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スマートヘルステックシティ創出に向けた産学公民共創シンポジウム
〜大阪・関西万博を見据えたスマートシティの可能性〜 開催報告

2020年3月19日

「スマートヘルステックシティ創出に向けた産学公民共創シンポジウム」を、2020年1月27日(月)、堺市芸術文化ホール(フェニーチェ堺)において、堺市健康寿命延伸産業創出コンソーシアム(SCBH)主催、堺市共催、大阪府と大阪健康寿命延伸産業創出プラットフォーム(OKJP)協力のもとに開催させていただきました(事務局:堺市市長公室企画部企画推進担当、株式会社ダン計画研究所、株式会社健康都市デザイン研究所)。経済産業省近畿経済産業局様、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会様、一般社団法人医療国際化推進機構様、関西公立私立医科大学・医学部連合様にご後援を賜り、厚く御礼申し上げます。経済界、学界、医学界、経済団体、行政機関などの約200名の方にご参加いただき、盛大に開催出来ましたことを御礼申し上げます。

開催趣旨:健康寿命延伸産業の創出には、健康や介護を含めた総合的な分野にわたって、かつ、新しい技術や手法で、住民ニーズに的確に対応することが求められます。泉北ニュータウンは、まちびらきから50年が経過した高齢化が進む地域ですが、今後、公的賃貸住宅の建替や駅前再整備など、新たなまちづくりが進む地域です。SDGs未来都市である堺市において、泉北ニュータウンをモデルに、産学公民がともに力をあわせ、住民がいつまでも楽しく健康で暮らせる新たなまちづくりを進めています。また、大阪府では大阪・関西万博を見据え、新たな技術や手法を活用したスマートシティ戦略の検討を進めています。堺市健康寿命延伸産業創出コンソーシアム(以下、SCBH)では、「ヘルスケア」を軸とした「スマートシティ」形成の可能性についてディスカッションし、SCBHの取組を全国の企業・大学等に発信する趣旨で、シンポジウムを開催致しました。

開会のご挨拶

永藤 英機 氏 堺市長 本日はお忙しい中お集まりいただき有難うございます。シンポジウムのタイトルである「スマートヘルステックシティ」の定義を私なりに考えてみました。スマートヘルステックシティとは「先端技術を賢く使って、健康で長生きができるまちにしよう」ということだと思います。これまでも新しい技術は、時代ごとに生まれてきました。昨今では、AIやIoTなど様々な技術が生まれています。これらを活かすことで、これからの長寿社会・高齢化社会を、暮らしやすく、そして楽しく過ごすことが出来るのではと思っております。そして、その実証実験の場として最も相応しいと考えておりますのは、堺市にある泉北ニュータウンです。
現在、泉北ニュータウンは高齢化が進んでいます。大阪府下の高齢化率は28%ですが、泉北ニュータウンは35%で、大阪府下の平均よりも7%高くなっています。日本全国で高齢化率が35%を超えるのは、内閣府推計によると2040年と言われています。つまり、泉北ニュータウンは日本の将来を映しています。これから日本が迎えるであろう、超高齢社会を見据えて、是非とも企業や関係者の皆様に、新しい技術を堺市で活用していただき、全国のモデルケースとなるように取り組んでいただければと思います。
そして、大阪にはもう1つ大きな目標があります。2025年の大阪・関西万博です。万博は、世界中から素晴らしい技術と産業が集まる、未来を示すイベントです。その万博の際には、堺市でも新しい技術と産業、IoTやICTを活用した様々な取組をご覧いただく場を設けて、その先の未来のために貢献したいと考えています。
これまでも、泉北ニュータウンは様々な関係者の方々にご活躍いただいています。堺市がきっちりと責任を持って、企業の皆様が進出する際の橋渡しを行います。そして、ヘルステックを実験実践する場を提供し、取り組んでまいります。
このシンポジウムで積極的に意見交換をしていただき、未来の先端技術を使った健康をお考えいただく機会になればと思っております。
結びにあたりまして、本日シンポジウムにご登壇していただく皆様、また、開催に際してご尽力いただきました関係者の皆様、そして本日ご来場いただきました皆様に心より感謝申し上げます。

第1部 講演

第1部では、経済産業省政策統括調整官(兼)厚生労働省 医政局 統括調整官(兼)内閣官房健康医療戦略室次長 江崎 禎英氏に「人生100年時代を生きる-高齢化の進展と疾患の性質変化を踏まえて-」、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会 理事・副事務総長 森 清氏に「2025年万博:大阪・関西経済への影響とSDGs・スマートシティ」と題し、ご講演を賜りました。

