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「第1回関西公立私立医科大学・医学部連合シンポジウム」開催報告

2017年6月9日

「第1回関西公立私立医科大学・医学部連合シンポジウム ―世界に貢献する最先端の健康医療先進国・日本へ― ~関西公立私立医科大学・医学部連合8大学の先端研究、WHOとの共同研究への期待~」を、2月6日(月)13時30分より、大阪大学中之島センター・佐治敬三メモリアルホールにおいて、関西公立私立医科大学・医学部連合主催、WHO健康開発総合研究センター協力で開催させて戴きました。
経済産業省近畿経済産業局様、大阪府様、大阪市様、公益社団法人関西経済連合会様、一般社団法人関西経済同友会様、大阪商工会議所様、独立行政法人国際協力機構関西国際センター(JICA関西)様、一般社団法人医療機器産業連合会様、一般社団法人Medical Excellence JAPAN様、大阪国際フォーラム様からのご後援のご支援、大阪ガス株式会社様、サラヤ株式会社様、サントリーホールディングス株式会社様、塩野義製薬株式会社様、学校法人滋慶学園様、凸版印刷株式会社様、西日本電信電話株式会社様、阪急電鉄株式会社様、富士通株式会社様、株式会社堀場製作所様、丸一鋼管株式会社様、三井物産株式会社様、ロート製薬株式会社様、株式会社健康都市デザイン研究所からのご協賛のご支援を賜り、厚く御礼申し上げます。寒さの厳しい季節にも関わらず、経済界、学界、医学界、経済団体、行政機関、などから330名を超える方々にご参加戴き、サテライト会場を増設し盛大に開催出来ましたこと、心よりお礼申し上げます。
「関西公立私立医科大学・医学部連合」(京都府立医科大学、奈良県立医科大学、大阪市立大学、和歌山県立医科大学、関西医科大学、大阪医科大学、兵庫医科大学、近畿大学)とWHO健康開発総合研究センターは、日本及び世界の人々に質の高い医療の提供と健康長寿社会の実現を目指し、保健医療政策の共同研究を進めています。
世界に貢献する最先端の健康医療先進国・日本に向け、WHOアレックス所長、AMED末松理事長、関西の8医科系大学の学長・医学部長に、グローバルな視座でのご講演を賜りました。

Ⅰ. シンポジウム
開会の辞:関西公立私立医科大学・医学部連合 代表 / 京都府立医科大学 学長 吉川 敏一 氏
本日はお忙しいところ多くの皆様にお集まりいただき、誠に有難うございます。記念すべく第1回目の関西公立私立医科大学・医学部連合のシンポジウムを開催させて戴きます。 関西の公立4校、私立4校の計8校の医科大学・医学部で構成されています関西公立私立医科大学・医学部連合は、WHOのアレックス・ロス所長、野崎上級顧問官のご指導のもとWHOと協力して、様々な共同研究や施策を行っていくこととなりました。そして実際に4つのプロジェクトを推進していく運びとなっております。本日のシンポジウムでは、WHOとの関わり方や、今後この活動を発展させていく上で重要な各大学が取り組んでいる先端研究事例をご紹介させて頂きます。シンポジウム後には、各大学を代表する数名の教授と産業界をはじめ様々な分野からお越し頂いた皆様とで、実際に様々な研究・開発などに関してディスカッションして頂く機会として個別意見交換会を開催致します。 医学部の入学募集には定員制限があり、年間にして1学年約100~150人の定員で6学年では約1000人です。しかしながら8つの大学を合わせますと相当な人数の総合医科大学となります。例えばWHOとの多様なプロジェクトを行う上でも多くの専門家がいます。あるいは海外に派遣する場合にも海外から受け入れる場合でも8つの大学が力を合わせれば、1つの大学では難しいことも可能となります。関連病院も8つの大学を合わせると約800の病院があります。8校はライバルでもありますが、お互いに多様な共同研究や共同事業を協力して行おうと意気込み結集している連合です。今後も、このようなシンポジウムを1年に数回催し、各大学の先端研究について御紹介する機会となればと思っております。本日は、WHOアレックス所長、AMEDの末松氏のご講演、我々8医科大学の先端研究発表、パネルディスカッション、個別意見交換、交流会と長丁場ですが、どうぞお楽しみください。

第1部 ご講演
招待講演としてWHO健康開発総合研究センター 所長 アレックス・ロス 氏に「WHO健康開発総合研究センターの新研究戦略」、基調講演として国立研究開発法人 日本医療研究開発機構 理事長 末松 誠 氏に「AMEDのミッション:先端研究によるグローバルな課題の解決に向けて」と題し大変貴重なご講演を賜りました。以下にご講演要旨を紹介させて戴きます。

