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SDGs未来都市・堺の挑戦
健康寿命延伸に向けた産学公民共創シンポジウム 開催報告

2019年7月12日

「SDGs未来都市・堺の挑戦 健康寿命延伸に向けた産学公民共創シンポジウム」を、2019年3月15日(金)、国際障害者交流センター(ビッグ・アイ)において、堺市主催、大阪府協力のもとに開催させて戴きました(事務局:株式会社健康都市デザイン研究所)。経済産業省近畿経済産業局様、一般社団法人医療国際化推進機構様、関西公立私立医科大学・医学部連合様にご後援を賜り、厚く御礼申し上げます。経済界、学界、医学界、経済団体、行政機関等と市民の方々約280名のご参加者様にご参加戴き、盛大に開催出来ましたことを御礼申し上げます。
堺市は健康寿命の延伸・次世代モビリティ・エネルギー利用等の分野における「SDGs未来都市・堺」としての挑戦のうち、健康寿命の延伸について、新たに産学公民による健康寿命延伸産業創出コンソーシアムを設立しました。「SDGs未来都市・堺」の取組みを先導し、近畿大学医学部と附属病院が堺市に移転する好機を活かし、健康寿命の延伸に寄与する産業創出やまちづくりを進め、人口減少と高齢化が進む泉北ニュータウン地域を産学公民が連携して再生させるキックオフ・シンポジウムとなりました、本市の挑戦が全国のニュータウン再生のモデルとなることを目指します。

主催者挨拶

佐藤 道彦 氏 堺市副市長 シンポジウムの開催にあたりご挨拶申し上げます。「SDGs未来都市、堺の挑戦、健康寿命延伸に向けた産学公民共創シンポジウム」を開催するにあたり、ご登壇戴きます講師の皆様をはじめシンポジウムの準備にご協力戴きました関係機関の皆様に厚く御礼を申し上げたいと思います。
本市は、子育て、歴史文化、産業、環境をはじめ、安全安心、都市内分権等、まちづくりの取り組みが評価され、本日のテーマでございます「SDGs未来都市」に昨年の6月、政府から選定都市の1つとして選定を受けました。本シンポジウムのタイトル「SDGs未来都市・堺の挑戦」、その思いは、まちびらきから50年が過ぎ、現在取り組んでおります泉北ニュータウンの地域の再活性化においても、産学公民連携をし、新たな先進的な取り組みを入れながら、産業創出あるいは企業投資の促進を通し、まさにSDGsの理念でございます持続可能な都市、持続可能なエリアを創っていきたいと思っております。その取り組みと致しまして、本日、産学公民の連携組織として30超の団体から構成される「堺市健康寿命延伸産業創出コンソーシアム」が新たに設立されました。このコンソーシアムでは、健康寿命延伸にかかる課題解決、目標を共有し、まずは、泉北ニュータウン地域を中心に取り組みを進め、それをさらに拡大し、全市に展開をしていきたいと考えております。
本日は、まず、株式会社フィリップス・ジャパンの堤社長様をはじめ、近畿大学医学部の松村医学部長様、経済産業省ヘルスケア課の山本様にご講演を戴きます。その後、近畿大学医学部の教授伊木様、日立製作所の吉岡様、竹中工務店の樋口様に加わって戴き、私も含め、パネルディスカッションを行っていきたいと思っております。健康寿命の延伸を目指し、本市がどのように進むべきか、幅広い視点からご示唆を戴きたいと思っております。「SDGs未来都市・堺」として、誰1人取り残さない持続的に発展し続けるまち、この推進に、本日ご臨席の皆様のご支援、ご協力を賜りますよう、この場をお借りしまして、お願いを申し上げる次第でございます。

第1部 講演

第1部では、株式会社フィリップス・ジャパン代表取締役社長 堤浩幸氏に「フィリップスのヘルステックがめざす未来都市創造」、近畿大学医学部学部長 松村到氏に「近畿大学医学部が考える泉が丘移転後のビジョン」、経済産業省 ヘルスケア産業課 課長補佐 山本宣行氏に「生涯現役社会構築に向けたヘルスケア産業政策について」と題し、ご講演を賜りました。