基調講演「人生100年時代を生きる-高齢化の進展と疾患の性質変化を踏まえて-」 江崎 禎英 氏
経済産業省政策統括調整官(兼)厚生労働省 医政局 統括調整官(兼)内閣官房健康医療戦略室次長
「人生100年時代を生きる」に当たって大切なのは、高齢化に対する固定観念を捨てることです。国の内外を問わず、高齢化に関する議論では「高齢社会は暗い社会だ。経済は沈滞し、医療費や介護費などの社会保障費が増大する。こうした課題に如何に対処するか」というテーマ設定ばかりです。
まずは、高齢化の意味を捉え直すことが必要です。高齢化を示す表現は様々ありますが、国連の定義によれば、高齢化率が7%を超えると「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」、21%を超えると「超高齢社会」となります。7の倍数が基本です。この定義に従えば、日本の高齢化率は2018年9月時点で28.1%となっていますから、日本は既に「超高齢社会」をも超えて高齢化が進んでいるのです。
国連が行った2060年の高齢化率の推計では、世界の国や地域の約半分が「超高齢社会」に突入するのですが、その時点でも日本は世界トップの高齢社会で、高齢化率は40%を超えると推計されています。このため高齢化を扱った記事や書籍の多くは、今後日本では高齢者が激増し、近い将来には高齢者だらけの歪な社会がやってくると書かれています。しかし、事実は違います。今後日本では65歳以上の高齢者数はほぼ横ばいで推移し、激増などしません。高齢化率の上昇は若年層の減少が原因なのです。中国も含め多くの国々がこうした構造によって高齢化が進むのです。
ちなみに、私たち人類の生物学的な寿命は約120年と言われています。「還暦」とは暦が1周したという意味です。暦が2周する120歳は「大還暦」と言います。仮に、全ての人々が120歳まで長生きし、人口構造が安定した理想の長寿社会では、高齢化率は理論上46%程度になります。つまり、高齢化の進展は決して悪いことではなく、誰もが健康長寿を望みそれが実現した場合の必然の結果なのです。
かつて織田信長公が「人間50年」と言ったように、日本社会では何百年という長きに亘って「還暦」辺りが寿命でした。他方、1980年代以降60歳を超える方々の比率が拡大し今や人生100年時代を迎えようとしています。これからは誰もが100歳近くまで生る時代が長く続くと考えられ、私たちは1000年に一度とも言える時代の大転換期を生きているのです。
他方、現在の日本の社会保障制度は、多くの人が還暦辺りで亡くなっていた時代、しかも生産年齢人口の割合が非常に高く、他方で高齢者層は極めて少なかった時代に作られています。人生が暦の1周目で終わることを前提に作られた制度が、誰もが2周目の人生を生きるようになった時代に上手く機能しないのは、ある意味当たり前なのです。
高齢化は対策すべき課題ではなく、私たちが真に取り組むべきは、「人生100年時代をいかに楽しく意義あるものにするか」であり、2周目の人生における「幸せの形」を見つけることなのです。つまり「高齢化対策」から「長寿社会における社会の仕組み作り」へと転換することが必要なのです。健康長寿社会では「自律(自分のことは自分で決める)した生活の確立、社会的役割と自由が確保される社会の構築」が必要であり、医療・介護はあくまで「自律をサポートする仕組み」であると認識することが必要です。
元来、医療は命を護るための「術」です。人類の歴史を振り返ると、人が命を失う原因は、飢餓、不衛生、暴力や戦争などで、直接的には感染症やケガといった外因性の疾患で亡くなる例が大半でした。それが経済の発展や衛生環境の向上、医療技術の発達などにより、感染症の割合が大幅に減少しました。しかしその一方で、現代では、食べ過ぎ、運動不足、ストレスなどによる生活習慣病や老化由来の内因性疾患が主流になっているのです。
本来であればこうした疾患の性質変化に伴って、医療の在り方も見直されるべきなのですが、医療保険も法制度も従来のままです。現在の介護制度も“生きる”ための支援が中心です。この結果、医療費や介護費は高齢化の進展を大きく上回るペースで拡大しているのです。
では、今後の医療や介護はどうあるべきなのでしょうか。従来の医療サービスはあくまで病気になってからのスタートです。感染症が中心の時代は“予防”と言っても精々ワクチンを打つか、手洗いとうがいを励行するくらいです。公的医療保険制度も病気と診断されない限り適用されません。しかし、今後の医療では、生活習慣病や老化由来の疾患が大きなウエイトを占めますので、生活管理による予防と進行抑制が極めて重要になります。再生医療や遺伝子治療など最先端の医療技術も最終手段ではなく、先制医療として早い段階から投入すべきです。
他方、介護においても「お年寄りは弱いもの、支えられるべきもの」という発想から、「最期まで自律した生活を目指す」ためのサポートへと変えていくべきです。具体的には、可能な限り今まで通りの生活を続けることを目指し、仮に施設で暮らすことになっても、新たな役割や活動の機会が提供されることが重要です。例えば、地域の世話役やボランティア、野菜や花を育てペットを飼うなど、最期まで生きがいを感じ、誰かに「ありがとう」と言って貰える環境を実現するのが介護の役割だと思います。
「人生100年時代」の医療・介護では「病気にならないよう健康管理に努め」、「仮に病気になっても重症化させず」、そして「治療や介護が必要になっても社会から切り離さない」ことが基本となります。こうしたサービスの提供には、公的保険だけでなく、民間による公的保険外サービスの充実が不可欠です。また、生涯を通じた健康医療介護情報システムの構築なども必要でしょう。
これらの点を踏まえれば、これからのスマートシティとは「高齢者がやりたいことをサポートする」社会であるべきでしょう。先程、人生には2周目があると言いました。実は2周目の人生こそが本番なのかもしれません。「1周目を生きる若者が2周目を生きる高齢者を支える」のではなく「2周目を生きる高齢者が1周目を生きる若者を支える」のです。生涯現役であることはあたりまえであり、大切なのは「80歳になっても、100歳になっても今が一番楽しい」ということです。
2025年の万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」です。しかし、その姿をデザインした人はまだ誰もいません。是非、皆さんにまちづくりの中で私たちが向かうべき未来社会を実現していただきたいと思います。「お年寄りが最期まで笑顔で過ごせる」泉北ニュータウンが実現することを祈念して、私の講演を終わります。