招待講演:WHO健康開発総合研究センター 所長 アレックス・ロス 氏
「WHO健康開発総合研究センターの新研究戦略」
講演抄録

基調講演:国立研究開発法人 日本医療研究開発機構 理事長 末松 誠 氏
「AMEDのミッション:先端研究によるグローバルな課題の解決に向けて」
AMEDは、3つのLIFE(生命・生活・人生)を包含する医療研究開発の推進によって、一分一秒でも早く研究成果を社会に実装することを目的として平成27年4月にスタートした。これまで3省庁に計上されてきた医療分野の研究開発に関する予算を集約して基礎から実用化まで一貫した研究マネジメントを行うとともに、限られた事業費を効果的に運用する制度への変更を推進してきた。AMEDは発足して最初のリーディングプロジェクトの一つとして「未診断疾患イニシアチブ(IRUD)」を立ち上げた。有効な検査・治療法が見つからない、その疾患の専門家がほとんどいない等、様々な困難に直面している未診断疾患の患者さんの診療に必要な体系的医療システムと患者情報を収集蓄積・開示するシステムの構築、そして研究開発の促進を目指すものである。数ある医療研究領域からこの領域に着手した背景には、従来の医療研究開発の多くの課題を改革する糸口が多く存在し、大学改革の課題も包含しており、IRUDにおける課題解決は他の研究領域への大きな波及効果が期待できる。なかでもゲノムデータベースの構築とデータシェアリングは領域を超えて解決すべき重要な課題の一つである。また中央倫理審査委員会を研究開発の特性や領域ごとに普及させることによって、委員会ごとの基準のばらつきを最小限にして迅速な審査を実現することが可能かについても研究プロジェクトとしての取り組みを始めたところである。このような取り組みは医療研究開発の推進にも繋がるものと考える。またAMEDでは実用化に重点を置いた研究開発を重視する一方で、ヒトの臨床データの詳細な分析から得られる新たな研究仮説を拾い上げ、基礎研究にフィードするいわゆるreverse translational researchの活性化が重要と考えている。日本には世界にも誇れる非常に質の高い基礎研究は多い。斬新な基礎研究をどのように医療研究開発に繋いでいくか、他のagencyから創出される新しい科学技術を睨みつつ、AMED自身も基礎研究を応援するとともに、臨床研究から発想される新たな基礎研究の領域が生まれる好循環を構築していく必要がある。そのような仕組みを産学の連携によって構築するための「メカニズム」として平成28年度補正予算550億円が成立した。現在、内閣官房健康・医療戦略室の指示の下、最長10年スパンで資金を活用し、得られた成果による利益によって次の10年で返済を求めていく「出資金事業」を導入し、平成28年度末から募集を開始するべく準備を進めている。講演では本事業についても概説したい。

第2部 関西公立私立医科大学・医学部連合8大学の先端研究発表
8医科大学の各大学の学長・医学部長の先生方に10分間という非常なタイトな時間で、各医科大学の先端研究について発表戴きました。
各大学の発表内容に関しては、下記URLよりご確認くださいませ。

1)京都府立医科大学 学長 吉川 敏一 氏 研究発表内容
2)奈良県立医科大学 理事長・学長 細井 裕司 氏 研究発表内容
3)大阪市立大学医学部 医学研究科長兼医学部長 大畑 建治 氏 研究発表内容
4)和歌山県立医科大学 理事長・学長 岡村 吉隆 氏 研究発表内容
5)関西医科大学 学長 友田 幸一 氏 研究発表内容
6)大阪医科大学 学長 大槻 勝紀 氏 研究発表内容
7)兵庫医科大学 学長 野口 光一 氏 研究発表内容
8)近畿大学医学部 学部長 伊木 雅之 氏 研究発表内容
第3部 パネルディスカッション
「WHOと8大学の共同研究をはじめ世界に貢献する健康医療先進国・日本へ」

第1部、第2部に引き続き、第3部ではパネルディスカッション形式とし、「WHOと8大学の共同研究をはじめ世界に貢献する健康医療先進国・日本へ」というテーマでお話し戴きました。 座長は、WHO健康開発総合研究センター 上級顧問官 野崎 慎仁郎 氏、パネラーは第2部の関西公立私立医科大学・医学部連合の8医科大学・医学部の学長・医学部長の先生方に御登壇戴きました。 以下にパネルディスカッションの様子をご紹介いたします。