講演Ⅰ:「フィリップスのヘルステックがめざす未来都市創造」 堤 浩幸 氏
株式会社フィリップス・ジャパン 代表取締役社長
本日のテーマは未来都市ということですが、フィリップスは今ヘルスケアの事業に特化して活動を行っております。その中で様々な社会的な課題に直面します。健康な生活、健康な人々、予防、治療、診断、ホームケア、これらを全て個別に最適化すると共に、全体の最適化、エンドツーエンドで色々な生活を守らなくてはいけません。これを実際にやっている会社がフィリップスです。ただ、まだまだ個別最適化のものが多くございます。その中で、今後どういうアクションをしていけば良いのか、これらをまさに今、皆様と一緒に考えようというスタンスにいるところでございます。このような背景には、デジタルテクノロジーが欠かせません。私たちは社会的な諸問題を多く抱えております。医療費の問題、それから高齢化、少子化の問題、過疎化、都市化とか、あるいは、本日のテーマのSDGsの問題。そして、デジタル化、良いウェーブをどうやってこれからの生活、これからの健康に生かすか、これらを具体的にしていこうというのが、私たちの今の取り組み、課題ということでございます。ヘルスケアの中を見ると、色々な変革が起こっています。私共フィリップスも、全世界では127年の歴史、日本でも66年の歴史を持ち、常にイノベーションをやってきた会社です。実は、フィリップスの創業時の事業はライティング事業です。そこから、カセットテープを世の中に初めて出し、CD(コンパクトディスク)をソニーさんと一緒に共同開発し、世の中に送り出したのも、実はフィリップスです。家電も色々やってきました。日本企業さんと一緒にタイアップしてやっているものも多々ありますが、今はヘルスケアに特化した会社になっているわけです。これからは情報化、今までは個別最適化で機械だけ作っていれば良い、あるいは機械だけ提供すれば良いという世界からソリューションに移行します。今やこのソリューションが、今後、5年間のうちにインフォマティクス、情報技術に変わってきます。IoT、AIのサービスがもっと出てくると思います。センシング技術がもっと進歩します。世界が本当に変わります。そういったものをヘルスケアというキーテーマをベースに、私たちが世の中の変革のお手伝いをしてこう、皆さんと一緒にそこに向けての歩みをしようというのが、今現在でございます。
そういう中、私どもの会社の今年の戦略のポイントですが、1つ目がパーソナル化。5つのPの1つ目のPはパーソナル、個別最適化を目指そうということ。医療においても、全体の最適化、平準化のデータが多数出てきています。ところが、最終的にベネフィットを得る、価値創造するというのは、1人1人にマッチングした、データに基づいた治療、診断、健康のアドバイスをしていくということではないだろうかと思っています。従って、統合データから個々に合ったデータをどうやって取るのか。
私はAIの推進派ですが、AIに否定的な面も持っています。実は、今のAIについて、データだけ集めれば良いという点にフォーカスしている方々が非常に多く大変危険だと感じています。中には、セキュアではないデータもたくさんあります。セキュアではないデータが集まったAIは、違った方向に導いてしまいます。パーソナル化のお話に戻りますと、例えば、平準化データはAIで色々なものがあります。私たちも沢山データを持っています。ただ、例えば、フィリップスが世界で持っている多大なデータが日本のマーケットにどのぐらい合うかは正直言ってクエスチョンです。あるいは、日本の中でも、ここ堺のデータと北海道のデータ、沖縄のデータ、どうマッチングするでしょうか。従って、細分化すると同時に、やはりパーソナル化ということを加味しないとなかなかこれからのAIは生きていきません。そして精密化。精密診断、色々な面でもう少し細分化してやってかないと、全体でファジーにやってもなかなかうまくいかないだろうと思います。そして、予防のところを強化していかないと健康な人たちが増えません。国民の医療費も上がり、自治体さんも苦労してしまいます。私たちも得することは1つもありません。やはり予防に焦点を当てて、強化しながらビジネスモデルを多く作り、皆さんへの貢献を高めていきたいと思っています。そういう意味では、SDGsに加えて、高い生産性が必要です。お医者様も今ワークイノベーション非常に苦労されています。企業も4月1日から新しいワークイノベーションスタイルが始まります。そういう意味では、ヘルスケア、健康の中での効率化、活性化、これからの効果測定をやっていかなくてはいけません。
私たちフィリップスの中でも毎日リーン、データに基づいた分析、デイリーマネジメント、プロブレムソルビング、こういったオペレーションやっています。生産性を考えていかなくてはいけません。1社、1人で、これからの世界、これからの社会創造が出来るわけではありません。つまり、パートナーリングというのも実は重要になってきます。今、フィリップスが発表している会社で30社さんとのエコシステムがございます。発表してない企業を含めると60社とコラボレーションをしていますが全て異業種でございます。このようなパートナーシップの中で、私たちは新しい生活パターンを考えていこうと考えております。
ヘルスケアの具体例をお示ししましょう。eICU、ICUの統合管理です。今、ICUのお医者様は日本で減少傾向です。特に過疎地あるいは離島では、ICUのお医者様がいなくて困っています。これは私たちが何か解決できないだろうかということで、実は、一昨年、昭和大学様で、日本、アジアで初めてICUの統合化を実践させて戴き、今もどんどんエクスパンションしております。これはニーズが非常にあります。こういった統合管理も、事業の1例です。また、デジタル病理のシステム、デジタルパソロジーです。病理の先生も、今、日本全国で2200人しかおりません。今後5年間に約500人がリタイアされるといわれています。皆さんが検査して時間がかかるというのは、病理の検査時間に付随するところが非常に大きいわけです。ここを補助するようなデジタル化をやってこうということで、唯一、私どもの会社が薬事を取らさして戴いて、今様々なところで貢献をさせて戴いています。こういったものをうまく活用し、繋ぐということで、1つ1つの個別最適化と全体最適化が重要と考え、病院、クリニック等と連携しながら、病理に仮想化センターのようなものをつくり、皆さんの協力と共に一緒にやっています。
さて、では、なぜパートナーシップが必要なのか。これからはイノベーション、あるいは、多種多様な要求、そしてデジタル化の波で、今までのモデルは恐らく崩壊するでしょう。2、3年先は読めない時代です。そういった中で、私たちは皆さんと共に新しいイノベーション創っていく、新しい発想を創る。その中で1つ1つの答えを見出そうということをやっているわけでございます。その中でもデータの利活用というのがやはり重要になってくるということでございます。私共、実は、この5月の末に日本にイノベーションセンター:Co-Creation Centerを設立します。これは産官学、全ての方々との連携、先程申し上げたような60社を超えるエコシステムパートナーさんと一緒に、色々な技術、あるいは、あるトリガーを例に新しいイノベーションを日本から考えて世界に発信していく、展開していくことをやっていきます。日本初のイノベーションを世界へ。世界の良いものは勿論取り込まなくてはいけないですが、私たちも良いものは世界にどんどん発信してこう、それらのグローバルスタンダードモデルを創っていきたいということで、皆様と一緒に、これからもアクションしていきたいと考えております。
エコシステムパートナーは民間企業だけではありません。自治体さんとも様々な活動をやっております。その1つが、実は札幌市の例です。ここは2022年に向けて、食と健康の都市ということで市が明確にアクションして、私共と大和ハウスさん、大成建設さんと一緒になって食と健康のまちづくりを推進しています。病院が3つ、コンドミニアムあるいはホテル、看護学院、大学、コミュニティセンター、ショッピングセンターが1つの大きなソサエティとして、医療と健康、健康と食のまちづくりをやっていくということが既にスタートしております。そこでやるのが、やはり皆さんとのコラボレーションを通じてまち全体の活性化を図っていこうということ。先程申し上げた社会的な諸問題を1つでも解決していこうというのが大きな目的になっているわけです。例えば、運動。既にこのマラニックイベント(マラソンとピクニックが一緒になったようなイベント)は誰もが参加できるイベントです。日本人の睡眠は世界で1番短いと言われています。世界で一番寝ている国、南アフリカと比べると約2時間違います。この2時間、1年間に換算したら相当量違います。睡眠は健康の1番のもとになっています。睡眠にもっと注力した健康の活性化ができるのではないか、私共は在宅のビジネスもやっていますので皆さんとお話し合いをしているところでございます。あるいは、心臓。これは安心、安全のまちづくり。私共はAEDもやっております。AEDに関しては適正配置をして下さいという働きかけをしています。皆さんが的確に正しく判断し使用できるような活動もやっております。AEDの稼働率は今4.6%です。気候の大きな変動等があるとAEDの使用はこれから増える可能性があります。そういった意味で、安心、安全のまちづくり、AEDだけではないですが、様々なソリューションを考えていくこともやっています。そして、口腔ケア。口腔ケアが慢性疾患の予防になるという統合的なデータを私たちは持っています。これを医療的に取っていこうとしています。私たちのソニッケアーという電動歯ブラシは、Bluetoothでモバイル端末に繋がります。モバイル端末に繋がったデータが歯科医のところにいき、歯科医から病院のドクターのところにシェアする、そうすると、一気通貫で私たちの健康を守る予防策、あるいは慢性疾患にならないための手段、アドバイスがデータオリエンテッドで解析でき、我々にとってのプラスになってくるということでございます。これが札幌の例です。
もう1つ、青森の例をご紹介します。これもつい最近、青森市長とアグリメントを結んで発表したものです。実は、青森市というのは、健康年齢、平均寿命が非常に低いまちです。従って、市民の方々の健康に対して本当に真剣に取り組まれています。そこに、私共はヘルステックセンターというのを創って、在宅モデルの見守り、介護も含めたもの、あるいは、睡眠、口腔ケア、安心・安全のまちづくりを1つずつやってこうということで、厚労省様のサポートも戴きながら行政と一緒にやっていくようなパターンで、今準備をしているところでございます。
国にも色々とサポート戴いてスーパーシティという構想があります。こういう大きな仕掛りの中で、1つ1つの具体化をやっていく、今まさに私たちが1歩ずつ、皆様と共に取り組んでいる例でございます。では、未来都市とは一体どうなるのか。これからは、やはり健康が1つの大きなキーワードです。SDGsの中でのサスティナブルなオペレーション、エコな部分は全て健康に基づくものではないかと考えています。その中で、私たちは3つ考えました。病院やクリニック、移動空間(車等)、住空間の3つです。これらをヘルステックでどうシナジーを創っていくか、この具体化をしていこうということでございます。
1つ目の在宅、ホームについて説明します。私たちは、睡眠時無呼吸症候群等の呼吸の患者さんのケアをやっており、今、日本に70拠点持っています。2時間以内に皆さんのとこに行けるようなサポート体制を持っています。そこを強化しながら、色々なデータを取って、皆さんと共に見守りや具体的な病気の症例、予防の症例を作っていこうということをまず取り組んでいます。これが在宅の医療プラスアルファの部分です。見守りサービス、診療、治療は、今、在宅でもやっていますがこれをデジタル化や新しいソリューションで活性化していこう。繋ぐことによって新しいイノベーションを起こそうということをやっております。ヘルステックセンターで一元管理しながら、皆さんと共に見守りながら、アドバイスをしていくということもやっています。
2つ目がモビリティ。今後も色々なかたちで、移動の中でも新しい健康の手段が作れるのではなだろうかと考えています。車、あるいは車に付随するような、今後の新しい移動の手段が出てくる中での健康づくり、緊急の対応、予防、在宅のサポート等。モビリティを使って活性化していくという手段の具体化を図っています。さらに、市や地区全体が1つになって、自助、公助、共助の世界を進化していこうということの具体化です。これも安心・安全なまちづくりから始まり、社会復帰率を上げてこうとしています。日本の社会復帰率(3カ月以内の復帰率)は、平均約10%いきません。諸外国の大きいところは6~7割いきます。そのくらい安心・安全な都市計画に基づいた対応ができているということを示しています。日本もこれからさらにそれを上回るような、特にここの堺市で色々な取り組みをさせて戴きながら一緒に何か貢献できるような、安心して居住できるまちづくりに貢献していきたいと思います。もちろん今、市民の方々ももっと安心な生活ができることもこれからは必要になってくると認識をしています。
では、私たちは、一体何をやっていくのか。医療機器、機能、お医者様、患者様、こういったものの提言も図っていくと共にここの進化はこれからも技術的なものとして行ってまいります。ただそれだけでは、やはりカバーできませんので、病院全体の統合化、インテグレーション、地域との密着性も図ってこうと考えております。病院も経営がさらによくなるような仕組みを作ることが求められております。これからインフォマティクス、情報をもっと強化し、ITの強化ということにもなってきます。それがサイドチックに動くのではなく、全体最適化で動かなくてはいけません。これがコミュニティ創造に繋がってきます。従って、私たちが目指すコミュニティというのは、健康がまずキーワード。病院、クリニックを中心として、皆さんが本当に健康で安心、安全に住めるような空間を創っていくこと。病院あるいはクリニックから発信するような何か新しいイノベーションによって、健康ということを皆さん意識して、簡単なこと(口腔ケアや睡眠等)から具体化、ソリューションして、データを解析しフィードバックして、皆さんが健康になるような手段を一緒に考えていく。そういったまちづくりを今後ともやっていきたいと考えております。それが自治体、企業、保健との連携、あるいは、自治体の色々なコミュニティ機関との連携にも繋がってくると思います。こういったまちづくりの具体化はこの2年ぐらいにかなりのところで出来てくると思っています。ただ、これも1つ1つが繋がらないのでは意味がないので、同じプラットフォームでアプリケーションを差別化しながら、地域・地域にマッチしたやり方というのがあると思っています。そういう意味では、堺では堺の人々に1番適切なやり方を考えて、同じプラットフォームの中で大きな動きをしていく。そういったイノベーションを今後とも創造できればと思っております。私共フィリップスの仕掛りが、ここ堺市の皆さん、大阪の皆さん、そして、日本の皆さんに大きな貢献をもたらす活動をやっていきたいと考えておりますが、やはりフィリップス1社だけではなかなかうまくいきません。本日お越しの皆さんのご支援、ご協力、自治体様の更なる積極的な展開、SDGs、サスティナブルなオペレーションは人に付随する部分、環境に付随する部分、やはり人づくり=健康でないとなかなかできません。そういったものも考えながら、やはりエコな世界の中でこのSDGsを展開し、それが健康に直接関与するような、最後は人々、市民の皆さんがより活性化、モチベーション高く健康で長くいられ、何かあったときは即治療が出来早く回復できるような社会を皆様と共にこれからも一層作っていきたいと考えております。是非、今後ともフィリップスにご期待戴くと共に、皆様からの色々なご意見、ご指導を賜れば有難く存じます。

