおしゃべりをしたい方もいると。前者に必要なのは健康な足腰で、後者に必要なのは様々な情報に触れながら脳を活性化する事です。健康そのものを目的とするよりは、その人の生きがい、命の輝きを支える中で、いかに自然に健康になれるかが大切なのです。このチャレンジの一つがポケモンGOで、ある機能を開発してこれが今、ユーザーが持続するようになってきてます。ポケモンGOは世界中の10億人がダウンロードしているアプリケーションなので、ユーザーが少しずつでも健康になれば世界は変わるかもしれない。そして、次は「Pokemon Sleep」を発表しました。
そして、食べることも関わってきます。かつては一瞬の快楽をいかに動かせるかが重要視されていました。これでは体がもたないとなり、胃に優しい「ヌーベルキュイジーヌ」が出てきました。そしてここ数年、世界を席巻してるのは「ニューノルディックキュイジーヌ」、つまり地産地消です。これも素晴らしいのですが、今後データを使ってするならば「Wellbeing・キュイジーヌ」でしょう。例えば本来外食は、料理を一つひとつ作るため、本来テーラーメードなのです。しかし、体格が違う人や運動直後で栄養を必要としている人、ダイエット中の人や長旅で疲れている人、この人達に同じメニューが必要なのでしょうか。データを組み合わせることにより、その時々の最善なものを提供し、そういった食体験を積み上げる中で、美味しく、体に負荷がなく、自然に健康になるのではと考えています。そしてうめきたのアドバイザーとして、関連する取組みをヤンマーさんを始め、様々な企業とやっています。
スポーツも同じくで、様々なエンターテインメントと健康、命を繋ぐ事で新しい産業がこれから開けてくるだろうと考えています。そして、世界のテックジャイアント、GAFAといわれるような巨人たちも変わり始めています。Googleとの「AI for Social Good」という事例をご紹介します。これは、まず人々に貢献して、そして富を回そうというものです。新型コロナウイルスやWELQ事件など不測の事態があった際、世の中に良質な情報がないとGoogleはいいデータは届けられないのです。特にコロナに関しては、グレーゾーンほど、知識のある人が意見を言わないのです。そうすると、玉石混交の石しかないので、何も分からない人が来ると、その石を信じてしまいがちになると。やはり専門家とディスカッションしながら玉を送ることが大切なのです。「これは駄目だ」という説を置きつつ検索を回していかないと、社会はより良くならないだろうと、そのようなプロジェクトを始めています。
これは医療だけではなく、今後いろいろなところに展開出来ると「AI for Social Good」という合言葉で活動しています。その取り組みは今MicrosoftやAppleも同じように始めています。Appleは「もし将来、過去を振り返った時にAppleが人類のために果たした最大の貢献はなんだったかと問われたら、それはきっと健康に関すること、と答えるだろう」と述べ、ヘルスケサービスを立ち上げています。
「Society5.0」の軸になりますが、万博でも「Saving Lives」をサブテーマに掲げています。病院対コミュニティだけではなく、世界との連携により、いつでもどこでもサポート出来る事や、あるいは感染症についても大事でしょう。生活習慣病対策も大切ですが、加えて生きるを再発明すると。「Empowering Lives」や「Connecting Lives」に関しては、魅力的な生き方が自然と健康に繋がる事が、若い世代や高齢世代だけではなく、疾病や格差があっても誰もがその人らしく生きていける。そういったものを実現していこうと考えてます。
そして、社会ビジョンそのものもこれから変わり始めています。ドイツのメルケル首相はコロナウイルスに感染する人が1.1人だと秋まで耐えれるが、1.3人だと1カ月で医療システムの限界に達し、国が駄目になると述べました。同じことが今の日本にも言えるでしょう。人から人に感染するスピードがどれぐらいかにより、日本が一気にはじけるのか、この状態を持続するか違ってくるのです。今まで社会は、一部の物事をよく理解した人達を軸に変容していたのですが、コロナに関しては格差が要因です。いわゆる夜の街を攻撃し続けても何も変わらなかった。そこにいる人達もインクルージョンして、どういう社会をつくっていくかを考えなくてはいけない。そういった繋がる世界というのは、もう既に始まっているのです。命を消さないという「SDGs」は素晴らしい出発点ですが、ミニマルに命を消さないだけではなくて、経済や教育、格差と自由も大切な観点です。コロナで明らかになったのは経済合理性や命が消えないという事だけではありません。経済を回しながら命の輝きや子ども達の教育の機会をどう守るか、そして環境をどう守っていくかです。様々な軸の中でこの社会を回していく。このような事を考えていく必要があるだろうと私は考えます。
今まではこれは綺麗事だと切り捨てられていました。今はそうではないという、幾つかの事例を紹介します。まずフランスでは、環境に取り組まない企業を国が徹底的に規制する方向になりました。そしてもう一つはデジタルマネーです。Facebookが「Libra」というデジタルマネーのサービスを発表しました。これが上手くいけば、彼らは時価総額10倍以上の人類史上最大の企業になり得るんですが、そうはならなかったのです。信頼がないとデータを扱わせてもらえない時代に入っているからです。一方で、中国は今、デジタル人民元を打ち出しました。そして、スウェーデンのeクローナというデジタル通貨が生まれ、間違いなくこれからはデータの時代と言えます。そして、このデータの質が国の力そのものになっていくのです。信頼をいかに紡ぐかという中で、社会を回していかなくてはいけないのです。
そして、資本主義そのものも変わり始めています。今までは「お金より大事なものはある」と言えど、それがなかなか共有できなかったのです。しかし現在中国では、信用スコアというものがあり、信頼がある人はお金が無くても良い学校に子どもたちを入学させられるようになっています。そうすると、社会を回す軸そのものがもう変わり始めるのです。ノーベル経済学者のジョセフ・E・スティグリッツやアマルティア・センは、もうGDPの時代は終わったと言っていました。つまり「物の所有では豊かさは測れない。命の輝き、Wellbeingだ」と述べていたのです。今、この繋がる世界では、1人が「Wellbeing」でもしょうがない。「Wellbeing」ではなくて、「Better Co-being」が大切なのです。やはり、人々が繋がる中でお互いの命が輝くことが重要です。「Better Co-being」を考えたときに、それは1人ではつくれないと分かります。ある一集団だけが幸福なのではなくて、様々な人達の命を輝かせるためには、やはり「Co-creation」で新しい社会をつくれるかが重要なのです。
