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健全な危機意識を胸に将来世代に希望の襷を繋ぐ
株式会社三井住友銀行 上席顧問 角元 敬治 氏

角元 敬治 氏
株式会社三井住友銀行 上席顧問

生年月日:1962年8月24日生

学歴
1985年 3月 神戸大学法学部卒業
職歴
1985年 4月 株式会社住友銀行入行
2009年 10月 株式会社三井住友銀行
北九州法人営業部長
兼本店上席調査役 SMBCビジネスサポート株式会社(大阪)
2012年 4月 梅田法人営業第一部長
2013年 4月 執行役員 梅田法人営業第一部長
2014年 4月 執行役員
京都北陸法人営業本部長兼京都法人営業第一部長
2016年 4月 常務執行役員
大阪本店営業本部 大阪本店営業第一、第二、第三部担当
2018年 4月 専務執行役員
ホールセール部門副責任役員(西日本担当)
2019年 3月 取締役兼専務執行役員
ホールセール部門副責任役員(西日本担当)
2019年 4月 取締役兼専務執行役員
ホールセール部門副責任役員(西日本担当)、大阪駐在
2021年 4月 取締役兼副頭取執行役員 大阪駐在
2022年 4月 取締役副会長 大阪駐在
2024年 4月 副会長 大阪駐在
2025年 4月 上席顧問
関西経済同友会 活動歴
2016年 4月 入会
2019年 5月 常任幹事
関西版ベンチャーエコシステム委員会 委員長
2020年 5月 グローバル・ベンチャーエコシステム委員会 委員長
2021年 5月 経済政策委員会 委員長
2022年 5月 代表幹事(2024年5月まで)

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はじめに ~パラダイムシフトの加速~

大阪・関西万博が開催される2025年は、太平洋戦争の終結から80年という節目の年でもある。
戦後、民主主義を基盤とした西側諸国の価値観に基づき、日本を含む世界はグローバル化の進展を通じて発展してきたが、足許では、保護主義政策の強化や米中貿易摩擦の長期化等により、その歩みが後退しつつある。加えて、国連総会でのロシアに関する一連の決議において、想定を超える数の反対・棄権票が投じられる等、グローバルサウスの台頭も見られ、国際情勢は混迷の様相を呈している。
また、環境問題をはじめとして、世界が直面する社会課題が拡大化・深刻化していく中、企業活動の前提として社会課題解決への貢献が必須となりつつある等、企業を取り巻くビジネス環境も一つの大きな転換点を迎えているのではないだろうか。
「失われた30年」とも揶揄される低迷期を過ごしてきたわが国においても、ようやく物価や賃金の上昇の動きが顕在化し始め、「金利のある世界」も徐々にその存在感を強めている。わが国は現在、「失われた30年」から脱却し、再成長に向けた好循環の流れを定着させることができるかどうかの正念場を迎えている。

様々な社会課題が山積するわが国

わが国は、経済的競争力の低下、食料自給率の低下、カーボンニュートラルへの移行、少子高齢化・人口減少等、様々な社会課題を抱えている。
経済的競争力の低下という観点では、1989年に世界の時価総額上位10社のうち7社を占めた日本企業が、現在ではトヨタ自動車が50位以内に名を連ねるのみとなっている。
食料自給率の低下という観点では、国際情勢の不透明感が高まる中、わが国の食料自給率は先進国の中でも圧倒的に低い38%という状況である。尤も、肥料や種子等を海外に大きく依存している状況を踏まえると、わが国の食料自給率は更に低く、実質10%にも満たないと考えた方が良いかもしれない。
また、カーボンニュートラルへの移行という観点では、海外の天然ガスや石油といった資源にその多くを依存するわが国のエネルギー自給率は12%と深刻な状況である。2050年のカーボンニュートラル実現という目標を掲げる中、現実的な移行プランを検討していく必要がある。
こうしたわが国が抱える様々な社会課題の中でも、私が最も深刻であると考えているのが、様々な社会課題の根本的な原因にもなっている少子高齢化・人口減少である。ただでさえ人手不足が深刻な中、今後は更にそれが加速することとなり、付随して新たな社会課題が顕在化することも懸念される。

持つべき視座

わが国には様々な社会課題が山積しているが、嘆いているだけでは状況は一向に良くならない。こうした現状から脱却するためには、今この世界を生きている我々が、事実やデータに基づいて現状を正確に理解し、漠然とした将来への不安を「健全な危機意識」に変えることが必要である。我々の世代は、そうした社会課題の顕在化に伴う致命的な影響を受けずに済むいわゆる「逃げ切り」が可能な世代かもしれない。しかし、次の世代、そしてその次の世代へと続いていく将来世代が希望を持って生きていくことができる社会を残していくために、今こそ、我々が自ら考え、責任を持って行動していくべき「当事者」であるという意識を持つことが重要ではないだろうか。
将来世代のために、我々に今求められているのは、資源を持たない島国であるわが国が少子高齢化・人口減少社会に向かっていくことに対する「健全な危機意識」を持ち、誰かが何かをしてくれるのを待つのではなく、自らがわが国や社会、そして将来世代のためにどのように貢献できるかを考え、行動を起こしていくことである。

おわりに ~わが国の多様な地域文化を未来へ~

これまで述べたように、わが国には様々な社会課題が山積しているが、わが国が持つ魅力を再認識し、高めていくことも大事なことではないだろうか。昨今、地方創生が叫ばれているが、私自身、関西経済同友会の代表幹事として日本各地を訪問させていただいた中で、その多様な自然環境と気候に育まれ、継承されてきた地域独自の多様な文化がわが国の誇るべき固有の財産であるということを強く実感した。
一方、東京一極集中が進む中で、地域独自の多様な文化を守り、次世代に繋いでいく人材が地域から失われつつあることは、我々が決して目を背けてはいけない事実である。
今こそ、それぞれの地域が長い時間をかけて育み、継承してきた独自の多様な文化を繋ぎ続けることができる仕組み作りが必要ではないだろうか。それこそが持続可能な地域社会の実現、ひいては将来にわたって多くの国民が誇りを持ち続けることのできるわが国の実現に繋がっていくと考えている。
折から、大阪・関西万博が開幕する。世界各地の文化との出会いは、次世代を担う多くの日本の若者が多様性の大切さに気付くチャンスである。多様な文化との出会いが日本再生のきっかけとなることを願うばかりである。私自身も今を生きる一人として、微力ながらその歩みの一助となりたい。

以上