講演「2025年万博:大阪・関西経済への影響とSDGs・スマートシティ」 森 清 氏
公益社団法人2025年日本国際博覧会協会 理事・副事務総長
私は先程基調講演をされていた江崎様と同じく、経済産業省から関西に参りました。中東やアフリカの専門家ですが、サイバーセキュリティも専門分野です。3年ほど前に、2025年に万博が開催されるため、近畿経産業局に赴任しました。そして現在は、2025年日本国際博覧会協会で理事・副事務総長を務めています。これから「今、万博がどのように議論されているのか」をお伝えします。夢洲のイメージ図をご覧いただくとお分かりいただけますが、堺は夢洲から非常にアクセスが良い場所です。予定では、コスモスクエア駅から大阪メトロ中央線を延長させて夢洲駅が地下に誕生します。車で来場される方は、一旦駐車場に車を駐車して、バスに乗り換え、会場まで向かう「パークアンドライド」方式を利用していただきます。加えて海からのアクセスも、船着場を大阪市が建設予定です。その夢洲ですが、万博のテーマの「いのち輝く未来社会のデザイン」をどう実現すれば良いのか、様々な有識者の方にご意見を賜っています。
今日は「2025年万博:大阪・関西経済への影響とSDGs・スマートシティ」というテーマでお話しします。大阪・関西経済への影響とは何かについて、先ず、お話しします。そのためには関西経済が日本経済全体に占める割合を見る必要があります。関西の人口はほぼ横ばいで、大きな増減は見られません。では、日本全体の経済活動における関西経済の比重はどの様に推移してきたのでしょうか。関西経済は金額では85兆円で、うち半分は大阪が占めています。過去50年間の中で日本経済全体の伸び率よりも、関西経済の伸び率の方が良かった時期が2回ありました。1回目は昭和34年頃から昭和49年の高度経済成長期です。この時代には、日本経済に占める関西経済の比重は17.5%から20.5%になり、3%の伸びがありました。重化学工業・繊維産業を主体として輸出が盛んになったことが要因です。そして2回目はバブル経済の時代です。この時代には、たった5年間で日本経済に占める関西経済の比重が17.5%から18.5%まで伸びました。そして、その頃に大阪花博が開催されました。つまりお伝えしたいのは「2025年の万博で3匹目のドジョウを目指しましょう!」ということです。1970年の大阪万博後はオイルショックが発生し、関西の経済成長はどんと減少しました。また花博の後は、1995年に阪神淡路大震災があり、経済成長率が滞りました。そして、大阪湾周辺にあった液晶パネルなどの工場の閉鎖などの影響で、経済成長率が更に下がりました。2025年の万博の際には是非、開催前だけではなく、開催後もずっと、経済が成長することを目指したいと思っています。
最近、若者の間で、東京への関心が非常に高まっています。しかし、東京への転入超過数が上昇傾向になったのは平成8年以降です。寧ろ、1970年から1980年にかけては公害などにより減少傾向でした。一方、関西はほぼ横ばいで推移しています。関西には大学や専門学校が数多くあり、また、初めて就職する地が関西であるという方は多くいます。しかし、男性は20歳を超えると、女性は25歳を超えると関西を離れてしまうのです。この流れを断ち切るために、万博を活用しましょう。
次に、これからの大阪の「BAY」についてお話しいたします。1970年の万博の時は、重化学工業と繊維産業の「BAY」でしたが、オイルショックの影響を受け衰退しました。バブル経済の後は「パネルBAY」と言われていましたが、これも厳しくなりました。では次はどうすればいいのか、一案としてあるのが「海外から人や物が来る、そして出て行く」と言う役割です。先ず、関西国際空港や神戸空港があり、各種港湾施設もあります。そしてその近くに、この堺市があるのです。
では、2025年の万博をどのようなイベントにしていくかお話しします。 我々はテーマを「いのち輝く未来社会のデザイン」として実施します。そしてサブテーマとして「いのちを救う」「いのちに力を与える」「いのちをつなぐ」、この3つを掲げています。そしてコンセプトは「未来社会の実験場」であり、このコンセプトが今日のテーマのスマートシティに関連しているのではと考えます。
開催期間は当初よりも20日早めました。ゴールデンウィークの前に助走期間を設けて、様々な修正を行い、より快適な形で多くの来場者の方を受け入れる体制を作るためです。
テーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」について、我々は当初、その“いのち”とは、人間を中心に考えていました。しかし議論を深めるうちに「地球上のいのちすべてを輝かせる万博にしよう」という考えが出てきました。1970年の大阪万博は「人類の祭典」と言われましたが、さしずめ、2025年の万博は様々な生態系をも含んだ「いのちの祭典」という形になるのかもしれません。