つまり「Society5.0」の本質は何でしょうか。今までは人々は、前近代は神や王の下で、封建社会の中で生きることが定められてきたと。それがペストで徹底的に揺らいで経済に移っていきました。経済合理性の中で、人々が歯車として人生を捧げるという社会になってしまいました。2025年に「Society5.0」を掲げる日本が世界に何を示していくかというと、一人ひとりの命が響き合う社会でしょう。「Human being」から「Human Co-being」になるのです。経済が先にあり人々が生きるのではなく、一人ひとりの生きることが先にあって、そしてその命、生き方を響き合わせながら多様な社会をつくり、その社会の中を共に体験する中で人々が輝く世界です。この「Human Co-being」の中で、一人ひとりが繋がりながら一緒に社会をつくっていく事を考えたいのです。
うめきた2期のコンセプトは、所謂「枯れ山水」をテーマにしています。ビルのそれぞれは、実は石をモチーフにして出来ていると。その心は何かというと、今までの世界のビジョンやグランドビューは、王等の権力者から見たビューが最高になるように設計されていました。つまり正解になるビジョンがあったのですが、ここではそうじゃないのです。龍安寺の石庭の様に、どこから見ても石が1個欠ける、つまりどれもが正解であり正解でないということです。この街の中の参加する一人ひとりのビジョンが正解であり、そういった生き方が響き合う中で新しい価値、体験が生まれていくのです。まさに命輝く社会を軸にしながら街づくりをし、そうすることで、一人ひとりの「生きる」に繋がります。
例えば食べるということも、社会に影響を及ぼします。フードロスを出さないことで環境に対する貢献が出来るかもしれない。過不足なく食べることで自分自身の健康に還元されるかもしれない。地産地消、その地域のものを食べることによって、地域の経済に対して貢献できるかもしれない。あるいは食の美味しさそのもの、そこに感動することによって食文化という日本が世界に誇る芸術としての食の価値を一緒に響き合わせ楽しめるかもしれない。つまり、単に「生きる」ということは、かつてはそこまで強い意味を持たなかったのですが、何を食べてどこに外出して、そしてどう働いてどう過ごすかという事全て、世界に影響を及ぼしてるのです。こういったものを主体的に自分たちで考えながらコミュニティを作っていくことができないかと、このうめきたでは考えてます。
今まではこう言った取組みをポイント制のようなもので実施しても、お金の下位互換として捉えられていました。例えばスポーツでは、地域で休日に子どもたちにサッカーを教えてくれる大人達がいるのですが、無料に近い値段で貢献しています。その人達をセレッソ大阪のコミュニティに入れ、もっと専門的なサッカー体験ができたり、あるいは良い席でサッカーを見て子どもたちと最先端のサッカーを観戦するなど、楽しみを広げていくサポートをする。単にポイント制だとお金が沢山ある人だけが上位に来てしまうんですが、貢献別にポイントを設定すれば新たにコミュニティを作ることが出来るのではないでしょうか。また、地域社会、例えばアートに貢献する人達も同じくです。うめきたの学びの場に出てきたり、自分自身が教える。あるいは美術館を訪問する。そのような方々が、例えば閉館後の夜間に鑑賞できたり、企画展の最初の2日に優先的に入る事が出来る、あるいは誰を次呼んでくるのかと提案できる。そういったコミュニティを作れるのです。そこに関心が高い人達がお互いコミットすることにより、この地域社会をデータで繋ぎながら多様な価値や生きるという在り方をつくる。そういうような都市であり、地域をつくることができるんじゃないかとうめきたを構想しています。
「Society5.0」の本質は「Human being」ではなく、共に生きる命を「Co-being」、互いに輝かせる「Human Co-being」が最も大事になると。つまり、この大阪・関西万博は、世界中から来て体験した人達が、世界のパーツの一部・歯車として生きる自分ではなく、一人ひとりの生きることを響かせながら、生きるという体験価値そのものが転換できるような場になれば、新しい社会の可能性に繋がっていくのではと考えています。大阪にモノだけではなく、世界の経済や社会をリードする何かが大阪・関西万博を機に息づいていければ、大阪が新しい社会の価値、未来をリード出来るでしょう。大阪はそのような地域になると思いますし、私も1人の個人としてそこに貢献できればと考えています。ご清聴有難うございました。

座長講話 澤 芳樹氏
⼤阪⼤学⼤学院医学系研究科 外科学講座 ⼼臓⾎管外科学教授
一般社団法人⽇本再⽣医療学会 理事⻑
一般社団法人医療国際化推進機構 理事⻑
一般社団法人inochi未来プロジェクト 理事⻑
「いのち輝く未来社会のデザイン」のテーマの下、大阪・関西万博はどうあるべきか。ここに至る背景や「inochi未来プロジェクト」が何を考えているかを皆様にお話します。
私の話になりますが、私達は心臓手術でとにかく「命の本当に瀬戸際の方々を救うんだ」ということで、限界に挑み、また絶対断らないという医療を実行してきました。その成果として、我々大阪大学心臓血管外科の手術数は、2006年は300例ぐらいでしたが、今は1200例を超えるレベルにまで来ていると。これだけ症例数が増えたのですが、何より見ていただきたいのは手術死亡率です。これは手術して30日で亡くなる患者さんのパーセンテージを表しておりますが、2006年は4.3%で、2018年は0.5%、2019年は0.3%です。手術数が4倍程に増え、死亡率は10分の1になったのです。これはなぜかというと、心臓血管外科というハイリスクな分野が、学会自ら、心臓外科医自らが他の分野に先駆けてこのデータベース作りに取り組んだことにあります。データサイエンスが優れた世界に誇る成績に貢献しているのです。その立役者、まさにこのデータサイエンスを心臓血管外科の中で確立してくれたのが、先程講演された宮田先生であります。今は日本でも指折りのクリエーターでありプロデューサーだと思います。しかし、彼の根っこはやはりデータサイエンスに基づいておられ、リライアビリティというか、確実な進化を遂げるように感じます。
私達が今、このように心臓の再生医療に挑んでいるということではご存じの通りだと思います。これが今後どのように人を助けるかは、これまで助からなかった方を助けられるというレベルにまで来ております。また、このような心臓の動きは「月の石」に変わるわけではないんですが、何とか大阪・関西万博にも展示できればと。医療の推進の傍ら、一方でポテンシャルの高い心筋の再生医療を具現化するような形の展示に繋がればと考えております。