講演Ⅱ:「近畿大学医学部が考える泉ヶ丘移転後のビジョン」 松村 到 氏
近畿大学医学部 学部長
我々近畿大学の医学部及び病院は2023年にこの泉ヶ丘に移ってまいります。まだ何も細かいことは決まっておりませんが、本日は、近畿大学医学部が考える泉ヶ丘移転後のビジョンについてお話しさせていただきたいと思います。
最初に、現在我々を取り巻く医療環境について少しお話しします。1990年から2015年までの平均寿命の推移をみますと男女共に平均寿命は延び、どちらも80歳を超えております。2017年度の簡易生命表では0歳時の平均余命すなわち平均寿命は、男性で81.09歳、女性で87.26歳と過去最高を更新しています。逆に、平成29年における出生数は94万6000人、出生率1.43と、残念ながら過去最低になっております。わが国の総人口の推移をみますと、平成28年10月の1億2693万人をピークとして、今後は減少していく時代を迎えます。人口ピラミッドをみますと、2050年には75-79歳をピークとする高齢化社会となります。
我が国の人々の死因をみますと、現在、最も多いのが27.8%を占めている悪性新生物、いわゆる、がんです。次が、心疾患、これは高血圧を除いた頻度です。その次に、脳血管疾患、老衰、肺炎と続きます。男女別にみても、上位5疾患は同じで。順番の違いがあります。最も多くの人々が亡くなるのはがんですが、がんによる死亡数の推移を臓器別にみてみますと、現在、男性で最も多いのは肺がん、次いで胃がん、大腸がんの順になります。一方、女性は大腸がん、肺がん、膵臓がんの順となります。各臓器のがんによる死亡率が年代によって変化している理由として、食生活の欧米化などが考えられています。
高齢化が進み、がんがなかなかコントロール出来ないことで、医療費が増大化しています。昨年の国民一人当たりの医療費は33万2000円であり、国民医療費が国内総生産GDPに占める比率は7.81%、国民所得に占める比率は10.76%となっています。がん治療が高額である例の1つとして、オプジーボという薬があります。オプジーボは肺がんなどさまざまながん種で使われていますが、最初に承認された時の年間薬剤費が3800万でした。現在は半額位になっていますが、それでもかなりの高額です。また、私の専門の白血病領域で間もなく承認されるキムリアという治療法は、一度治療すると5000万の薬剤費がかかります。
平均寿命と健康寿命は、2001年から2103年の12年間でどちらも延びています。その差が病気になってからの寿命です。医療が進歩すれば、この期間を延ばすことのできるのですが、男性では2001年が8.67年、2013年が9.02年になっています。この12年間でやっと0.35年延びたという結果です。一方、本シンポジウムのテーマであります健康寿命ですが、2013年で男性が71.19歳、女性が74.21歳になっています。本日のテーマは、これを延ばすことによって、元気で長寿出来る社会をつくることであります。ちなみに、2016年度の健康寿命の各都道府県別のランキングをみますと、男性では、1位から山梨、埼玉、愛知という順です。大阪府は残念ながら39位で71.5歳という結果でした。一方、女性は、1位から愛知、三重、山梨の順番で、大阪は34位で74.46歳という結果でした。
1998年のWHO憲章では、健康と疾病は別個ではなく、連続するものと考えられています。スライドには、健康から未病、そして、病気になるという流れが示されています。この未病というのは、自覚症状はないけれども検査結果に異常がある状態、あるいは、逆に自覚症状はあるけれども検査では異常が出ない状態です。それでは、健康寿命を延ばす鍵はどこにあるのか、それは、病気を予防し未然に回避することにあります。そのために、我々は食生活、生活習慣を改善して、病気の発症を予防する必要があります。現在も、なぜがんが起こるのかはわかっていません。しかし、がんを発症させるリスク因子はわかっています。明らかになっているリスク因子の中では、たばこが30%、食事が30%、運動不足が5%と報告されています。このように、発症原因不明とされるがんにおきましても、日常生活習慣がその発症に深くかかわっています。健康寿命を延ばすためのもう一つのポイントは、健康診断などで発症前にあるいは早期に病気を見つけ出すことであります。
健康寿命を延ばすために、国は色々な取り組みを行っています。その1つとして「健康日本21」というプロジェクトがあります。「健康日本21」は、第1次プロジェクトが2000年から2012年に実施され、第2次プロジェクトが2013年から2022年までの10カ年計画で、今まさに進行中です。1つ目のテーマは、「健康寿命の延伸と健康格差の縮小の実現に関する目標」。2つ目が、「主要な生活習慣病の発症予防と重症化予防の徹底に関する目標」、これら以外にも合計5つのテーマを掲げ、これらを通じて、「全ての国民が健康で心豊かな生活が出来る活力ある社会を実現する」ことが目指されています。
この堺市は「SDGs未来都市」に選定されております。そして、堺市は、2030年において実現すべき、すなわち、あるべき姿として、「自由と自治の精神をもとに、誰もが健康で活躍する笑顔あふれるまち」を掲げておられます。この中で3つの挑戦を掲げられておられますが、その1つに「市民が安心、元気なまちづくり」があります。我々が関わることが出来る取り組みを挙げますと、「がん対策の推進」、「がん検診の推進」。それから、「がんに対する意識改革」があります。また、「がんになっても尊厳を持って生きることが出来る世界を創る、そのためにがん診療連携拠点と連携して行政を行う」ことを目標にされています。さらに、「健康寿命の延伸」のために「様々な産学連携」、「健康寿命延伸産業の創出」を具体的手段として挙げられています。そして、堺市南区の健康寿命の延伸目標は、2016年で男性80.21歳、女性84.36歳であり、2020年には、男性で半年、女性で半年延ばすことを目指しておられます。
我々が所属する近畿大学は、14学部、48学科と短期大学からなる総合大学です。キャンパスは、狭山に医学部、奈良に農学部、広島に工学部、福岡に産業理工学部、和歌山に生物理工学部があり、中心となる東大阪のキャンパスにはこれら以外の9学部と短期大学が存在しております。近畿大学では様々な研究を進めておりますが、外部組織との研究連携の中心になっているのが、リエゾンセンターです。このセンターは、近畿大学内で得られた幅広い分野にわたる知的資源を活用すべく、民間企業、官公庁外郭団体、自治体などの学外機関との連携を構築、推進し、独創的な技術成果を創出していくことを目指した組織であります。1つ例を挙げますと、「オール近畿大学環境まちづくりの統合研究」があります。このプロジェクトでは、防災、生態系、リサイクル、地域の活性化、高齢化社会に向けた住居高性能化、ユニバーサルデザイン、情報発信、住民合意形成の人材育成、法律整備などを統括して、「人と自然の共生、都市に根ざした環境まちづくり」を産官学のパッケージで進めていくことを目指しています。また、近畿大学は、学内のみならず、地域と連携しながら、「衣食住」に関わる事業を行って参りました。「衣」の分野については数多くの市民公開講座の開催、「食」については農学部が様々な健康食品を開発して参りました。「住」につきましては大阪の住宅供給公社との協働事業があります。
現在、近畿大学では、全学横断研究プロジェクトとして、様々なテーマのもとに、研究クラスター・コアが組織されています。この中には、健康、長寿、発達に関わる研究クラスター・コアがあります。スライドに21個の研究クラスター・コアを挙げましたが、医学部だけではなく、農学部、理工学部、生物理工学部、薬学部等の学部が中心となって、プロジェクトごとに多くの学部が協働して研究を進めております。プロジェクトの例として、医学部の福田教授が進められているプロジェクトをご紹介します。人間は老化すると、肉体が衰弱し、精神的な変化も起こりますし、環境への適応性が低下、病気への抵抗力低下も起こってきます。これらに対して、医学だけで出来ることには限界があり、他分野の力も借りなければいけません。福田教授は、リハビリ学、機械工学、基礎医学、人間工学、再生医学を横断的に融合させ、この課題を克服しようとされています。具体的には、医学部、理工学部、工学部、アンチエイジングセンター、生物理工学部に所属する合計22人の研究者が結集して、このプロジェクトを推進しております。その成果をいくつかをご紹介します。歩行解析のための加速度計は、異常歩行の際にみられる特徴的な波成分を検知する機械です。これは理工学部の米田先生に非常に安価に作っていただき、実際に使用されています。また、高齢者は外に出ていくことを厭われがちになり、単に運動のため室内で歩行器上を歩行するのはつまらないものです。スライドに理工学部の溝渕先生が制作されたバーチャルリアリティを用いた室内歩行器を示します。患者さんが普段散歩されている散歩道の景色をご家族が録画し、患者さんにお見せしますので、この歩行器を用いると室内でも屋外で歩いているような感覚で歩行訓練をすることができます。理学療法士が運動麻痺あるいは筋力低下がある方にリハビリを行う際に、力を適切に調節するのは難しいのですが、本プロジェクトで開発されたシミュレーションロボットを使えば、強度調整が容易に行えます。筋力の低下した患者さんのための筋力強化ロボットなどの開発も行われています。
最初に申し上げましたように、2023年に近畿大学の医学部及び病院が、泉ヶ丘の駅のすぐ近くに移転する予定です。まだ確定ではありませんが、駅から外来棟、診療棟、学部棟という順に並び、病院が駅から最も近いところに配置される予定になっています。現時点で我々が考えている医学部、新病院のコンセプトは、教育、研究、臨床、診療を一体化して、パワーアップした医療を実践することです。このために、近畿大学病院が最も得意とする心臓血管疾患、がん診療のための心臓血管センター、がんセンターを設置する予定です。また、地域包括ケアシステムにおいて、大学病院として高度急性期医療を担う計画です。ITを活用して情報やデータを収集し、地域ネットワークにおける診療への活用も考えております。また、基礎研究と臨床研究の連携を強化して、基礎研究の成果をより早く臨床に応用することも考えております。
堺市では平成26年の2月に「堺市まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定されております。そして、仕事の創生、人の創生、まちの創生という課題を掲げられ、すでに活動を始められております。医学部と病院が堺市に移転させていただき、我々は、堺市と協働して、健康医療産業の活性化、医療の国際展開、医療の国際化を行いたいと考えております。そして、市民の方々にとって最も重要な「健康で安心して暮らせるまちづくり」をお手伝いさせていただく所存です。
最後になりますが、我々近畿大学は多くの企業、連携医療機関、他の多くの大学、行政と手を携えながら、この堺市の健康医療まちづくりを進めていきたいと考えております。そのために、今回立ち上げられたコンソーシアムを稼働、発展させ、イノベーションと健康都市創出による社会貢献活動をこれからも続けていきたいと考えております。