各国や各企業の方々に、パビリオンの誘致を行う際は、サブテーマの「いのちを救う」「いのちに力を与える」「いのちをつなぐ」、この3つの概念の1つ、2つ又は3つ全てからインスピレーションを受けて、各自のテーマを設定して下さいとお願いすることにしております。
では、日本館の内容ですが、この3つのサブテーマを全て含んだ意味を持つ「SDGs+beyond」を体現するパビリオンにすると計画しています。SDGsは「2030アジェンダ」と言い、 2030年へ向けた目標です。万博が開催される2025年は、2030年まであと5年と迫っています。そこで「SDGs+beyond」として、2030年よりも先を見据えた目標を設定することとし、現在、国連などと議論を進めています。2025年の万博の開催期間中に世界中から哲学者や文化人を集め「2025年の先、2030年の先、そしてもっと先の人類はどうなっていくのか。また、生態系はどうなっていくのか」を議論する場を設けてはどうかという意見があります。そして、万博が終盤を迎える頃に、それらを取りまとめた「SDGs+beyond」宣言の発信をしたらどうかという訳です。活発な議論を2025年の万博内で行い、大阪・関西から今後の人類や生態系そのものがどうあるべきかについて発信できないでしょうか。
一方で、我々博覧会協会でテーマを設定し、テーマ館を作ることも計画中です。これは、1970年の大阪万博や愛・地球博とは違う点です。現時点では「食の未来」「まなび・あそび」「未来の産業」「AI・ロボット」「ライフサイエンス」「宇宙・海洋・大地」の6つがフォーカスエリアとして候補に挙げられています。そしてそのテーマの各々に、できれば若いプロデューサーに就任していただき、尖ったアイデアを披露していただけないかと考えています。この6つのアイデア以外も募集していますので、是非皆さんからもご意見を賜りたく存じます。博覧会協会のテーマ館は企業や自治体、NGOなどと協力して展開できればと思っています。
次に、先程「未来社会の実験場」とお話しましたが、それはまさしくスマートシティにも関わる話です。欧米で流行っているPeople’s Living Lab(以下、PLL)という概念を用いて、企業や大学などの様々なグループからアイデアを募集しています。こちらは 1月31日まで公募を行っています。締め切りが直近ですが、一度提出していただくと、2月と3月と修正する機会もありますので、アイデアがある方は是非参加していただきたいです。また、先程プロデューサーについてもお話しましたが、PLLで出た案を、プロデューサーの方々の様々な発想に繋げていただければと考えています。
昨年12月に各界からシニアアドバイザーを任命しました。2025年の万博のプロデューサーは、この春に依頼をしたいと思っています。多くの方々から、そして様々な場で「若い方へのチャンスを」と言う声や、その候補者の名前も耳にします。2025年の万博は、是非、何らかの形で、若い方が活躍され、世界に羽ばたく場にしていただききたいです。
加えて、万博のレガシーについてお話しします。1つ目がハード面のレガシーです。1970年の大阪万博は、ハード面で申しますと太陽の塔と鉄鋼館が吹田市に現存しています。鉄鋼館は最初から恒久施設として設立されました。2025年の万博後は、会場にハードを残すというアイデアもありますが、パビリオンを他の場所に移動させて、モニュメントとして、もしくは実際に使っていただく、と言うアイデアもあります。もう1つが、ソフト面のレガシーです。2025年の万博の開催期間で「SDGs+beyond」宣言を発信し、夢洲をSDGsの聖地とし、何らかの形でソフトレガシーを残していただきたいです。 また「スマートシティの実証実験を夢洲で行いたい」と先ほどから申していますが、その実証の結果をいかに残していくかも、レガシーを考える上での重要な課題です。
最後に、万博開催に向けてのスケジュールをお話しします 。今年の最大の課題は基本計画の策定です。この基本計画の策定の際にはプロデューサーにも携わっていただき、計画を作成することが必要です。基本計画の策定にあたって、ご意見がおありの方は是非お声掛けいただければと思います。また今年はドバイで万博が開催されます。ドバイ万博で、2025年の万博への誘致を行っていきたいと考えております。
東京でのオリンピック・パラリンピックの後、5年後に大阪で万博が開催されます。万博を開催するということは、我々皆が「世界にアピールする権利」を持つということだと思います。堺が、大阪が、そして関西がその権利を持っているのです。そのチャンスを是非活かし、スマートヘルステックシティの実現にも活用していただきたいと思います。