さて、今皆様がご覧になっているのは「大阪大学心臓血管外科重症心不全患者の集い」の際の写真です。この写真に映る皆様の笑顔を見ていただくと、医療の原点はここにあるのだと感じます。このような患者さん、これまで本当に助からなかった方が助かる。命が最も大切だという観点はどなたも認めるところではありながら、ベッドから動けず瀕死の状態であった方々が、こんなに元気になっていくお姿がある。これをいかに大事に表現していくかという観点から、私達は2013年に「inochi未来プロジェクト」というプロジェクトを立ち上げました。一般社団法人ですが、ソーシャルイノベーションを起こし、いのちと健康を大事に、そして人づくりやものづくり、そして街づくりに繋げようとしています。そして「202X年にいのちの万博を」ということを2014年のinochi未来プロジェクトのシンポジウムで発表しておりました。その流れが次の世代「WAKAZO」という学生ですね。医学部の学生や他学部の学生も含めて、万博を自分たちがどのように考えるべきかどんどん表現して、それを我々がサポートしています。今流れている動画に映る川竹絢子さんはBIEで山中伸弥先生と一緒にプレゼンテーションを行いました。これが万博誘致に貢献したのではないかと強く信じております。
さて、大阪・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」です。「いのち」と「未来」という言葉がテーマの中に入っており、改めてこれをどう考えるか。ここでご提示したいのが、私が2018年に考えた「今から50年後にどうなってるか」というシミュレーションです。最良のシナリオであれば、医療の進歩が期待できるでしょう。ゲノム医療も進みます。ひょっとしたら、人生はDNAの限界いっぱいの120歳時代を迎えるんじゃないかと考えました。一方で、最悪のシナリオは、国家の体制崩壊やCO2が削減出来ない自然環境などが想定されます。そうなれば人生は短くなってしまうのではないか、そう考えた時にこのコロナがあったのです。そこで皆が気付いたのは、命を守る未来社会を築いていかなければならないということです。私達は、今回のコロナ禍で命を救うこと重視すると経済活動が止まってしまうことを体感しました。これではやはり今後、世界の発展はないでしょう。先程の宮田先生のお話にもありましたが、大阪・関西万博のテーマである「いのちを救う」「いのちを繋げる」の観点と、経済社会を両立が大切なのです。これらが両立する、循環する新しい社会共有価値の創出の万博であるべきだと考えます。さらに万博のメインのテーマの中に、未来社会の実験場「People's Living Lab」があります。いかに有用なデータを集めて、それを実証・実装していくかということが大きなポイントになるでしょう。
それを具現化するために、「2100年inochiの旅」というテーマのパビリオンを考えています。これはライド形式のパビリオンで、そこでデータをセンシングをしつつ、ここに新しい個人認証の非侵襲簡易検診を含め、データを採取すると。それから、来場者はいのちすくむ未来を体感し直視し、ソリューションを選択します。そのソリューションを今後、実証・実装していくこと考えました。このように、いのちの未来を次世代に繋ぐ、新しいレガシーを作るような、新しいアクションを起こす万博はどうかと構想しています。これらのプロジェクトについては、先ほど申しました「WAKAZO」の学生が積極的に考えており、その流れで「inochi未来WAKAZO適塾」という取組みも始めようとしています。一方で、オープンスペースにおいてもデータを集められるような、50年先の街を実現するような「inochi未来の街」というものをつくって、そこで新しいデータを採取する仕掛けを作ろうとも考えています。当然ですが、少子化と高齢化も進み、人生100歳時代になり、そして人口の3人に1人が認知症になる時代が来ます。認知症の人も働き、活躍し楽しめ、またWAKAZOも子どももみんなが参加できる、安心、安全な街とはどのようなものなのか。テーマパークを作る過程で、多世代共創の街に実証・実装フィールドを構築することが「いのち輝く未来社会のデザイン」、サスティナブル・スマート・シティーの創造に繋がるのではと考えております。
そして、データを採るという点では、様々な対象疾患が考えられると思います。それらについてセンシングするポイントとしては、事前の研究デザインをどう立てるか、医療的アウトカムをどう結び付けるかでしょう。健康な方のデータをいくら取っても殆ど意味がなくなってしまいます。データを採り、企業と連携しながら、それをいかに利用していくか。リバーストランスレーションに繋いでいくか。ある意味、このような医療の重要なデータは無尽蔵の資源でありますから、どのように繋ぐかがポイントであります。そういう観点の中で、宮田先生が大阪・関西万博のプロデューサーになられたことは、千載一遇のチャンスではないかと思います。「People's Libing Lab」として、そのセンシングの仕掛けの中でいかにコラボレーションしていただけるか、ご指導していただけるかということが大事です。これから宮田先生と我々がコラボレーションさせていくとどんな化学反応が起きるかというのが大変楽しみであります。
そして、この「Futurability」という言葉は、大阪大学医学部付属病院のキャッチコピーとして商標登録されているもので、辞書には載っていない言葉です。これは未来の可能性、ズバリそのものであります。「まち遠しくなる未来」がいかに実現されるか、「いのち輝く未来社会のデザイン」がどう構築するかということを、データサイエンスを駆使しながら表現していくのが、万博の中で最も重要なテーマではと思っております。以上です。ご清聴有難うございました。

宮田 裕章氏・澤 芳樹氏対談

澤氏:
万博は「いのち」だということを最初から提案していた「inochi未来プロジェクト」が、今になってコロナもあり、より重要視されてくるかと私は思います。その辺りも含めて、今後いかがでしょうか。
宮田氏:
まさしく先程の講演で仰っていた通りです。澤先生の講演のスライドに「経済と命」という観点がありましたが、これらは両輪で回さなくちゃいけない。コロナが起こる前は、経済界の人達はそんなこと考えてなかったんですね。経済が全てだとしていました。経済のために社会があって、人があってぐらいの勢いだったんです。これがやっぱり、1回止まったことによって、澤先生が掲げた世界になったわけです。さらに言うと、経済も命の中に入ってきました。命の多様な可能性、そしてその輝きの中で、命を守ることがコアにあり、そして教育や経済等が多様な命の輝きをどう回していくかとなっています。だからこそ、経済だけで社会を回すのではなくて、命を軸にしながら新しい社会の在り方を考えるパラダイムシフトがまさに今、起きているのです。ここからの何年かでどこまで新しい社会に持ってけるか、今、まさに大きな流れの中にあるのかなと思います。
澤氏:
有難うございます。社会、世界全体が仕組みの構築をもう一度見直す段階に来ている。これから災害もあるでしょうし、想像できない感染症も出てくるかとも思うんですが、それにも耐え得るような仕組みを作っていくべきです。大阪・関西万博がそのきっかけになれば思っています。
宮田氏:
そうですね。医療って今まで切り離されていたものだったんですが、澤先生が仰るように、これから街づくりの中核にも入らないといけない。命を守るという高度急性期だけじゃなくて、公衆衛生も含めた多様な、その手前の予防からいのちを支える。そんな仕組みが街の中核にしっかり入るというのは、街だけじゃなくて暮らしにも共通しているのです。そういう意味では医療分野の重要性というのが更に大きくなったなと感じます。
澤氏:
私達が学生の頃、公衆衛生ってちょっと退屈なところがありましたよね。たばこを吸う人と吸わない人で肺がんのリスクが違うとか、そんなレベルだったんです。それが、今回のコロナで、どの人の生活にも直結してるものとなりました。宮田先生があれだけコロナについてもデータを出していただいた故に、ある程度信頼が生まれ、安心出来ますね。
宮田氏:
「3密回避」もようやく論文が出ました。提唱された当時は根拠が何となくな部分もあったんですが、改めてビッグデータで見てもすごく大事だと分かりました。クラスター対策班は、自信を持って進めるとしていました。やはり完璧なエビデンスじゃなくても、様々なものの見方を合わせて、それを道標に使うことが大事なのかなと思います。
澤氏:
そうですね。そういう社会背景の激変の中での万博になります。これはまさにデータをどうやって採るかや、そのエビデンスをどうやって生かした社会をつくるかが根本的に大切なところになってくるかと思っています。この辺りは第2部の座談会でしっかり議論させていただきたいです。それでは宮田先生、本当に有難うございました。
宮田氏:
こちらこそ有難うございました。
第2部 座談会

座談会では、伊藤忠商事株式会社専務理事・一般社団法人関西経済同友会代表幹事・一般社団法人夢洲新産業・都市創造機構理事 深野 弘行氏、東大阪市長 野田 義和氏、岸和田市長 永野 耕平氏、そして第1部に引き続き宮田 裕章氏と澤 芳樹氏にご登壇いただき、第1部の講演を踏まえご討議いただきました。

●登壇者 ・宮田 裕章氏
 慶応義塾大学 医学部教授
 大阪・関西万博 テーマ事業プロデューサー 担当テーマ:「いのちを響き合わせる」
・澤 芳樹氏
 ⼤阪⼤学⼤学院医学系研究科 外科学講座 ⼼臓⾎管外科学教授
 一般社団法人⽇本再⽣医療学会 理事⻑
 一般社団法人医療国際化推進機構 理事⻑
 一般社団法人inochi未来プロジェクト 理事⻑
・深野 弘行氏
 伊藤忠商事株式会社専務理事 社長特命(関西担当)
 一般社団法人関西経済同友会 代表幹事
 一般社団法人夢洲新産業・都市創造機構 理事
・野田 義和氏
 東大阪市長
・永野 耕平氏
 岸和田市長 ※岸和田市役所より中継にてご参加

野田氏:
東大阪市長の野田義和です。本日は貴重な機会を頂戴し有難うございます。また、宮田先生と澤先生から、本当に素晴らしいお話を賜りました。私は東大阪市長、そして基礎自治体の首長という観点から、感想や考えをお話させていただきます。一つは、2025年の大阪・関西万博に向けて「いのちを響き合わせる未来社会の共創」というテーマの下、我々、常に住民と向き合っている基礎自治体が積極的に参加し、共につくっていかなければ駄目だと意を強くしました。
かつての大阪万博、あるいはその後の万博を見て、これは本当に少し失礼な表現になりますが、基礎自治体から見るとインフラ整備やイベント効果はありましたが、未来に繋がったものがどこまであったのかという思いを抱いております。今回の大阪・関西万博のテーマが「いのち輝く未来社会のデザイン」でありますので、当然未来に繋げていく万博にしなければならない。そして、宮田先生のお話をお聞きして、データの重要性を改めて強く認識しました。
私は東大阪市長に就任して13年、その前は東大阪市議会議員を20年務めていました。その間、一貫して思っていたことがあります。我々基礎自治体としては、女性が妊娠をされた際に妊産婦健診を実施します。国の基準でおよそ14回実施しますが、例えば本市の場合、これに対して12万円の助成金を支給します。また、双子や三つ子への加算金等も行っています。加えて、子どもが生まれた後は4カ月、1歳半、3歳半の時点で健診をします。そして、本市には小学校と中学校、そして高校も1校ありますが、学校での健診も実施します。我々はいわば子どもの誕生前から18歳までの健診のデータがあるのです。これを未来に繋げ活用することが、日本の社会はまだまだ十分ではないと考えます。勿論、高齢者に関するデータもあり、例えばがん検診もそうですが、高齢者に対する様々な検診のデータをしっかりと分析をし、更にはフィードバックをし、基礎自治体の健康政策に繋げていかなければならない。この辺は、我々がもっと声を大にして言わなければならないと考えています。
私は今、大阪府後期高齢者医療広域連合の連合長を務めています。2年前から後期高齢者の歯科検診を歯科医師会と始めました。ある程度データが集まったら大阪大学の歯学部と大阪歯科大学に分析をお願いしたいです。そして、後期高齢者の方々の健康にフィードバックしていきたいと考えています。なかなか検診の参加者が少ないので、ジレンマを感じている面もありますが、そんな思いを持って活動しています。
そして、自治体として時代を先取りする形で、東大阪市は4、5年前に自治体スマホ連絡協議会を幾つかの自冶体と立ち上げました。スマートフォンを利用し、例えば高齢者の日々の生活も地域の方やご自身の子どもに見ていただけるように、情報伝達をもっとスピーディにする事が目的でした。ただ、スマートフォンを使いこなせない人も多く、普及率等も今ひとつでしたので頓挫してしまった。今考えると、こういったことを我々が諦めないでやっていけば、まさにリモートの社会というものに取組めたのではと思っています。
そして、東大阪市の特色の一つが「モノづくり」です。澤先生のご尽力で医工連携を実施し、大阪大学医学部や歯学部と協定を結んで、町工場がいわば医療の世界にどんどん入っています。ここでもデータが多くあれば、町工場の知恵を反映出来るのではと思っています。それらを総括しながら、できれば大阪・関西万博の開催と合わせて、東大阪市がリビング・ラボになればと。東大阪市は人口が約50万人で、大学も4校あり、日本の縮図のような一面があります。そこで、まちとしての実証・実験をやっていけば面白く、まさに未来に繋がる展開が出来るのではと思っています。改めて、データの必要性や、我々基礎自治体がそれにどう取り組めばいいのかという点はご教示をいただければと思います。
司会:
ありがとうございます。それでは永野市長、よろしくお願いします。
永野氏(岸和田市役所より中継にて参加):