講演Ⅲ:「生涯現役社会構築に向けたヘルスケア産業政策について」 山本 宣行 氏
経済産業省 ヘルスケア産業課 課長補佐
本日はまず我々は経済産業省がどういうヘルスケア産業を作っていきたいのかというコンセプトのようなお話、次に企業向けではございますが健康経営のご紹介、3つ目にヘルスケアビジネスの需要創出とヘルスケアビジネスを作っていくための支援策のご紹介、4つ目に国としてもこれからの社会を見据えて、重点的にやっていかなければいけない認知症対策の取り組みについてご紹介し、最後に、イノベーション支援策のお話をさせて戴きます。
ヘルスケア産業政策の基本理念として、生涯現役社会の構築というコンセプトを掲げています。基本的には産業を振興していくことを念頭に、後程ご説明致します健康経営では、企業の経営層に対して社員の皆さんに健康投資をやっていきましょうという施策を推進し、その広がりは従業員の方のみに留まるわけではなく、最終的にはそれが従業員の方の家族、それが地域に広がっていくということと思っています。我が国は高齢社会ということになっていますが、その中でも、人生100年時代というのもキーワードとして挙げられます。また、定年退職した後の第2の社会活動として緩やかな就労、ボランティア、農業、園芸等の様々なニーズに対して、サービス提供者側から何が出来るのかということを考えています。そういうものをヘルスケアサービスということで、振興していきたいと思っています。例えば1次予防の健康づくりというような観点からは、健康の土台を上げていくということをやっていきたいと思っています。これが健康経営という切り口だと思っています。また2次予防、3次予防と色々な場面で適切なケアが必要だと思います。健康づくりの必要性などに気づいて戴く、行動変容をして戴くためのきっかけづくりはサービスという観点からも、何かお手伝いが出来るのではないかと思っております。
この様な取組の中で、先ずは健康経営の取り組みをご紹介させて戴きます。従業員の皆さんの健康の保持、増進を、今まではどちらかというと会社としてコストという呼び方をしていたと思いますが、これを健康投資と考えましょうという動きになってきております。企業が投資をするということは、それなりのリターンを期待して、お金をかけるということだと思いますが、従業員の方に投資をしていくということは、きっとリターンがあります。元気な社員さんが、元気に働いて戴くことは、会社にとって当然なプラスだと思いますし、そういう会社は外から見ても元気に見えるということはあると思っています。そういうことが複合的に起こることによって、最終的には業績の向上、企業価値の向上ということに必ず繋がっていくと思っております。これを既に6年程取り組んでおります。具体的には、我々は顕彰制度を実施しております。上場企業向けには当初から東京証券取引所と一緒に健康経営銘柄を選定しています。この健康経営銘柄を2年続けたところで、この銘柄は東証の業種区分33の中で1業種1社しか選びませんので銘柄の3年目から上場企業以外の企業や法人に対する顕彰制度として健康経営優良法人認定制度を作りました。この制度では大規模法人部門と中小規模法人部門の2つの部門に分けています。その他、地域においても健康経営、健康づくりをやられている企業を知事や市長が表彰しており、こういう自治体の取り組みと我々も連携していきたいと考えております。なお、健康経営銘柄や大規模法人部門に選定されるためには、健康経営度調査という調査にご回答を戴くということにしております。昨年実施しました調査では1800社からお答え戴いたということで、健康経営も少し普及しているのではと思っています。この健康経営度調査を通じて、健康経営銘柄を選定させて戴くということにしていますが、先月の発表会におきまして、これまでの1業種1社から範囲を拡大し、37の企業を選定させて戴きました。また、大規模法人部門と中小規模法人部門については、今年は大規模法人の認定は約820法人、中小規模法人が約2500法人ということで、我々が当初予定、予想していた数よりも多くの企業からこの制度にチャレンジ戴いたということになっております。
健康経営を更に普及させるために、健康経営に取組むと、何が良いのか、我々もデータでお示しをしていきたいというふうに思っていまして、各所で研究を進めております。また、一つの事例として、アメリカの商工会議所でも労働損失への対応の重要性ということで、アブセンティズムとプレゼンティズムというようなデータもあります。日本だけではなく、海外においても働いている方の健康度を上げていくというのは、重要なテーマとなっていると考えています。また、健康経営度調査の回答を戴いたデータを、学術研究に限って全開示を行っております。学術研究において、健康経営と業績、企業の価値等の研究をされるという方がいらっしゃれば、データを選んで戴いて、そのデータは個社名つきで全部出すということにしています。学会等の力も借りながら、健康経営が企業に対してインパクトがあることを示していきたいというふうに思っています。また、民間の方々で健康経営と業績の関係を独自に研究されて発表されているということも既に何件かございます。
さらに、本日のSDGsと関係のある、ESG投資において健康経営が評価される環境づくりを進めています。このESG投資の中のS(ソーシャル)の中に、ヘルスアンドセイフティというものがあります。先程の健康経営銘柄のような企業が、資本市場から評価をされるという世界を創っていきたいと思っておりまして、これも我々が注力している取り組みとしてご紹介をさせて戴きます。また、地域においても、様々な自治体が健康経営、健康づくりについての顕彰制度等を実施されているということで調査も行っています。我々が健康経営を進めていく中で、やはり中小企業の方々に対して、どうアプローチするのかというのは、非常に考えどころになっています。特に中小企業においては、協会けんぽを中心として、地域の経済団体、例えば商工会議所、金融機関、医療機関等と自治体でタッグを組んで戴いて、地元の企業の健康経営を応援していくというネットワークづくりが必要ではないかと思っております。ネットワークができてくることにより、中小企業に対する健康経営が更に拡大していくのではないかと考えております。
ヘルスケアビジネスを創出する側に対しては、健康への気づき、またその次に法定の健診等のチェックをする、その後、医者による治療、退院された後もケアをしていくという繋がりが必要だと思っています。こういうことを実現するために、我々は、地域版のヘルスケア産業協議会を作りましょうと声掛け致しました。地域版協議会では、ヘルスケア事業者、自治体、医療機関、金融機関など、色々な方に参画戴き、その地域の健康課題を議論して戴いて、そこにサービスとして何が出来るのかということを議論するための場としています。今、全国で40以上の地域版協議会が設立されているということであります。堺市もこの一員ということだと思っていますし、こういう方々がネットワークを作っていくというのも必要だと思っていますので、我々はこの40以上の地域版協議会のネットワークづくりということで、アライアンス会合を開催しました。このアライアンスは、一方的に役所から情報を提供するだけではなく、地域の皆さんから国はこんなことを取組んでほしいということを教えて戴きたいと思っていまして、昨年の8月に行ったアライアンス会合の中で、代表団体を決め、提言書をまとめて戴くということもやっております。そういう提言書も踏まえていきながら、来年度の活動もしくは再来年度の予算等に反映をしていきたいと考えています。また、協議会内で地域の悩みを解決する会がない場合、こういうネットワークを使って、様々な地域版協議会に声をかけて戴きたいと思っています。北は北海道から、南は沖縄までありますので、各地域において健康課題というのは異なっていると思います。自分たちだけで考えるだけでなく、広く皆さんと議論をして戴ける場の創設というのも今後目指していきたいと考えています。
また、公的医療保険や介護保険の周りを取り囲むサービスや医療機関などを支援するようなサービスづくりが必要と思っています。ヘルスケア産業を振興していくときに、問題の一つとなるのが品質です。我々はサービスを振興していく側として市場の整備と品質の向上を目指し「ヘルスケアサービスガイドラインの在り方」というものを検討しています。ヘルスケアサービスをB to B to Cで考え、BとBの間の関係を正しく構築しようということを考えています。具体的には、サプライヤーである業界団体に、ヘルスケアの品質に関するガイドラインを作って戴きたいと思います。その業界団体のガイドラインの作り方、どういう点を踏まえるべきかを「ヘルスケアサービスガイドラインの在り方」でお示しをして、それを踏まえた業界ガイドラインは、仲介者の方々に、「この業界団体のガイドラインは、「ヘルスケアサービスガイドラインの在り方」を踏まえている団体である」ことをアピールしていきたいと思っています。こういう構造により仲介者である色々なプレーヤーの方々が、一定の品質が担保されたサービスを消費者にお届けをして戴くという形があると思っています。同じような話が健康経営の話にもあります。健康経営を実践されている企業やその保険者等が仲介者となって、色々な業界ガイドラインで認められているサービス、また認証を取っているようなサービスを従業員の方々に提供していく場合もあると考えています。
もう1つ我々が注目しているものとして、認知症の対策ということがあります。認知症対策に向けた官民連携プラットフォームの構築ということで、様々な団体等が集まり、認知症に関する研究開発をやっていこうということを考えています。日本医療研究開発機構(AMED)において共同開発体制を作って認知症に対するアプローチをしていく、認知症の評価基準を作っていこうというようなことがメインになってくると思います。また、認知症予防等に関する情報登録サイトも作っています。認知症に対して、自分はこういうサービスが提供できます、こういうフィールドがありますということを、AMEDのホームページに設けてありますサイトにアクセス、登録して戴き、ネットワーク化していくということにも取り組んでいます。
最後に、ビジネスコンテストの結果のご報告をさせて戴きたいと思います。ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテストを3年ほど前から行っています。約4~5社に自社の製品やサービスを紹介していただき、審査してグランプリを決めるというのが基本的で、プラスアルファとして、サポート団体の企業にピッチを聞いて戴いて、連携をしたいと思われた方は札を挙げてもらう形式でやっています。このコンテストは、様々な団体のご協力、サポート団体等と連携をさせて戴きます。また、ヘルスケア分野においてスタートアップで何かやりたいという方が、どこに相談していいかわからないというのはよく聞きますので、ワンストップの相談窓口を設立することにしました。来月には何かしらの形で立ち上がると予定ですので、ご興味のある方はアクセスして戴くとネットワークも広がると思っています。我々は、基本的に健康経営の促進により健康投資を促し、ビジネスコンテストや地域版協議会の設置というような取組により新しいヘルスケアサービスを作っていき、これを車の両輪を回すことで、最終的には健康寿命の延伸と、生涯現役社会の構築を実現していきたいというふうに思っています。