第2部 パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、モデレーターに堺市健康寿命延伸産業創出コンソーシアム(SCBH)座長、近畿大学医学部 医学研究科 公衆衛生学 教授・主任 伊木 雅之氏をお迎えし、堺市副市長 島田 憲明氏、独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)西日本支社 副支社長 塚本 貴昭氏、南海電気鉄道株式会社 都市創造本部 部長 川田 均氏、そして、第1部の講演に引き続き江崎 禎英氏と森 清氏にご登壇いただき、「泉北ニュータウン地域の再生とスマートシティ」をテーマにご討議いただききました。

●モデレーター ・伊木 雅之 氏
 堺市健康寿命延伸産業創出コンソーシアム(SCBH)座長
 近畿大学医学部 医学研究科 公衆衛生学 教授・主任

●パネラー ・島田 憲明 氏
 堺市副市長
・江崎 禎英 氏
 経済産業省政策統括調整官(兼)厚生労働省 医政局 統括調整官
 (兼)内閣官房健康医療戦略室次長
・森 清 氏
 公益社団法人2025年日本国際博覧会協会 理事・副事務総長
・塚本 貴昭 氏
 独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)西日本支社 副支社長
・川田 均 氏
 南海電気鉄道株式会社 都市創造本部 部長

司会:
まずは、パネルディスカッションからご登壇いただく島田様、川田様、塚本様から、其々のお取組みをご紹介いただき、そこからディスカッションをスタートしていただきます。
島田氏:
泉北ニュータウン地域の課題と再生に向けた取組について、ICTの活用という視点からお話します。泉北ニュータウン地域は高度経済成長期に作られた緑豊かなまちです。堺市域の面積は15万ヘクタールで、人口は12万人が暮らす西日本最大のニュータウンです。主な課題は「人口減少と高齢化」ですが、先程の江崎様が講演で仰っていたように、これは大きなチャンスになるのではと考えています。2030年の泉北ニュータウンの人口推計は、1992年のピーク時に比べ半減するとされています。また、高齢化率の推計は2030年に41%で、堺市全体の推計より12%高くなっています。初期に入居した団塊の世代が、2025年に後期高齢者になるため、健康寿命の延伸も課題です。
また、高低差が大きい土地にあるため、高齢者の方が気楽に、快適に暮らせるための、移動手段の確保も重要です。減少している若年層や子育て世代の流入の促進のために、住む場、学ぶ場、なにより働く場を創出し、まちの活性化も図らねばなりません。
泉北ニュータウン地域の課題解決の事例は、全国のニュータウンにとっても好事例となるだけではなく、これから高齢化を迎える世界各国の優れた例になります。再生に向けて地域の課題やニーズを把握すると共に、地域の特性を理解する必要があります。そのために次の3つの取組を連携して行います。「まちの基盤整備」「健康長寿のまちの実現」「スマートシティの取組」です。「まちの基盤整備」については、魅力的な子育て環境の整備に取組みます。具体的には、ビックバンと泉ヶ丘公園の整備を行い、子ども達が1日中遊び、親も楽しく子育てが出来る拠点とします。また、駅前の再整備については、公営住宅の建替えなど、大阪府や大阪府住宅供給公社、UR都市機構、また鉄道事業社と強固な連携を行い、住み易いまちづくりを行います。
「健康長寿のまちの実現」に関しては、具体的には、2023年に近畿大学の医学部と病院が泉ヶ丘駅周辺に開設されます。これにより、医療環境の充実だけではなく、人口の増加や産業の創出などが見込まれます。また、食生活や運動、健康チェックなどの取組で、健康長寿のまちを実現します。また、ヘルスケア産業の創出として、2019年3月に設立した産学公民の連携による「堺市健康寿命延伸産業創出コンソーシアム」において、先導的企業の創出やスタートアップ企業の支援を行います。
最後に、これらを繋ぐハブの役割として、ICTなどの「スマートシティの取組」を進めていきます。その事例として、今年度、泉北ニュータウン地域にて、スマートモビリティの自動運転の実証実験を行っています。将来的には、シェアサイクルなどを活用したいと考えています。
泉北ニュータウンの課題解決は、ICTなどの近未来技術を組み合わせることが大切と考えています。こうした取組が、泉北ニュータウン地域から大阪全体へ、大阪から全国に波及することを願っています。
川田氏:
南海電鉄グループとしては、泉北高速鉄道や泉ヶ丘駅周辺に商業施設を持ち、高齢化・人口減少を背景に沿線価値の向上は必須です。しかし、我が社単独ではできないので、自治体や他の企業と連携を行わなければなりません。先程からの議論にあるように、超高齢社会は必至であり、これを冷静に受け止めながら計画していく必要があります。ただ、泉北ニュータウンは若者が一定数以上流入しなければ、人口バランスが崩れると考えているので、その層への訴求も重要です。また、このままでは今後数十年で医療費や介護費が莫大になる可能性もあり、病気を未病の時点から防ぐ取組も大切です。
WHOの健康の定義では「単に身体だけではなく、心や社会的にもすべてが満たされていること」とあります。日本は幸福度ランキングが年々下がっていますが、幸福度も社会的なサポートや心のゆとり、人生選択の自由が関連しているという分析もあるように、健康の定義とも通じており、当社もこのことを意識してまちづくりを行っています。
我々の取組として、身体と頭の健康という観点からは、桃山学院教育大学・帝塚山学院大学とコラボレーションを行い「シニアを中心に健幸を」として、「ボケない・コケないアンチエイジング筋トレ教室」を実施しています。シニアの方を中心にペアで来場していただき、3ヶ月で10回受講する教室です。身体と頭の運動を行い、シニアの方のやる気を引き出すことを意識しています。また、活動量計をお貸ししその他の日常的な測定を通じて自分の身体に気付きを持ってもらうことを狙いに「泉北健康マネジメント倶楽部」も実施しています。頭と心を豊かにするという観点からは、大学学長による健幸セミナーやまちを考え感じてもらう機会として「まちづくり句会ライブ」などを通して、身近な事象を通した感動と意欲を喚起しています。
また、若い世代や子育て世代を対象にした心と社会の健康づくりの一環として、自分自身を見つめ直すことを目的とした「泉ヶ丘わたし研究室」や、子育てしやすい環境づくりとして「子どもの心理相談室」を開設し、子育て世代の悩みの相談に応じ、お母さん同士のネットワークづくりもしています。