皆さん、こんにちは。岸和田市長の永野耕平と申します。まずは宮田先生、澤先生、ご講演有難うございました。私は野田市長にお声掛けいただき、一般社団法人夢洲新産業・都市創造機構になる前の夢新産業創造研究会時代から、皆様の活動を拝見しております。
そして、私は岸和田市長になってまだ2年しか経っておりません。駆け出しの市長です。それまでは社会福祉法人で親と離れて暮らす子ども達の生活について支援する活動をやっていました。この団体は昭和8年からそのような活動をしています。親と離れて暮らす子ども達は、ある意味、不幸を反映するような問題です。昭和8年の段階では、ストリートチルドレンを保護することが多く、生活に困窮している子どもが非常に多かったです。それが高度経済成長の中では、借金等が原因でお父さん、お母さんがいなくなってしまった子どもが増え、平成に入ってからは児童虐待の被害児童が多く保護されるようになりました。そのように非常に困窮した子ども達のお世話をする現場にいた経験が今に繋がっています。「社会全体がいかに健全になっていくか」ということが末端にいるとある意味では中心にあります。全て子ども達にしわ寄せが行きますので、未来を支える子ども達が力強く成長するためには、社会そのものを健全に、力付けていかなければと思っています。
本日宮田先生から様々なお話を伺い、私も感激しています。その中で幾つかキーワードがありましたが、冒頭でお話されていた大阪万博の「月の石」を見ることによって恐らく、日本人が地球人の視点を持てたのでは、と思っています。そして地球人となって久しいはずですが、我々が地球が一丸となって、人々の暮らしや幸福に向き合えていないのでは、と思いました。
我々基礎自治体は、これまでは場を提供し、実証・実装の場を皆さんに提供して次の未来をつくろうとして参りました。これからは私達自身も参画し、思いを繋ぎ、視点もしっかり提供しながら一緒に考えていく中で、地球人として命や幸福などについて一緒に考えたいと改めて感じました。
新型コロナウイルスの存在は非常に大変なもので、我々にとっての最大の脅威でもあります。しかし、これによって我々が得るものも多くあると考えます。それらを駆使し、地球人としてみんなで命や幸福等、そう言ったものをつくり上げていく、そんなチームを作っていきたいと思います。
司会:
永野市長、有難うございました。続きまして深野専務理事、お願いいたします。
深野氏:
私は中学2年生の時に大阪万博で「月の石」を見たことがきっかけで地球人になりました。先程の宮田先生のお話は、非常に大きなビジョンを見せていただいた気がして、大変感激しています。今回のコロナ禍で、先送りしてきた問題が一気に火を噴いたように思います。宮田先生が仰っていたように、日本は何か課題を見つけてくること、自分で問題を見つけることが、あまり上手じゃない。問題を示されると非常に綺麗に答えを書くのですが、答えがなかなか一つに決まらない。そういったことのつけが回ってきているのではと感じます。特に痛感するのが、デジタル化の遅れです。先程、給付金のお話もございましたが、行政や司法、医療や教育の分野など、全般的に遅れてしまっている。新しいことをやろうという意気込みはあるのですが、一番基幹になる部分が出来ていない。
例えば、我々と行政との接点の中で大きなものに、運転免許証や住民票があります。これらがどのぐらいデジタル化が進んでいるか、よく分からないところがあります。先日弁護士の方と話した時に聞いたのですが、裁判も未だ全部ファックスで裁判所とやりとりをしているそうです。このような例を聞くとやや暗い気持ちになってしまいます。一番基幹になる部分が進むと、それがきっかけになり様々なことが動き出すと思っています。また、デジタル化されていることが、恐らくデータを活用する上での前提条件になるだろうと考えています。取り組んでいくべき課題がよく見えてきました。
もう一つは感じたのは、様々な組織の運営の基本的な考え方が変わってきているのではないかということです。例えば働き方改革はその典型だと思います。人間をオフィスに縛り付けて時間で管理する発想は、もしかするともう通用しなくなるのかもしれない。時間で管理しないと言うことになると、別のもので管理しなければならない。恐らく成果物で評価することになると思うのですが、それをとことん進めていくとシステム自体もジョブ型になってくるかもしれません。全部切り替えられるかは議論があると思うのですが、ハイブリッド型に変わってくるのではないでしょうか。そう言ったことが、これまで何となく先送りになっていたのが、否が応でも答えを出さなければという状況になっています。
さらに、それらの問題を解決した先に、どういう夢が広がっていくのかがもっと大事だと思っています。それがないと次の世代の発展は見込めません。そういうビジョンを描く場として、大阪・関西万博が期待されます。同時に、エンターテインメント性も大事です。やっぱり楽しくなきゃいけない。それをどう組み合わせるかは、万博を考える時に避けて通れないことだと思っています。皆様が、特にプロデューサーの方が中心となり、素晴らしいビジョンを描き、また、楽しさを上手く引き出していただけるのではないかと期待しております。
司会:
深野専務理事、有難うございました。ただ今、お三方より貴重なご意見をいただきました。それらも踏まえまして宮田先生、澤先生から更にご意見を賜りたく存じます。では宮田先生からお願いします。
宮田氏:
素晴らしいご意見を有難うございました。皆様のご意見は大変勉強になりました。それらに対して、どうすれば更に良くなるかというアイデアを私なりにお話します。まず一つは、野田市長が仰っていた「大阪・関西万博を地域にどう生かすか」ということ、これはすごく大事だと思います。一部の企業のインフラ整備や一部の人たちが盛り上がる万博では、これからの時代は通じなくなると思います。地域全体のいのちが輝いていないと、その輝きは世界に対して通用しないのです。大阪・関西万博までの期間を通して、大阪がさらに輝き、また万博を契機として世界へのリーダーとして輝き続けることを目指せると良いでしょう。澤先生も仰っていたように、データを使って世界をさらに良くしたいです。
先程のお話にあった妊産婦健診や、市町村であれば様々な特定健診はそれぞれが繋がっています。ただ、市町村だけではなく、例えばより広域と連動しながら、その地域のデータを皆で使っていくのが理想でしょう。この時、何が出来るか。今までの日本のデータは健康診断と健康保険のもの、つまり特定健診がありますが、60歳で対象者がバサッと切れるのです。すると、健康時のデータはあるが、その後どうなったか分からない。そして高齢者は、高齢になった時のデータしかないため、どうすれば健康が維持できたのかお互い分からず、それで行き詰まっていったのです。健康時のデータを地域全体のデータを繋げば、その人がどういう人生を歩んでいたか分かる。つまり、若いうちに何をすれば良いかや、高齢の人たちを支えるためにはどんなサポート・サービスが必要なのかも分かるようになる。地域のデータを繋ぎながら、そこに医療や、様々な産業の研究を乗せていくことも出来る。実は私、静岡でそう言ったものをもう既に作っており、県全体で繋げています。これは必ず大阪でも出来るはずだと。もう実装・実証の事例があるので、それを色々な場所で出来ればと思います。大阪の良い所は、その上に乗っかる産業や学校、企業が大勢いらっしゃることです。町工場も含めてですよね。こういったアイデアをそこにどんどん乗せていくとより良いものになると思います。