第2部 パネルディスカッション パネルディスカッションでは、モデレーターに近畿大学医学部・医学研究科 公衆衛生学 教授・主任 伊木雅之氏をお迎えし、堺市副市長 佐藤道彦氏、経済産業省 ヘルスケア産業課 課長補佐 山本宣行氏、株式会社日立製作所 社会イノベーション事業推進本部 地域包括ケアプロジェクトリーダー 担当部長 吉岡 正泰氏、株式会社竹中工務店 技術研究所 副所長 樋口祥明氏にご登壇戴き、「SDGs未来都市・堺 健康長寿社会で選ばれるまち」をテーマにご討議戴きました。

●モデレーター ・伊木雅之氏
 近畿大学医学部・医学研究科 公衆衛生学 教授・主任

●パネラー ・佐藤道彦氏
 堺市副市長
・山本宣行氏
 経済産業省 ヘルスケア産業課 課長補佐
・吉岡正泰氏
 株式会社日立製作所 社会イノベーション事業推進本部 地域包括ケアプロジェクトリーダー 担当部長
・樋口祥明氏
 株式会社竹中工務店 技術研究所 副所長

佐藤氏:
堺市の取り組みについてご紹介致します。泉北ニュータウンの再生を考える上で、堺市全域もしくは、その日本の再生モデルにしたいと思っています。いわゆる関西圏のニュータウン分布地図をみると、特徴的なのは、既成市街地は平地から山間部にかけた境界領域の中で、多く造られています。ここの泉北もそうですが、こういう丘陵の中でニュータウンが出来ており、ニュータウンというのは、ある程度、緑があり高低差がある中で作られてきました。それを今、作り変える、新しいニュータウンに変えていこうというのが、我々が取り組んでいる内容でございます。それは単に構造を変えるだけではなく、このニュータウンで暮らす人々の暮らしそのもの、あるいはもともと都市に通う人たちが住むベッドタウンだったニュータウンに生活関連産業等も新しく入れていこうと考えています。後程、具体的に、取り組みの内容を紹介致しますが、泉北での取り組みが広がり他のニュータウンに広がっていくというのは、トライアルが使えるところが多くあるということでございます。泉北ニュータウンは高齢化が進んでおります。高齢化率をみますと、2015年の段階で、堺市平均は26.9%、泉北は32%。泉北ニュータウンの高齢化率は2030年に41%になります。また、泉北ニュータウンの転入出をみますと、多くが転出であり、年齢的には20代から40代、市外からの転入出が多くなっています。75歳以上も転出が多いが、転入も多い結果が出ています。全体的に高齢化が進行しておりますが、転出される方もいる中で、反対にこの環境が良いと転入をされてる方も結構おられる現状がございます。色々なことをブラシュアップしていきますと、子育て層にとってもっと良い環境、高齢者や介護が必要な方々にとってもっと良い環境を再構築していくことで、ニュータウンは、より違うニュータウンになっていくのではないかというのが我々の考えでございます。特色の1つとして、やはり緑豊かな住環境、1人当たりの公園緑地の面積が多い(南区:1人当たりの緑地の面積が23㎡、堺市平均の約3倍)、人が歩ける緑道空間・ネットワークの整備が整っていることが挙げられます。加えて、公的住宅、賃貸住宅、府の供給公社、URの賃貸が約半数ございます。残りは分譲のマンション、戸建。分譲の場合、購入後はなかなか移動がしづらいですが、賃貸は出入りが比較的しやすい。そこが空いてくると問題になりますが、空いたところを活用することで、例えばコミュニティビジネスの拠点、地域の拠点になっていく等の変更が可能になってきます。そこに、子育て層や高齢者にとってのサービスをどういうかたちで提供するのか。また、近大医学部さんが、2023年に移ってこられる中で、やはり医療、介護等と我々の行政と色々な連携をしながら、新しいかたちの健康ビジネス、仕組みを作っていく、そういう土壌が出来てくると考えております。これは住宅に関連して、もう既に取り組んでいる内容ですが、1つは若年世代の定住促進、堺市は補助制度というかたちで関わっております。子育て世代がここに入った時に、家賃を補助する制度等に関わっており、住宅供給公社さん等と一緒に共同事業をやっています。次に、空き室の利用、協議会ができて活動の場になっているので空き家のマッチング等を行っています。3つ目は、高齢者の生活支援、これは堺市全域のおでかけ応援バス制度です。外出することで健康を保持して戴く趣旨でございます。あるいは買い物困難者を支援するというようなサービスもございます。4つ目は、市民の方自らが集まって、泉北に関連して自らが行っているプロジェクトを紹介しています。行政としましては、この泉北ニュータウンの中で、PFIの手法を用いて、原山公園にプールだけではなくジムやリクリエーション施設、槇文彦氏(建築家)の建築物をうまく使っていくようなPark-PFI、つまり施設を民間の人が活用していく、収益を生み集客するような事業展開をやっていく公募をしておりまして、これがほぼ決まっているという状況でございます。以上のように泉北ニュータウンで、SDGsの基本的な理念、経済、環境、社会を結びつけていきます。健康寿命延伸の話に加えて高齢者の外出支援ということで、次世代モビリティの導入、自動運転等、来年度4月から導入することになります。水素についても、臨海部に日本で最大規模の水素を生産する工場がございますので、こういうものを通して、泉北ニュータウンの再生を行っていきます。そのために本日コンソーシアムができたということでございます。
吉岡氏:
今まで皆様方がお話になった内容を、私共日立グループは、どのようにサービスとして提供、社会実装に取り組んでいるか事例紹介のような形でご覧戴きたいと思います。少しだけ私の自己紹介させて戴きますと、現在、本社では社会イノベーション事業をグループ全体でリードする部署におります。もともとは福岡に20年ほど住んでおり、大学病院とPETセンターを共同で運営する事業や医療ニーズが高いお住まいをご提供する事業、経団連のプロジェクトにおいて山口市と一緒に計画を策定した事業、千葉(柏の葉)のヘルスケアのまちづくり等を議論するということをしてまいりました。日立グループについて少しだけご紹介します。今、いわゆるソサエティ5.0を実現するという大きな目標を掲げております。ITと社会インフラ、これらをかけ合わせた社会イノベーション事業に注力しております。その中で、私共がヘルスケアイノベーションを目指して、今、活動をしております。
今日のご紹介はこのケアサイクル、第1部でフィリップスさんがご紹介されていたものと似ておりますが、予防、健診、検査、診断、治療、予後、介護のケアサイクルの中で、今日は予防、健診等のいわゆる健康のところで3つ、治療のところで1つ、予後、介護で1つ、具体的な取り組みをご紹介したいと思います。
まず1つ目、健康経営自体等では、データを活用した健康リスク予測サービスというのを提供しております。最近、ベネフィットワン・ヘルスケアさんと協業で民間企業の従業員さんにご提供するということをプレスリリースしたばかりでございます。健診の結果、日々の体重の変化、色々なバイタルデータを登録しまして、わかりやすい数字で、現在から将来の健康リスク情報をご提供するというものです。健康な方の行動変容が難しいという話はどこでも言われていることだと思います。どう伝えるか、激しい表現も一部含まれますが、例えば、リスク水準、あなたの実年齢に対して実際あなたの健康は今何歳なのか等の具体的な数字でお示しする、入院のリスクをパーセンテージでお提示するということ等、ある意味、非常にレコメンデーションという比較的軽い角度でより具体に内容をお伝えし、健康促進、健康増進に向けた行動変容を促すというふうなサービスです。それと健康経営についても、ICTだけでは難しいと思っておりまして、リアルなサービスとどう組み合わせていくかがポイントだと思っております。私共の健康経営支援サービスでは、アプリケーションを使いながら、現在の健康状態もしくは運動状況、健康生活リズムを可視化し、SNSで仲間との情報交換をします。ここではICTを使います。健康管理に関するイベントの開催、職場でリフレッシュ出来るようなスペースを作る、アクティブレストルーム等も組み合わせながら、健康経営を支援するサービスを提供しております。福岡市の取り組みで、自治体が保有するデータを積極的に活用して、特に医療、介護分野での課題解決を推進するための情報プラットフォームを福岡市さんが整備され、私共で受託し実践しております。例えば、地域の国保の健診、介護、福祉、まちづくりに関するデータが非常に多岐に渡って貯まっております。これをまずは集約するような仕組みを作り、例えば政策立案や効果検証に用いるため、市の職員の方が、分析出来るような仕組みを加えております。AIを活用して分析システムをご提供しております。さらにこれを地域包括ケアに、如何に活用できるか、こんな取り組みも福岡市さんは独自にされています。市が保有する住まい、医療、介護、健診、生活情報等の情報と学部の情報を組み合わせてということを福岡市でやっております。また、治療について、私共は1980年代より、いわゆる陽子線治療装置、重粒子線治療装置、等の粒子線の治療装置を提供しております。昨年、三菱電機さんの事業とも統合し、現在、国内外で27サイト運営しております。昨年から大阪でも大阪重粒子線センターで運用を開始しており、私共が機器、機械、システムを導入させて戴いております。こういった低侵襲な治療法を、積極的に展開するお手伝いをして、当然、予後のところに良い、社会復帰の率を高めていくようなことにも貢献出来るのではないかと思っております。