そして、「世代を超えて社会とつながる」という社会的な取組が、これからの健康のテーマになると考えています。泉北まちびらき50周年を契機に「つながるDays」と題し、いずみがおか広場にて、世代を超えて、人が自分のやりたいことにチャレンジし、そしてその人達が出会い、そしてその出会いから新たなものが生まれる、その繋がりを生むための場所と機会を提供しています。
塚本氏:
泉北ニュータウンの中にもUR都市機構が管理する賃貸住宅がありますが、UR都市機構はまちづくりを行っている組織でもありますので、本日は「健康・医療」をテーマにしたまちづくりの事例を紹介します。
吹田市から摂津市にかけて整備が進んでいる「健都」は、UR都市機構が道路や駅前広場等の基盤整備を行いました。場所はJR京都線岸辺駅の北西側にあり、大阪駅から電車で10分程の立地です。従前は約50ヘクタールの国鉄の操車場があり、その跡地のうち約20ヘクタール強が「まちづくり用地」となり、平成19年に基本構想が策定され、平成21年4月に土地区画整理事業の事業計画及び施行規程が認可されました。その後、平成25年に市立吹田市民病院と国立循環器病研究センターの移転が決定し、医療を基本としたまちづくりがスタートしました。現在「医療クラスター」の形成を目指してまちづくりが進められており、市立吹田市民病院と国立循環器病研究センターの他、商業施設や医療モール、ホテルなど民間事業者で整備された施設が開設されました。周辺には、民間のデベロッパーによる1000戸弱の分譲マンションの供給が進んでいます。また、隣接する市有地を活用して「健都イノベーションパーク」として、民間企業を中心とした拠点形成を行っています。フラッグシップの企業としてニプロさんが進出し、今後は、国立健康・栄養研究所も移転・開設予定です。このような拠点施設の連携により、新しい医療の研究・開発を進めることができます。
また民間の分譲マンションでも、国立循環器病研究センターと連携した健康管理システムの提供などの取組がなされています。
伊木氏:
3人のお話を受けて、江崎様と森様には「泉北ニュータウンがスマートヘルステックシティになるために必要なこと」などアドバイスがあればお話しいただきたいです。
江崎氏:
「スマートヘルステックシティ」ですが、そもそもスマートとは何でしょうか。似たようなものに「コンパクトシティ」がありますが、これを参考に考えてみましょう。先ず「誰にとってのスマートなのか」「誰にとってのコンパクトなのか」を考えると分かりやすいでしょう。
コンパクトとは、基本的に行政からみた効率性です。行政サービスを効率的に提供するために、高齢者を集約しようという発想です。本当に高齢者の気持ちや幸せを考えてのコンパクトなのかは疑問が残ります。では、スマートとは何を意味するのでしょう。関係者の間でしっかり考えを整理しておくことが大切です。私の意見を申し上げれば「やりたいことがあって、そのやりたいことをやろうと思ったと時にあれこれ面倒なことがない」ことがスマートなのではないかと考えます。大切なのは、やりたいと思っている人は誰なのか?何をやりたいと思っているのか?」をしっかり考えることです。一方的にサービスを提供する側だけの視点に立つと、コンパクトシティの発想と同じになりかねません。スマートのポイントは「心のハードルの低さ」ではないかと考えます。何かをしたい、誰かの役に立ちたいと思う心を容易に行動に移せる生活環境そこ目指すべきスマートの形ではないでしょうか。
伊木氏:
スマートと聞くとついITを連想してしまいますが、そうではないということですね。森さんはどうお考えですか。
森氏:
スマートシティは万博で言うと「まちづくりの課題を、デジタルを含む様々な手法で改善していこう」と言うことではないでしょうか。万博の会場である夢洲の特徴は、人が住んでいないことです。そのため、泉北ニュータウンや「健都」などで、まちに実際に住んでいる方の課題を抽出して、万博でも活かしていきたいと考えています。万博でスマートシティを実践するにあたって、今直面している課題が2つあります。
1つ目は交通情報や混雑状況、チケッティングなどの課題をどう解決していくのかということです。現状、個別のアプリケーションで対応するか、統合型のもので対応するか悩んでいます。後者がいいと言う声が多いのですが、百科事典のようなアプリケーションは重く、使いづらいと思われます。どのようなアプリケーションが適切なのか検証する必要があります。
また、セグメント別に見ると、パビリオンの外は自動運転での移動が可能であっても、パビリオン内での移動は難しいかもしれません。高齢化社会を考慮すると、家の中での自動運転の需要が増えると考えます。万博ではその実証実験が出来ればと思っています。ただ、現在の自動運転の技術では、非常に混雑した万博会場の中での移動はセキュリティのレベルを下げなければなりません。どう設計したらよいかが今後の課題になると思います。
伊木氏:
万博会場は先進的な技術の実験場になるということで、様々な地域の例を取り入れていただければと思います。
では、他の3名はご自身のご経験を踏まえ「泉北ニュータウンでスマートヘルステックシティを実現するにはどうすればいいのか」をお話ください。
川田氏:
モビリティの企業として、スマートなまちとは「誰もが外出したくなるまち」ではないかと考えます。そのまちづくりには、若い人は楽しく、お子さん連れにとっては安全で楽に、お年寄りにとっては抵抗なく外出出来ることなどが大切です。
泉北ニュータウンは車社会を前提とした設計になっています。幹線道路は車道が広く歩道が狭くなっていて人が歩きにくい構造です。健康なまちづくりや世界の趨勢では、車中心からウォーカブルなまちが主流となっています。今後は「あと1キロ歩きたくなるみちづくり」ということが大事で、道路空間の再編を思い切って行う必要があります。また、泉北ニュータウンの最大の魅力として歩車完全分離された緑道がありますが、狭い、暗い、手入れがあまりされていない、沿道が何もなく寂しいことが課題でしょう。この緑道を歩いて楽しいものに徹底して磨きなおす必要があります。
伊木氏:
泉北ニュータウンは緑道と公園が結ばれていています。その維持管理は今後改善されるでしょう。子ども達が減少しているため、大人や高齢者向けの健康遊具の設置も行われるのではないでしょうか。
塚本氏:
スマートシティを私なりに考えたいと思います。例えば南海トラフ地震発生時のシミュレーションを行った際「地震発生後、どのくらいでどこに津波が到達するか」を予測しています。それらを完全に防ぐための防波堤などのハード整備は、経済的な面や景観の観点で課題があります。津波被害を少しでも遅らせる、減らせる防波堤を作り、併せて避難路、避難施設も用意し、ソフト面でのカバーを行う。「命が助かることが最優先である」と考えた上で、ハード・ソフトの両面を併せ持つまちづくりを行うことが「スマート」ではないでしょうか。UR都市機構も近年はそのような点を意識し、まちづくりを行っていますが、先端技術の応用や、企業等との連携が不可欠だと考えています。
伊木氏:
南海トラフ地震は今後30年の間に約70%の確率で発生するとされ、そう言ったことも考慮したまちづくりが必要になるでしょう。さて、堺市としてはどのように取り組むか、島田様、お願いいたします。
島田氏:
スマートと言うと「やりたいことを面倒なく出来る」ということです。例えば、スマート市役所・区役所と言うと、その場に行かなくても手続きができるなど、システムの簡略化がイメージされます。一方スマートシティは「暮らしが良くなる、住民サービスが良くなる」という視点で、健康寿命延伸や子育て支援、そして働きやすい環境の創出をするなどということだと思います。
先ほど、泉北ニュータウンの緑道のお話がありましたが、その緑道は魅力的であるべきだと私も思っています。しかし、高低差があるのでどう改善していくか課題です。そのため、これから泉北ニュータウンは企業や大学、そして市民の意見も含めて改善を進めていきたいと考えています。
伊木氏:
堺市としても様々な取組をなされるのですね。では、今日どうしても伝えたいことを言い残したという方はお話ください。
江崎氏:
「どのようにまちづくりを行うか」を考えるに当たって必要なのは、経済学の常識を変えることです。現在の経済学では競争力を高めるために「時間と手間」を省くことを推奨します。しかし、2周目の人生を生きる人達にとって、時間と手間は希少財ではありません。それをどう活かすかを考えることが重要です。また先程「スマート市役所」のお話しがありましたが、余りにIT化し過ぎるとそもそも市役所に行く意味がなくなります。○○テックと言うと、何でもかんでもIT化することを考えがちですがそれは本当に正しいのでしょうか。
例えば、AI農業の例ではセンサーとロボットで作業の殆どがIT化されると、農業の楽しさまで奪ってしまいます。農作業は本来楽しいものなのに、効率化ばかりを追求することで農業を「苦役」として捉えてしまうのです。泉北ニュータウンの緑道は「行政が管理する」という常識を見直して、市民に区画を割り当てて草刈りや花を植えてもらうのも一案です。市民の皆さんにまちづくりを楽しんでもらうのです。お年寄りや自由に使える時間が沢山ある人たちが、まちの環境を整え子どもの見守りなど社会参画することで、誰もが住みやすく働きやすい社会になります。それを実現するのが真のスマートシティであり、お年寄りも活躍でき、結果的に子どもが増えることにも繋がるのではないでしょうか。
森氏:
万博に来場する方々は平均5~6時間滞在するので、何らかのデータを採ることが出来ます。例えば、血糖値や歩き方などは測定可能です。パーソナルヘルスレコードを事前に収集出来たらと思っていますが、収集方法・活用方法に悩んでいます。一方で、来場者の健康データそのものよりも、来場者の方にパーソナルヘルスレコードを自ら作っていくことの重要性を訴えた方が価値があるという意見もあります。このような医療健康データの課題について、みなさまからご意見があれば是非賜りたいです。
伊木氏:
2025年の万博については、企業や団体の枠を越えて積極的に意見を交わしていきたいですね。では時間になりましたので、残りの3名から本日のご感想をお願いいたします。
塚本氏:
UR都市機構は、泉北ニュータウンで約8,000戸の賃貸住宅を管理しており、これまでに竹城台1丁団地の建替えに着手しました。現在は住居系の用途地域ですが、商業系用途地域へ変更後は幅広い施設の建設が可能になります。泉ヶ丘駅周辺の団地再生事業は、賃貸住宅の建替えに合わせて、将来的にはその際に発生した土地の有効活用を検討したいと考えています。
伊木氏:
先程のお話にあった「健都」では外部のコラボレーションも行っていると伺いましたが、その事例を泉北でも活用していただき、近畿大学とも連携が出来ればと思っています。
川田氏:
泉北には近畿大学や帝塚山学院大学、桃山学院大学があります。其々、臨床、栄養や食、運動や心理など、各大学の強みがあり、分野融合が必要な健康というテーマにふさわしいので、その強みを生かし、堺市とも積極的に連携を行っていきたいです。例えば、市民の健康状態とこの健康寿命延伸コンソーシアムのプロジェクトとの突合が出来ないでしょうか。大阪府の「アスマイル」というアプリケーションケーションがあり、それと泉北のデータとが連携できれば素晴らしいと思います。また、万博は新技術の実証、ショーケース的な場であり、泉北は実際に人がまとまって住んでおられていてデータ活用もしやすいので、万博での技術を社会実装する場として相応しいと思っています。是非、万博のソフトなレガシーとして泉北ニュータウンに目を向けていただきたいと思っております。
伊木氏:
私から、簡単に近畿大学医学部の紹介をいたします。2023年4月に近畿大学医学部は泉ヶ丘駅前に移転を控えています。主に、高度急性期医療と救急医療を担当しますので、この分野での医療水準は高まり更に充実すると考えています。近畿大学医学部の強みは研究・開発能力です。例えば、薬剤・医療機器の臨床試験の数は大阪でもトップで、現在は249件の治験を実施しています。そのような面でも企業の皆様とコラボレーションが出来ると思っています。
ただ、本日の講演を受け、ヘルスケア領域が弱点であると感じました。しかし、そのようなことに取り組むポテンシャルは十分にあります。今後は、ヘルスケア領域でも尽力したいと考えています。
では、最後に島田様からお話を伺いたいと思います。
島田氏:
本日の皆様の話を伺い、泉北ニュータウンは再生ではなく、新しいまちができるのだと実感しました。健康寿命の延伸に関わる都市が泉ヶ丘周辺に向こう10年で誕生するでしょう。堺市は、調整役はきっちり行いますので、企業の方々に是非、泉北ニュータウンのフィールドを活用していただきたいと思います。
伊木氏:
有難うございました。ではこれにて、パネルディスカッションを終了いたします。
第3部 スタートアップ企業ショートプレゼンテーション