海外の事例ですが、スマホのカメラはAppleに買い叩かれています。すごく精度が良い一眼レフクラスのものでも原価が3000円ぐらいなのです。これで内視鏡を作って、精度は遜色ないものが、既存の製品の100分の1の値段で販売されています。日本で買い叩かれてしまっている素晴らしい町工場の技術を、新しいアイデアと繋いで、データの中でどんどん実装すれば可能性はもっと広がるのかなと感じます。
そして、永野市長が仰っていた格差の問題です。今までは日本の行政はデータがなかったので、平均しか出来ませんでした。平均の人にいかに給付をするかとなっていたのです。でも、実はこの10年間程で日本はどんどん格差が拡大しています。例えばシングルマザーの貧困率は先進国でワースト1位です。「家庭は両親が揃っているもの」というステレオタイプがあって、そこからこぼれた方々に対して十分なサポートを届けるシステムがなかった。普通からこぼれた人に、とてつもなく冷たい社会になってしまっているのです。
データの強みは、そういった人達を取りこぼすことなくサポートしていけることです。岸和田市はまさに格差に向き合っている地域だと思います。そういった格差を新しいアプローチでインクルージョンする。市だけではなく国と連携した形で、エリアごとの特徴の中で、日本全体でインクルージョンを進めていかなくてはという時に岸和田市がモデルケースになれば、素晴らしい世界のモデルが開けるかなと思います。「月の石」で覚醒した地球人としての認識が、SDGsに繋がり、大阪・関西万博で更にインクルージョンして広げられれば、可能性はさらに深まるでしょう。
深野専務理事が仰っていたデジタル化は、本当にボトルネックです。コロナの影響で先進国だけではなく、世界中でテレワークや遠隔教育が進みました。しかし、日本よりもっと所得の低い途上国の方が進んでいるのです。「進みません」という話ではなく、世界が変わり始めている中で我々はどう変えるべきなのかとなります。変わらない理由を探すのではなく、どう変えるかを考えていく必要がある。世界中にもう沢山の手掛かりがあります。まさに野田市長も仰っていたスマホ協議会ですね。スマートフォンも先進国の中で日本が一番普及率が低いのです。普及させれば良いという話ではないのですが、ただ、それは抽象的な事例の一つなのです。やはりデジタルを嫌うのではなく、デジタル化が大前提になる中で、どういうサービスをつくるかが大切です。
日本の大きな課題は、マイナンバーと銀行口座を結び付けるという事例が象徴的です。結び付けるかどうかだとリスクしか見えないので、皆、嫌だと言います。しかし、それらが結び付くと、税金を真面目に払っている、あるいは払わざるを得ないサラリーマンは損するはずがありません。適正に税金を払ってない人から徴収し、そのお金をもっと世の中に還元し、インクルージョンすることが出来る。真面目に税金を払っている人へはそれを還元し、もしくは新しいサービスを提供出来ます。
デジタル化で何をするかも含めて、きちんと方針を示して、一緒にビジョンを描いていく。先程ご意見を頂戴したように、そこに楽しさを組み込んでいくと。そして、より負担が少なくなり、誰も取りこぼさないという世界をどう実現出来るのかを一緒に考えて示すことができればいいなと思いました。まさに今、お三方から伺ったことを突き詰めることが、大阪・関西万博の中で日本が輝くために最も必要なことに繋がっていると、改めて勉強させていただきました。
澤氏:
私がボーイスカウトの集いというイベントで、手旗信号隊として大阪万博に参加したのが中学3年生の頃です。大阪万博では「月の石」も見ました。あの時の抱いたイメージは、中学3年生にとっても「元気が出るぞ」と言った感じでした。未来への実感が僕の抱いた万博のイメージだったのです。「inochi未来プロジェクト」の立ち上げの2013年は、ちょうど東京オリンピックが決まった年でした。それで「大阪はやっぱり万博だね」という話になったのです。あの時代の万博とイメージが大きく変わっているのは当然だと思います。深野専務理事が仰る通り、日本人は個人で努力するのですが仕組み作りが下手だと思います。個人が努力するが故に、それが何となくソリューションに繋がって、仕組みをしっかり作らなくてもいい点ではボトムアップかもしれません。ITで仕組み作りが最も下手である医療関係の典型的な例が電子カルテです。電子カルテは世界でも普及率が高く、そして最も有効に使われていない。この電子カルテどうするか。やはりデータをどう採り、それをどう生かすか、先まで考えるべきです。電子カルテを扱う企業のシェアがどうなっているか、という話ではないのです。改めてリセットボタンを押すべきタイミングに来ています。そのきっかけが大阪・関西万博だと思います。
そうなると「People's Living Lab」が重要なキーワードだと思っています。先程、野田市長も永野市長も非常に前向きに、市の行政としてITをどうするのかとお話されていました。やはりそこに何かビジネスがないと回らない。ですから、この「People's Living Lab」をどうするか、それをどう産業に繋げるか。特に医療系や健康系は人で試さないと分からないことが多い。そうすると、住民が皆さん参加してくれたデータが生かされて、承認やエビデンスに繋がる仕掛けを、東大阪市や岸和田市でやられたら、企業が大勢集まってきます。その仕掛けをどう作るかが一番大事だと思います。宮田先生に、先程お話されていた静岡での事例の中に、そのような発想があるか伺いたいです。
宮田氏:
静岡では予防の観点を軸に、まずデータを市町村と県で繋げた段階です。そのため、この「People's Living Lab」のような構想は入っていません。そして、産業利用を視野に入れた形には全くなってない。繋げることが出来るということはもう実証されたので、大阪は万博を契機にして、多様なエネルギーを軸にまた違う可能性を作ることが出来るのではと思いますし、すごく可能性を感じます。
澤氏:
私もそう思います。やっぱり行政の代表の方、首長の方が「これやるぞ」と仰るのは非常にインパクトが大きく機動力になると思います。野田市長、いかがでしょうか。
野田氏:
我々が声を上げる事が大切かなと考えます。そして、基礎自治体という立場は直接住民や企業と、アナログかもしれませんが、顔を見ながら話が出来ます。それをずっと繋げていけば必ずいいものができると思います。ただ、今の日本の仕組みでは、東大阪市だけでは上手くいかない。誰かがコーディネートをしてくれる機会や、我々がそこへ入っていける、プラットフォームみたいなものを作っていかねばならない。ただ待っていてもそれは出来ないので「自分たちが作っていこう」という思いで、今、この場にも参画させていただいています。
澤氏:
有難うございます。同じ質問を、永野市長にもお聞きします。
永野氏:
岸和田市長になった時に思ったのですが、日本に1000を超える自治体があって、その自治体は大体同じような悩みを持ってるのです。実験場と言うと、住民の皆さんに失礼かもしれないですが、岸和田市では、独自の新たな取組みをすることで、それが成功しても、そうでなくても、全国の同じ悩みを持つ自治体と共有できると考えています。そんな中で、先程澤先生が仰っていた電子カルテ等は、私自身も非常に共感する問題です。また、既に電子化はされてないけれども、市民の中に根付きつつある取組みも多くあると思います。そういったものを少しずつ電子化していくような取組みを、岸和田市の中でもやっていければと思っています。
澤氏:
深野専務理事、いかがでしょうか。産業界から見ても、マイナンバーもまだなかなか活用されていません。ITを活用することは、裏返しに言うと、データが出てきたことを次のチャンスにどう生かすかですよね。
深野氏:
「データを使って何ができるか」についての想像力がゼロに近いんじゃないかと思います。上手くやればものすごい宝の山だろうと思うものが沢山あります。例えば医療の世界だと、お薬手帳ってありますよね。あれは膨大なデータであり、その人がきちんと真面目に治療してるかや、治療が適切かどうかも、もしかすると透けて見えるかもしれないですね。今お薬手帳は、全て紙のステッカーを貼り付けるようなシステムになっていて、誰もクラウドで管理していない。最近は、お薬手帳を持参しないと薬の値段が高くなるんです。そこまでしているにも関わらず、全く利用されてない典型的なケースではと思います。こう言ったものが仮に上手く活用されたら、どの様に世の中の役に立つかを、想像力を持って考える。一体どうやれば良くなるのか、思案すべき事例があるのではと思います。
宮田氏:
仰るとおりです。まさにコロナ対策でも今、それが必要になっています。行政、そして色々な関係者と一緒に対策を打っていますが、人々が「有効な予防対策をするために何が必要か」を一緒に考えた方が良いですよね。例えば、ある地域では、市民がガイドラインを守っているレストランのデータを繋いで、それをグルメサイト等と連動して見やすくする。そうすると、検索した際に「ここ、ちゃんとやってないから行かないでおこう」と言う選択が市民側で出来ます。
あるいは、若者に「盛り場に行くな」とだけ伝えるのではなく「どうして行くのか」を彼ら自身が考えた方がいいと思います。学生を集めて「WAKAZO」のようなチームで考えてみる。「どうすれば自分達が変えられるのか」「もっと楽しいことを見つけよう」等を議論してはどうでしょう。盛り場を「夜の街」と断罪するのではなく、リスク対策をきちんとしているかが大切です。
ノルウェーが「Randomized Controlled Trial」で示したのですが、例えばスポーツクラブでも感染が起こさなかった。防げたのです。やはり、対策が何かを皆で考えていくことが大切です。データをどう使うか、想像力を一緒に高めることが「People's Living Lab」にも繋がっていくと思います。
澤氏:
そう言う面から「では、大阪・関西万博は?」となるんですね。
宮田氏:
そうですね。
澤氏:
今のお話されたことを踏まえて、どうやってデータを採るか、それを生かしていくか、そしてどう活用するかを考え始めるべきと思っています。私が今構想している「inochi未来パビリオン」もですが、僕のプレゼンテーションご覧になられていかがでしたでしょうか。住民が参加して「CO-CREATION」していきたいですね。
宮田氏:
本当に素晴らしいと思います。住民の参加が万博をどう変えていくのか、また、万博会場に来場した人々がどういう思いを持って来ているのかも重要ですね。それらが響き合い、一日一日、違う体験になっていくとまた素晴らしいなと思います。私自身は、大阪万博は生まれる前のことで体験してないのですが、毎日行く人や、何度でも行きたいと言う人が多くいたそうです。行く度に体験が変わる様に、開催直後の万博と、開催中で違った体験があるという仕掛けをつくるのもいい。それぞれの日に違う楽しさがあることは魅力的ですね。データから、エンターテインメントや社会の貢献についてのアイデアがダイナミックに生まれると、「inochi未来パビリオン」は更に生きると思います。それは大阪・関西万博の中核の考え方に繋がると思いました。
澤氏:
有難うございます。「WAKAZO」が「エピジェノミック・パビリオン」を提案しています。様々な環境等の要因を受けながら、エネルギーがどんどん変化していくようなイメージと言っていました。まさに今、宮田先生が仰ったものに近しいなと。
宮田氏:
ぜひ連携させていただければ、面白いものになりますね。各パビリオンの個別のリソースは限られています。大阪・関西万博では独立にやるよりも、連動させて世界を巻き込めるかどうかが大きな鍵になると思います。これまでも、ドバイ万博も恐らくそうなのですが、大国は基本的に独自で取り組む。大阪・関西万博では、中国やアメリカも「一緒にやるともっと良くなるな」と彼らが確信できる流れが出来ると変わる気がします。万博会場で「中国はそのものは知らないけど、もっといい中国を発見できるぞ」といったような形を提案するのです。あるいは「GAFAが知らない素晴らしいシリコンバレーの理想」を大阪・関西万博の会場に作る。短期的にはここに来たほうがシリコンバレーの未来が見えるとなると行きたくなりますよね。「今はカリフォルニア行ってる場合じゃないぞ。今は夢洲と大阪に来たほうがシリコンバレーの未来が見える」とすれば非常に面白いですね。
澤氏:
確かにそうですね。皆さん、今の宮田先生のお話を聞いていかがでしょうか。
野田氏:
一つの事例を挙げさせていただきます。マイナンバーについて、全国市長会の行政委員会で総務省から普及を促されました。総務省の説明では「マイナンバーは便利である」「役所に行くとき便利だ」「こればあれば役所に行かなくてもいい」と言っています。しかし、役所に行く必要がある市民、住民はそこまで多くないのです。むしろ「マイナンバー制度によって、これだけ地域社会や国がメリットある。これが皆さんの幸せになり、そして繁栄に繋がる。そのため、何年何月までに日本国民全員がマイナンバーカードを持ってください」と言った方がいいのではないでしょうか。その結果として、税においての公平公正も含めて幸せ、繁栄に繋がる。そういった国の明確な方針出して欲しいと、私は総務省の担当者に申し上げました。
宮田氏:
全く正しいと思います。私もそのコメントを総務省にも言いたいと思います。様々な方面から正論を言い続ける必要があると思いますし、その成功例が大阪で出せるともっと加速するので、そのお手伝いが出来ればなと思います。
野田氏:
有難うございます。
澤氏:
永野市長、大阪・関西万博に向けていかがでしょうか。
永野氏:
先ほどの宮田先生と澤先生のお話聞きし、大阪・関西万博が終わった時には、みんなが想像してなかったものに仕上がっているのではと感じました。未だかつてなかったことだと思います。つまり、この万博を通じて新しい社会への一つのデザインが出来、それを皆で共有できるのではないかなと。先程のお話にGAFAの事例がありましたが、岸和田にはだんじり祭という祭りがあります。勇壮で非常に激しく、賑やかな祭りです。そして実はすごく奥が深く、感動の祭りなのです。こう言ったものは、いくら大企業であっても出来るものではありません。人々の暮らしや文化、そして風習等、多くが息づいてる中で出来るのではと思います。私達岸和田の市民としては、地域に存在する我々の宝もしっかりと大阪・関西万博と融合させていきたいです。これにより、誰もが想像することが出来なかった万博が、開催中も変化しながら仕上がっていき、新しい時代の扉を皆で開けることが出来ると良いと思います。
宮田氏:
良いですね。岸和田のだんじり祭を万博を変えるような勢いでやっていただきたいです。
永野氏:
だんじり祭はまさに命の輝きです。
澤氏:
そのようなエネルギーを注ぎ込むのも大阪らしくていいかもしれませんね。深野専務理事、いかがでしょうか。
深野氏:
最後に一言だけ付け加えさせていただきます。入場料を払い楽しむのが、かつての大阪万博も含め、これまでの万博のモデルでした。しかし、今回の万博はそれじゃいけないのではないかなと。万博そのもののデジタル化もあり、万博会場に行かなくても、それこそネット上で十分に楽しめる。極論を言えば、視聴料を取って、オリンピックと同じような稼ぎ方ができるような万博も考えていかなければならないでしょう。一方で、会場に行くと臨場感が凄い。勿論テレビで見ても面白いのですが、ライブのコンサートの会場に行けばすごくライブ感が高まる。そのようなことをどうやって演出するか、リアルとデジタルの融合を前面に見据えて考えていくべきではないでしょうか。そのために万博のビジネスモデルを変えなければならないということです。
宮田氏:
仰る通りです。まさに今までは収益と盛り上がりを来場者で測っていました。大阪万博はそれで6000万人の来場者数を達成したのですが、今後は切分けないといけない。しかも、コロナが収まっていたとしても「密」に対して世界がトラウマを持っていると思います。そこを分けたビジネスモデルをどうつくるかが課題です。スポーツビジネスは今、一丁目一番地でそこを走っています。例えば、スポーツにおける世界最大の熱狂の一つは、ボルシア・ドルトムントのバックネット裏と言われています。9万人が壁を作ってブワーッと歓声上げる。あれはしばらく出来ませんが、もしオンラインと連動して再現出来れば、多分世界の熱狂は変わるでしょう。オンラインで世界中の人達と、岸和田だんじり祭のパッションを共有出来れば、岸和田のバリューも、あるいは収益構造も変わってくるかもしれないですよね。しっかりお金を回しながら熱狂を広げることができるのです。来場者だけじゃなく、世界中の人達と共有して、来た人はもっと特別な体験が出来る。この組み合わせをあと数年の中で一気に詰めていかなければならない。それを考えると実は思ったより時間がないので、万博の、その手前のスポーツビジネスとこれを連動しながら、大阪で一緒に仕掛けていければと思います。
澤氏:
最後に私から一つ。我々は今「データをどう採るか」について最も深く議論しています。先程申しましたように、健康な方よりも、病気の方のデータを採ることが大切です。そのような方のデータは病院にあるので、予備軍の方のデータをどう採るかが大事だと考えています。データをどう採るか、その辺りで何かお考えはおありですか。
宮田氏:
やはり今、世界的なキーワードの一つは「信頼」です。かつては取り敢えず同意してもらい、スナップショットで撮って何でもする、というスタンスでした。しかしそれだと悪用されてしまう。そして今度は同意至上主義になり、EUのGDPRに象徴されますが、逆に何も使えなくなるのです。実際、データは共有財なので、特に医療は、どう使われるかを管理すれば悪用されるケースはかなり抑えられるのです。そうなってくると、ほとんどのものは使えるでしょうし、例えば震災が来たときに「人口透析を受けている患者がどこにいるか教えられません。プライバシーですから」って言っていたら、患者が亡くなってしまいます。そのため、個人を軸にしながら、データ活用方法を信頼出来るように説明する。それによって、個別同意ではなくて、使い方によって信頼を担保するってやり方でいけるのではと。今、日本でも医療情報基本法というものを用意しています。
EUは国を超えてコモンズ・スフィアという形で、国を越えて医療データを繋ぎ始めています。彼らはもう既に、やり始めており、形になっている。日本全体に展開することを視野に入れながらも、もっと未来志向で踏み込んだものを大阪で作ればと思います。非常に可能性があると思いますし、その土壌も十分あると感じています。
澤氏:
有難うございます。かなりイメージが湧いてきました。健康や医療など本質に繋がったデータをどう採るかは「People's Living Lab」のポイントと思っています。宮田先生が仰ったように「People's Living Lab」は万博までにスタート出来ると考えます。万博でやはり一番大きく花開き真価を発揮するような「People's Living Lab」が大事なのではないでしょうか。
今日は宮田先生のお話を聞いて、皆様ワクワクされたんじゃないかなと思います。もっとお聞きしたいことあるんですけども、お時間になりましたのでこれで終了とさせていただきます。
閉会のご挨拶

井垣 貴子
一般社団法人夢洲新産業・都市創造機構 理事・事務局長
第1部でご講演いただいた宮田先生と澤先生、そして第2部の座談会からご登壇いただいた野田市長様、永野市長様、そして深野専務理事様に厚く御礼申し上げます。素晴らしいお話をお伺いし、非常に感銘を受けております。本日皆様からお話いただいたことは事務局として責任をもって、詳細な開催報告を作成し、多くの皆様にご覧いただきます。また、決して机上の空論で終わらせず、お話いただいた内容を実行していくのが我々の務めであると感じております。オンラインで聴講されている皆様も多くを共感されたと思います。まさに宮田先生の担当テーマであられる「いのちを響き合わせる」に繋がるのではないでしょうか。
今日伺ったお話に多くのキーワードがありました。「CO-CREATION」の輪を一人ひとりが実現していきましょう。
今後このようなオンラインセミナーを継続して参ります。今後とも宜しくお願いいたします。