最後に、実は私共、今年の夏前を目標にして地域包括ケアを支援するサービスをここ関西で阪神阪急ホールディングスさんと共同事業として展開をしようとしております。地域包括ケア、もちろんその色々な課題はありますが、特に在宅で、ニュータウンにずっと住んで戴くために、どんなことが必要か、少しだけご紹介したいと思います。実際に在宅で介護サービスを受けられると、色々な方がサービスを提供しに来られる現実がございます。しかしながら、様々な法人、職種の方が、1人の介護の方もしくは要支援の方のサービスを提供するためには、色々な情報連携が本当は必要であるのにも関わらず、現状は非常にアナログで業務効率が上がらない、または色々なステークホルダーがいるので、本来でしたら、自治体さんが旗を振るということになるのでしょうが、多岐に渡るステークホルダーをまとめて支援することも難しいというようなことが起こっていると思っております。そんな中、私共がそのクラウドを活用しまして、多職種の方が情報を共有するようなサービス、カスタマーセンター、物理的なサービスもうまく組み合わせて、自治体さんや医師会さん等、多職種のステークホルダーの調整もするということで、実は在宅医療介護現場のデジタル化による業務効率向上とケアの向上を実現していくことを民間でやろうとしております。自治体や国にも応援してもらおうということで今年から始めようとしています。やはり如何にして民間企業がこういうところに関わってくるか。更にこれを受益者、利便性を感じる方々からどうやってランニングコストを少しでも払って戴けるようなサービスにしていくか。この辺がポイントではなかろうかということで色々やっております。1957年から、私共は通天閣にずっと広告を出させて戴いております。関西には非常にお世話になっておりますので、引き続き宜しくお願い致します。
樋口氏:
私共は、健康という意味でいうと予防が非常に大事になると考えております。建物やまちにおいて普段の生活の中で、どう健康を維持できるのかという意味で、建物づくりについても、色々な取り組みをさせて戴いておりますので、少しご紹介させて戴ければと思います。私どもは2050年に向けて、環境コンセプトというのを出しております。サスティナブルな社会に向けて、自然やそこで暮らす人を大事にしたいということで、人と自然を繋ぐという中から、カーボンニュートラルな都市を創っていく色々な取り組みをさせて戴いております。CASBEEという指標は環境に配慮した建物を評価するものです。ここの中でも環境負荷をなるべく小さくしたい、省エネは非常に大事な取り組みになりますが、それだけではなくて、建物、そこで暮らす人のために品質の高いものを作っていきましょうと示しています。健康や知的生産性、コミュニケーションが今、非常に大事なキーワードになってきています。こういう中で、10年以上前から、私共の研究所の方では、人に優しい空間の研究をやらせて戴いています。人を甘やかせるという意味だけではなく、色々な環境刺激を人に与えることで、それなりの機能をしっかり発揮してもらうことを意図した研究でございます。これまで大多数の建物では、例えば26度設定、700ルクスにしておけば良いということで、一定の均質な環境を作ってきました。これは大多数の人が不快と言わなければ良い、文句を言う人が少なければ良い、こういう基準で作ってきた空間でございますが、現在、非常に多様な人が色々な活動をしているという状況の中で、果たしてこれで良いのだろうかというところからこの研究をスタートしています。積極的な快適性を得るためには、適度な刺激、その変化というのが、非常に大事だと思います。ただこういうエビデンスが少ないため、エビデンスづくりから研究をしてきたというところでございます。特に健康コンディション、個性、意識、気分というのは、人によって、時間によって、全く異なります。その中で、適切な環境を選んでいってもらうためには、こういうことが非常に大事だろうということで研究を進めてきております。研究の全体像には、光、熱、音、空気質というような環境刺激だけではなく、デザインという視覚刺激も含め、どういう物理刺激があった時に、生理反応を起こして、心理的なことを感じて行動を起こすのか等、エビデンスを取っていく研究を行っておりまして、睡眠という切り口では、サーカディアンリズムというような研究もしておりました。これらの研究、なかなか一企業がやっている研究で、正しいエビデンスを取るというのは、難しいのですが、1つ得られた知見として、変化する適度な刺激というのが大事で、環境、刺激を自分で選択していけるということが、自己選択出来る、自己効力感という意味で非常に意味があるというようなことがわかってまいりました。こういう知見をふまえ、ここ数年ですけれども、「健築」という考え方を提唱させて戴いております。建築の建の字に人偏がついて健築、人と建築が寄り添うことで健康的な環境を実現していく、1人1人の可能性を広げながら、サスティナブルな社会を創るという思いで「健築」という言葉を提唱させて戴いております。私共ゼネコンということで、空間デザインをしていくことは非常に大事ですが、単純に建物の空間が出来れば良いということではなく、そこを使う人がどういうふうに使っていくのか、運用プログラムのところも作らないといけないだろうと考えています。また完成し使ってもらった後の分析評価を丁寧にする中で、デザインやプログラムにフィードバックするという3つのアクションをやっていく必要があるだろうと考えています。もう一方は、健康を保つための空間特性として、どうしても身体的活動の健康だけが意識されがちですが、WHOでも感性に働きかけてストレスを減らす等、この精神的な健康も非常に重要だというふうに言われていますし、コミュニケーションをしていく社会的な健康も、非常に重要視されているということで、この3つの部分をバランスよくやっていくことが非常に大事だろうと考えております。
この「健築」という考え方の事例をご紹介したいと思います。まず1つ目は、空間デザイン、それから感性に関するものでございます。通常のオフィスは、この窓に面したところに、執務スペースを設けることが多く、会議スペースはコアの窓のない側に持ってくるとレイアウトが結構されてきました。実際は光が折角沢山入るのに、眩しいのでブラインドを下してしまい、光環境を殆ど享受出来ないという空間づくりをされていることが多数ございます。このレイアウトの中では、窓際に少しディスカッションスペースを設けて、執務スペースは環境の落ち着いたコア側に持っていくという配置をしており、ここの中で打ち合わせをする等、光を自然に浴びることが出来、サーカディアンリズムにとっても良いだろうという事例でございます。2つ目の事例は、階段を使うことは身体的健康に良いだろうということで、ただ単に階段を歩けといってもなかなか人は歩いてくれないものです。1人1人の履歴に応じた映像をここに出すことで、階段を楽しく利用出来るような取り組みが出来ないかという実験もしております。実験を色々やった中で、階段利用が少し促進するというデータも出てきています。3つ目の事例は、交流、感性に関するところで、最近、立ち席のテーブルというのが、打ち合わせには良いと導入されていますが、そのテーブルに野菜を育てるというのを組み合わせてみたらどうだという取り組みでございます。こちら食べられるハーブ等の野菜を育てられるテーブルということで、緑が目に入ってきますし、ハーブの収穫をしながら、お茶を飲むというようなことも出来、交流を促すような仕組みにも繋がっていくのではないかという取り組みでございます。それから空間デザイン等、感性、身体活動、交流を全て組み合わせたような活動として、7階建てのオフィスの真ん中のところに階段室があり、かなり緩やかな階段を造っているということで、昇り降りが非常にしやすい事例です。少し外側に開いた例では、森ノ宮のキューズモールで、建物の屋上にトラックを造って、建物内でのスポーツ、運動ということも含めた空間づくりに取り組んでいます。
我々建物というところからスタートしてございますが、まちづくりというところに踏み込んでいくにあたって、建物を造る会社だけではなく、日立さんのようなデータを扱われる企業さん、行政さんも含め、運用プログラム、マネジメントのところをやっていくということに今後取り組んでいく必要があるだろうと考えております。
伊木氏:
では、ディスカッションに移りたいと思います。本日のパネルディスカッションのテーマを確認しておきますと、「SDGs未来都市・堺 健康長寿社会で選ばれるまち」ということであります。SDGsというのは、Sustainable Development Goalsの略で、持続的な発展目標ということであります。これには17個の目標がありまして、そのうちの1つは全ての人に健康と福祉をということです。先程、佐藤副市長から、泉北ニュータウンの高齢化率は2030年には41%になるとお話がございましたが、これはなかなか衝撃的な数字ではないでしょうか。41%の高齢者がいる、そういうところで持続的な発展を遂げる、これはなかなか難しい気が致します。そのために必要なのはやはり健康。日本人の平均寿命は非常に高いですけれども、平均健康寿命は、女性は12年、男性は9年程短いということになりますので、これを如何に平均寿命に近づけるかが課題であります。健康寿命の延伸を抜きに、この目標はとても達成できないだろうと思います。そういう意味では、健康寿命を延伸するというのはどういうふうに達成されるべきかが大きなテーマだろうと思っております。本日のディスカッションでは、そういうところに向けて、何か我々にできること、ご示唆を戴ければ、有難いと思い、このパネルディスカッションを企画したところでございます。先程ご講演戴いた経済産業省の山本さんから3名のご発表を聞いて、国として何かコメント、支援出来ること、情報提供、その他ございましたらお願いしたいと思います。