第3部では、スタートアップ企業ショートプレゼンテーションとして、2019年度及び2018年度の「健康産業有望プラン発掘コンテスト」の受賞者6名より、企業やサービスのプレゼンテーションを実施いただきました。

2019年健康産業有望プラン発掘コンテスト受賞者 大阪府知事賞(最優秀賞) 受賞企業 シルタス株式会社 代表取締役 小原 一樹 氏 ・企業ミッションは「データ活用による究極のパーソナライズ」の実現である。
・買い物データを活用したヘルスケアサービスの提供を行っている。
・アプリケーションケーションに連動した買い物データをAI栄養士が診断することにより、自分の栄養状態が分かる。かつ、自分へのお勧めが分かる。
・ヘルスケアとは行動変容である。例えば「この行動を変えてください」と言われても非常に難しい。
・一人一人の異なる食生活を理解し、生活を変えずに、今の生活の中で最適な「選択に変える」ようにする。
・ユーザーのターゲット層は、子育て世代(生活に健康を溶け込ませるため)と、独居のお年寄り(低栄養の改善と家族の方に買い物状況を可視化させるため)である。
・法人の利用方法としては、購買データを収集し、最適なマーケティングに活用できる。

2019年健康産業有望プラン発掘コンテスト受賞者 堺市長賞 受賞企業 株式会社リハートテック 取締役 笠原 直樹 氏 ・「最後まで自分の口で食べましょう」と提唱している。
・赤ちゃんの哺乳瓶にヒントを得た、嚥下機能訓練具「タン練くん」を開発した。
・30年間の歯科医師経験ののち、特別養護老人ホームを設立した。
・その施設にて歯科医師として診療する中で、嚥下に関する筋肉を鍛える必要性を感じた。
・誤嚥性肺炎と舌圧の関係性を殆どの人が知らない。
・「タン練くん」を約1か月~3か月間使用すると、舌圧が向上し咽せる症状が改善した。
・「タン練くん」は特許を取得し、また一般医療機器として登録されている。
・舌は脳神経とつながる感覚神経や運動神経を持っており、自分の口で食べることは自分の活力になる。

2019年健康産業有望プラン発掘コンテスト受賞者 大阪シティ信用金庫賞 受賞企業 株式会社With Midwife代表取締役 岸畑 聖月 氏 ・企業ミッションは「生まれることのできなかった たったひとつの命でさえも 取り残されない未来」の実現である。
・全国に約200名の助産師のネットワークを構築し、企業に「顧問助産師」を提案する。
・助産師は新生児のケアから更年期症状の相談まで、人生に幅広く寄り添える仕事である。
・顧問助産師が、24時間365日オンラインで、健康や子育ての相談に乗る。
・また「オフィス保健室」として企業に顧問助産師が訪問するサービスもある。
・セクハラやマタハラについての各種セミナーを実施している。
・顧問助産師を企業が導入する際のメリットとして、SDGsやダイバーシティ経営への寄与による「新卒採用での訴求」「ブランド力の向上」などが挙げられる。

2019年健康産業有望プラン発掘コンテスト受賞者 大阪シティ信用金庫賞 受賞企業 株式会社モンキャラメル 代表取締役 稲葉 一巳 氏 ・ICチップ入り救急タグを開発し、G20大阪サミット来場者にも導入された。
・要配慮者を中心にアレルギー・既往症などをカードとICチップにチェックし、救急時に聴取できなくてもアプリケーションとカードで情報取得する。
・ICチップ入り救急タグの活用で、救急・災害時インフラの構築が可能である。
・災害時には避難所でICチップの情報を積算し、避難者情報を集計する。そして、正確な避難所全体の情報を災害対策本部に届けることが出来る。
・災害時は通信が途絶することが多いが、その場合でも使用可能である。
・一個200円程と、安価で導入しやすい。

2018年健康産業有望プラン発掘コンテスト受賞者 大阪府知事賞(最優秀賞) 受賞企業 株式会社ノビアス 代表取締役CEO 井上 史之 氏 ・毛髪から様々な健康情報を読み取り、検体情報をベースにしたビックデータを構築する。
・大阪市立大学が開発した技術を応用している。
・従来はデータの収集に120本ほどの毛髪が必要だったが、このシステムでは数本で測定が可能である。
・データの使用用途としては、個人の健康管理や美容関係、そしてサプリのエビデンスなどが挙げられる。
・ターゲットは幅広く、子供からアスリート、美容に関心のある女性まで幅広い。
・中期的プロジェクトとして、クラウド解析により瞬時にフィールドバックができないか考案中である。
・海外展開として、上海のマーケットを見据えている。

2018年健康産業有望プラン発掘コンテスト受賞者 ファイナリスト 株式会社NOVENINE 代表取締役歯科医師 竹山 旭 氏 ・企業ミッションは「歯科医療を通じて日本の医療課題を解決する」である。
・唯一無二の歯科系スタートアップ企業を自負し、創業当初より大阪府・大阪市に支援を受けている。
・予防歯科の臨床の場として、堺市南区晴美台で竹山歯科口腔医院を運営している。
・「歯の不健康が生活習慣病を重症化させる」とし、歯科医院でのプロからのメンテナンスの必要性を啓発している。
・毎日行う歯磨きに着目し、世界初の口臭センサー付きの歯ブラシを開発した。ユーザーは、口臭を日々可視化し確認することができる。
・また、その歯ブラシで口腔内の写真を撮影し、アプリケーションで連携する歯科医院へ情報送信することで、予防歯科に活かすことが出来る。

閉会の辞

島田 憲明 氏 堺市副市長 本日は皆様お忙しい中、ご聴講いただきまして有難うございました。また講師の皆様、パネラーの皆様、そしてスタートアップ企業の皆様、貴重なご講演とご意見、また発表をしていただきまして誠に有難うございます。
江崎様からは、超高齢社会の常識を変えて健康長寿社会を作ること、またスマートヘルステックシティの意味をきちんと理解する必要があると伺いました。
また森様からは、大阪・関西万博がスマートヘルステックシティの実験場にもなるとお教えいただきました。
そのようなお話を受け、この泉北ニュータウンがその実験場として最適であると改めて実感しました。
本日のシンポジウムでの議論や講演が皆様の本業で役立つとしましたら幸いでございます。
「堺市健康寿命延伸産業創出コンソーシアム」はこれからも積極的に活動してまいります。皆様と共に、堺市を、大阪を、そして関西を元気にしていければと思っております。
最後に、ご参加いただきました皆様の、今後益々のご発展とご健勝を祈念いたしまして、閉式の辞とさせていただきます。本日は誠に有難うございました。

シンポジウム後は、同会場において、名刺交換会が開催され、講師も交えて多くの参加者による活発な交流と意見交換が行われました。