山本氏:
まず副市長様のお話で、我々も事業者さんとのお付き合いが多くある部署でありますが、松本市は世界健康首都会議という会議を開催されており、市としてもリビングラボということで市役所の方が汗をかいて、企業の新しい製品等を市民の方に使って戴き、市民の方は新しいサービスが利用できて喜んで戴き、企業はそこから戴くデータを、更に活用して、商品の開発に役立てるということを進められています。また、富山市はコンパクトシティということで、まさに本日のニュータウンのお話にも関連するかもしれませんが、中心市街地、路面電車等の駅を中心としたまちづくりに取組まれています。また、長野県も健康づくりに積極的でヘルスケア産業の創出に取組まれています。我々のネットワークが使えるのであれば、是非堺市にもご提供させて戴きたいと思っております。また、行動変容をどう促していくのかというのは、論点でありますし、健康になりましょう、健康作りが重要ですというアプローチよりも、もう1歩、それよりも更に先の目標、例えば、美しい自分を目指していきましょう等、1歩先にある目標を皆さんに提示して、そこに向かって健康づくりをやっていきましょう、というような方法もあるのではないかと思います。やはり事業者からすると、どれだけ利用者がサービスに気が向いてくれるのか、行動変容を促すきっかけになるのかというのは、非常な大きなテーマだと思っていますので、このような説明会、セミナー等も必要だろうと思っています。
また、「健築」というお話は面白いフレーズと思いました。これまた健康経営の話ですが、健康経営オフィスという取組を行っておりまして、オフィス家具を全部変更すると費用がかかりますが、そうはできなくても、何か従業員の健康づくりをオフィスで行いたいという方のために、例えば、廊下に身長に合わせた歩数のシールを貼って、約170㎝の人は、この足跡と同じような歩幅で廊下歩いてみましょう、階段の蹴上部分に、1階からここまで上がったら何カロリー消費していますよというシールを貼る等の取組があると思います。やはり働く人にとって、また住む人にとっても、環境というのは重要ですので、非常に面白い取り組みだと思っています。もう1つは、介護事業所等で、認知症の方は、例えばトイレに行ってもトイレの便座が真っ黒な穴に見えて怖くて座れない、ドアを開けなきゃいけないと思うけれど、ドアが認識できないという問題が出てくるそうです。最終的に認知症の方でも認識できる色で、ドアや便座を塗ることで、トイレやドア位置を認識でき、日常的な暮らしができる工夫が、建築、デザインには必要と思っていますので、是非、取り組みを参考にさせて戴きたいと思います。
伊木氏:
健康経営ということについてかなり強調されていたと思いました。確かに非常に大切なことであろうと思っております。先ほど申し上げたように、私たちは健康寿命を延ばしたい。そうすると、70何歳の人たちに80数歳まで元気に生きてもらうわけです。そう考えると70代で介入しても、少々遅い。50代、60代というところの介入、会社で働いておられる、そういう時期なわけです。そういう時期に、過度に働き、ぼろぼろにしては、健康寿命の延伸なんて絶対ないわけですから、そこに投資をするということが大切だということで、皆さんの企業でも、今働いている従業員を如何に大切にするかが、健康寿命の延伸に繋がるとお考え戴けたら良いと思っております。さて、このシンポジウムは、産学公民が連携をして、健康寿命を延伸させようということを目指しております。そうなりますと、企業の皆さん、大学も、そして行政から住民まで、皆がWin―Winのかたちになっていかないといけないので、Win―Winだけではなく、Win―Win―Win―Winと4ついるというのが、第1回のシンポジウムの結論だったと思います。企業がWinになるためには、地域、あるいはプロジェクトに参入しやすい条件がないといけないと思います。それについて企業のお2人に、お伺いしたいと思っております。こんなことがあったらやりやすいというようなことがありましたら、教えて戴きたいと思いますが、如何でしょうか。
吉岡氏:
少し論点とは違って聞こえるかもしれませんが、私が実感していることをご紹介したいと思います。先程の私のプレゼンの中の最後に、今、阪急阪神ホールディングスさんと一緒に、今事業を立ち上げようとしているという話をしました。地域包括ケアにおける他職種連携のICT、アプリケーションは世の中に多くありますが、ランニングコストを回収しながら、よりそれを使って下さる方を増やすことに対して難しさがあると色々な方が語ります。そこでやっぱり大事だなと思ったことが2つあります。端的に企業がやる以上は、少なくとも最低限コストを回収できるようなモデルを創ることだと思っています。それがなければ補助金を頼り続けることになりますので、継続的・永続的な事業ではないと思っています。それをやるために何が必要なのか、お金を払って下さる方が、本当にこれは大事なもので、自分たちがお金を払ってでも使いたいと思って下さるもの、もしくはサービスにすることだと思っています。私共のようなベンダーが作ったものを是非使って下さいとPRして回ることが多々ありますが、そういうアプローチではなくて、例えば堺市のニュータウンの中で、どういったことが本当に課題で、お使いになる市民の方が少々のお金を払ってでも、これがあると課題が解決できるというところを捉えてサービスにしていくことが大事だと思います。これは先ほど申し上げました地域包括ケアのサービスを阪急さんと一緒に作っている中で学んだことです。そのサービスが刺さっているのかいないのかを謙虚に真摯に受け止めて、生活者目線、カスタマーサクセスが何かということを捉えている。そのためには、多分民間企業だけではなく、自治体さん、アカデミアの方にも入って戴いて、そこを明確化していく作業が必要だと思っております。
伊木氏:
スポーツジムやヘルスケアサービスとして既に事業化されて動いているものあるわけですが、もう1つ殻を打ち破らないと広がりがないということですね。カスタマーサクセス、そういうことが得られるような事業の開発というものが必要であって、それには様々な知恵を絞らないといけないということですね。そういうものがコンソーシアムの1つの役割かもしれません。
樋口氏:
人が動くことが非常に大事ですが、それは健康のために動きなさいということではないかたち、個々の興味に共鳴する魅力的な空間、プログラムを色々な所に作っていくことが、非常に大事だと感じています。そういう空間やプログラムがあると、それを楽しむために人は動き、動くことによって身体的活動が促されていきます。予防の前の段階のところ、普段のような生活をしているところで、健康が実現できていくようなところを少しずつでも増やしていく必要があるという気がします。ある意味組み合わせをうまくしていく、人の興味を合わした組み合わせの空間をバランスして作っていくところも大事だと感じます。そういう意味では、エビデンス取りは意味があると認知してもらうことは非常に大事ですが、一企業で取れるエビデンスは本当に限られています。そういう意味で、大学や研究機関がベースを取っていくようなことを行い、我々空間づくりをするところはそれを活かして空間づくりをする、実際建物を建設するためのお金を出す企業についてはコストの回収に繋がるようなプログラムを作れるかということになってくると思います。行政については、そのサポートをして戴ければと思いますが、吉岡さんもおっしゃったように、補助金はサスティナブルではありません。長続きしないので規制を緩和するっていうところも含めて、お金以外のメリットが生まれていく等に働きかけができると、色々な側面的サポートになるという気はします。
伊木氏:
佐藤副市長、今のお話を聞かれて、企業の努力だけでやるのはなかなか難しい、あるいは自治体のサポートがいると。アカデミアのアイデアなども必要だとありましたが、行政としてこんなことが出来たら良い、これはしないといけないと思われることはございますか。
佐藤氏:
今皆さん言って戴いたことをどう実現するかだと思います。ここ最近まちづくりの手法がどんどん変わってきて、昔は行政が全てやっていたのがPFIという制度が出来て、民間に対して行政が対価を払うという感じです。先程のPark PFI、これは公園があってそこに民間事業者が提案をして集客施設を造って自らのお金で公園を活用して賑やかな公園を造っていく。あるいは、関空はコンセッションということで、民間事業者が空港を借りて空港ビジネスをやっています。今、どんどん民間の知恵を入れてやろうという仕組みに変わってきているわけです。冒頭で申し上げた新しいニュータウンを創ろうというのは、そういう仕組みを変えていき、今、議論されているソフトの仕組みを使って、ハードをどう活用していくか。先程、規制緩和という話もございましたが、行政が持っている財を民に提供して、民のビジネスモデルが成立するようにやっていく。泉北ニュータウンの場合は、規制緩和もあると思いますが、むしろ空間を使って戴く、ここの活用方法を一緒に考えていく、それがどういう仕組かということですが、5年程前に行ったシリコンバレーですごく印象的なのが、フォガティインスティチュートというものがありまして、フォガティさんという地域病院のドクターが、病院の横のインスティテュート(研究所)に世界の医療機械の企業が研究に行くわけです。何をやっているかというと、病院のデータをそのまま研究所でもらいながら新しい医療機械を患者のニーズに合わせて作っていく。それを勉強するために日本の企業さんも来られていました。シリコンバレーは、基本的にあまり高層ビルがなく、自然豊かな中でスタンフォード大学があり、そういう中に新しい次のイノベーション型の施設を創っていくというビジネスモデルが入っています。泉北で今コンソーシアムを創ってやろうとしているというのは、本日のテーマである健康、高齢になってからではなく若い時からという話もありました。健康で楽しく暮らしていくための仕組みを創るにはどうしたら良いか、それをビジネスとして展開する企業も一緒にやっていく、その中で行政というのは、基本的にフィールドを提供し、いわゆるその受け皿となって、時には規制緩和もしながら、ビジネスが展開しやすいように、あるいは呼びかけ人として住民、NPOにはたらきかける、そういう仕組みができれば、ニュータウン再生の核ができていくと思いながら聞いておりました。
伊木氏:
シリコンバレーのインスティテュート、世界の企業の人たちが勉強に来るという話がございましたが、そんな素晴らしいものが堺に出来たらどうだろうかと思いました。2023年4月に近畿大学の医学部が泉ヶ丘に移転します。そういうものも我々のところにできたら良いなと思いながら聞きました。実際なかなか難しいかもしれませんが、先程ディスカッションのときにも話しましたが、近畿大学医学部は、臨床試験は数多くやっています。大阪で1番多くやっているのは近畿大学の医学部です。沢山の企業の方が近畿大学には来ています。でもそれは製薬企業に限られた話になっているので広がりはないわけです。もう少し違ったかたちで、予防的な医療サービスの有効性や、フィージビリティ等を調査するためのフィールドを創れば、そういう企業も多く来てくれる気がします。堺の市民のデータをデータベース化して、そのヘルスケアサービス、あるいは商品、そういうものの有効性やユーザビリティみたいなものを調査出来る仕組みができたら良いのではと思います。
吉岡氏:
大層な話ではなく申し訳ないですが、皆様方のお話を伺っていて、過去、山口県や千葉県でまちづくりの色々な意見交換させて戴いた時の思いと通じると感じたことは、健康増進、健康寿命の延伸で、まちづくりをするという時に、健康維持増進するという話は、すごくシンプルに言うと住み続けて戴く、もしくは、転入して住み続けて戴くとイコールだと思います。この2つを分けて議論をしてビジネス、サービスを考えていく。こういうことが必要だと改めて思いました。健康の先にあるものを見せないとなかなか取り組まない、行動変容しない。チャレンジしていくようなサービスモデルが必要だというふうに感じました。住み続けてもらう、若い世代については多分、子育て世代の施策に何かあると思います。高齢者の場合、死ぬまで自宅に住み続けたいという方が殆どです。でもできなくなって施設に入る。逆の言い方をすると、ずっと住み続けるようなセーフティネット、セーフティなシステムがあれば、皆さん引っ越しもしないし、逆に転入しようと思う方が増える。それが何なのかを色々考えて、地域包括ケア支援サービス、企業さんの知恵がそこに集まってきて実現する、伊木先生がおっしゃったフィールドに貯まってくるデータというのは、実は予後、介護のデータから医療のデータまで凄く価値あるデータになって、今度は副次的に色々な方が世界中から集まってくるのではと思います。
伊木氏:
確かに、健康を維持することと、転入等を一緒にしてはいけないですね。健康を維持するための努力というのはなかなか続かない、全くそのとおりですね。この話は、先程山本さんからもありましたが、健康になると考えることはやめようと。これは、地域保健でも結構言われていることであります。例えば、受診率を上げたいが、健診に来て下さいと言ってもなかなか来てくれない。だが、どういうふうな地域にしたいかを考えて、例えば春になると桜を見て花見ができるような地域を創ろう。そのためにはどうしたら良いか考えていくと色々なことが出来るようになってくる。先の目標は健康ではないということですね。何をしたいかが目標である。それを皆で話し合ってそこへ向かうような地域を創ろうというようなことだと思って聞いていました。
山本氏:
色々な企業の方、自治体の方も、健康や健康寿命等、色々な切り口で取り組まれていると思っていまして、私たちは是非それをネットワーク化しないといけないと感じています。堺市が、堺市だけでやっていても、解決できる部分と解決できない部分があると思います。そこをネットワークに繋げるお手伝いができると思いますし、我が国においてそういう土壌が今出来つつあると思っています。高齢化、高齢社会で大変だという話はありますが、高齢化の先頭を走っている日本が今後どうしていくのかは世界が注目をしているというところだと思います。本日のコンソーシアムの結成を契機に、私達と同じ地域版次世代ヘルスケア産業協議会の仲間だと思っていますので、一緒に取り組みを進めてさせて戴きたいと思いますし、様々な情報を堺市にも提供しながら、Win―Winな社会を創っていきたいと思います。
樋口氏:
先程住み続けるというお話がありましたが、住み続けるという意味で言うと建物そのものに愛着があってなかなか離れたくないというのもあると思いますが、知り合いや生活圏をあまり変えたくないという話もあります。必ずしも同じところにずっと住み続けるということではなく、生活圏の同じ中でうまく住替えをしていくというような発想もありではないかと思います。交通の便やヘルスケアを重点的にやる地域に、年齢に応じて住み替えていくというのも、考え方としてあっても良いのではないかと。そういう意味で言うとまちの中にうまく施設を点在していくというのは、意味があるのかなという感じがしました。これはジャストアイデアなので、全体的にやろうとすると非常に大変なことになりますが、少しそういう発想もあって良いと思いました。
伊木氏:
コンパクトシティの考え方と少し似ていますね。その中でどう適正配置をするか、そういうことを考えるという話ですね。
佐藤氏:
今回は産官学公民ですが、民の仕組み、恐らく本日お越し戴いた企業、コンソーシアムに入って戴いた団体さんは大手の企業さんばかりですけれども、例えば商業施設があった時に、商業施設を造る企業さんと、その商業施設の中に入るテナントさん、同じ民ですが役割が違います。実際にサービスを提供する人と、その人が入る全体を構築する人、全然違うファクターの民間が集まって、例えば健康サービス産業をここで展開しようとした時に、うまく結集していく、コラボ出来るような仕組みも重要ではないかなと思いました。私は行政なのであまりよく分からないですが、おそらく何かそういう役割、サービスの中身が細かいレベルで決まってくると、非常に面白い展開も出てくると思っており、そこは是非お願いしたいと思う点でございます。
伊木氏:
1時間余に渡りディスカッションを戴きました。本日のテーマ「SDGs未来都市・堺 健康長寿社会で選ばれるまち」、健康長寿、健康寿命を延伸することによってこういったまちが誕生するというわけですが、そのためにどういうことが必要か、色々な示唆があったのではないかと思っております。そうすることによって住民の皆さんが堺に住み続けたい、あるいは転入してきたい、あるいは企業が参入してきたい、そういうふうな地域が出来上がっていくのではないかと思った次第です。健康長寿、大変良い言葉ですが、最近長寿と言わなくなったような気がしませんか。高齢社会、超高齢社会とは言いますが、長寿社会とはあまり言わなくなった。長生きというのは昔から人々の夢でありまして、長寿というのは良い言葉です。長く生きることを寿(ことほ)ぐと書いて長寿ですね。ところが最近その超高齢社会の現実が見えてくると、なかなか寿ぐ気分にならない、だから長寿という言葉をあまり聞かなくなってきた、しかしこの泉北ニュータウンの地域を再生して持続的に発展出来るような地域に変えていくと、それはまた長生きを寿(ことほ)ぐ、そういうふうな社会がやってくるだろうというふうに思うわけであります。また同時にそれは日本のモデルとなって、多くの地域がそれに模倣し、世界のモデルになっていくわけです。そういうふうな地域をこの泉北ニュータウンから是非創っていきたい、また本日のシンポジウムがそういう地域の創生に少しでもお役に立てたら大変嬉しいと思っております。私もできる限り努力をしていきたいと思いますので、皆さんの今後のご協力、是非宜しくお願い致します。
閉会の辞

佐藤 道彦 氏 堺市副市長 本日は講師の皆様、パネラーの皆様、コーディネーターの方々、有難うございました。本シンポジウムの議論をベースに、次のプロジェクト、事業に是非結びつけていきたいと思っております。近畿大学医学部が移転される前に仕組みづくりを行っていく、実証・実験も含めて様々なことにトライしていった結果、最後にかたちのあるものを埋め込んでいけるよう是非やっていきたいと思っておりますので皆様のご協力、ご支援、宜しくお願い致しまして、閉会のご挨拶に代えさせて戴きます。

シンポジウム後は、同会場において、名刺交換会が開催され、講師も交えて多くの参加者による活発な交流と意見交換が行われました。