野崎氏:
本日はWHO アレックス所長、AMDの末松理事長にご講演戴き、その中で様々なお話がありました。パネルディスカッションのテーマに「健康医療先進国・日本」とありますが、今後様々な研究が行われいく必要があります。日本のことのみならず、高齢化先進国である日本の経験を世界で活かしていくことがアカデミア、産業界、政府、WHOにとっても必要です。本日の講演でWHO アレックス・ロス所長がお話したことを踏まえて非常にシンプルにこれからのストーリーを纏めてみますと、開発途上国とこれまで言われていた低中所得国もどんどん高齢化が進んでいきます。今までWHOは感染症と闘っていれば良いというイメージだったかもしれませんが、もはやそのような時代は終わりました。感染症との闘いに勝利しつつある状況の中で、今度はアジアの国々の急速な高齢化が押し迫り、非感染症疾患Non-communicable Diseases(NCD)との闘いが途上国でも始まっています。
今までの感染症対策はコストが安価なことが多かったのですが、NCD対策は非常に多くの資金を要します。日本のように一人当たりGDPが4万ドル近くある国々は良いのですが、一人当たりGDPが1万ドルを突破するのが難しい、あるいは相当な期間を要する低中所得国には様々な足枷が出てきます。技術的、社会的なイノベーションが必要となります。そこで我々WHO神戸センターは、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)、イノベーション、エイジングの3つをテーマに、これからの研究を進めていくこととしています。そして、関西公立私立医科大学・医学部連合の先生方と協力をして研究を進めていこうと、昨年9月からダイアログ(対話)をスタートしました。
本日のパネルディスカッションの中では、「健康先進国・日本」が世界にどのように貢献していけるのか3つの質問を致しますので、その中から1つ、あるいはミックスしてお話し戴ければと思います。
① 第2部の中でお話し戴いた各大学の先端研究について補足事項。
② 日本が高齢化先進国、あるいは超高齢社会にはいった世界のTop Leading Countries for Aging(高齢化のための主要な先進国)、あるいはAging society(高齢化社会)という中で、世界に対してどのようなことを示しいけるのか。高齢化というキーワードの中で、どのような研究が必要なのか。
③ 我々がUHC、イノベーション、エイジングの3つをテーマの中で各大学の先生方と協力して研究を進めていく中で、各大学の強みについて。
吉川氏:
補足事項としまして、京都府立医科大学には創薬に携わっている日本を代表する専門家が数人います。大学には創薬センターがあり、特に癌に対する治療薬をどんどん作っていきたいと考えています。iPSに関しても京都大学一緒に共同研究を行っていますが、iPSを使わずに化学物質を使用してダイレクトコンバージョンという神経細胞をつくる研究も行っています。再生医療の研究センターの創設や、また本日の講演でお話しましたように、大学内にがん征圧センターがありますので、癌の治療にも力を入れていきたいと考えております。
WHOと高齢化という事を考えますと、やはり我々は高齢化先進国であることがキーになります。今はコホート研究でも100歳以上の方の便や様々なものから健康長寿の解明を行っており、認知症研究だけではなく、健康で長生きするためにはどうすれば良いのか、8医科大学が結集することにより多くの専門家で力を合わせて研究をしていきたいと考えています。
野崎氏:
力強いお約束を戴きまして大変ありがとうございます。
細井氏:
補足事項としまして、MBT(Medicine-Based Town:医学を基礎とするまちづくり)構想についてお話します。先端医療で多くの命を救う事も大切ですが、高齢化社会においては多くの人のQuality of lifeを上げ、70歳頃から亡くなるまでをいかに楽しく過ごせるかが命題となります。そしてまち全体として考える必要があり、そうすることでビジネスチャンスが生まれる機会でもあります。まちには健康な人もいれば病気の人、若者もいれば高齢者もいます。多様な人が皆で助け合っていけるような仕組み作りを行いたいと考えています。その全国での先駆けとして、奈良県立医科大学のキャンパス移転で出来る空き地や周辺にある多様な年齢層が暮らす環濠集落の今井町をフィールドに行っていこうと考えています。フィールドとなる今井町は江戸時代からのまち並みが残る歴史ある街ですが、そのまち並みが崩れつつあります。活動を通して人を救い、まちを救えればと思っています。
MBTは、医師・医学と都市計画が一体となった学問です。この4月から奈良県立医科大学にMBT学を開講します。シンポジウム後の個別意見交換会で参加する3人の教授の内2人はMBT学の専門の教授です。医師や看護師は通常の治療だけではなく、もっと多くの幅広い知識を持っています。その知識を活用し日常生活に関わり、まちにイノベーションを興すというのがMBTの発想です。企業にとっても専門的な知識が得られ、より理にかなった製品を生み出すことが可能となります。また医師にとっても企業と共同研究する機会が得られ、論文を書く等の学問的なメリットがあります。今、MBTコンソーシアムでは次の段階に進み、分科会を設け共同事業に取り掛っています。まちづくりという意味で、体に取り付けたセンサーとICTを結びAIで選り分け医師に受け渡す「機械見守り」と、郵便配達の人、保険の人など街にいる人を組織して知識を与えて情報を得る「人による見守り」を考えています。これには多くの人や企業が参画します。先ずは奈良県立医科大学周辺で行いますが、より多くの企業、人に参加戴いて仕組みづくりを発展させ完成すれば、世界の高齢者化に役に立つのではないかと考えております。
野崎氏:
我々WHOも10年前は医学的な事だけを考えれば良かったのですが、最近では人の権利など色々と考えなくてはならなくなってきています。MBT学とは我々にとっても非常に重要な課題であると思います。
大畑氏:
前の医学部長であった荒川哲男学長が率いる我校のスローガンは、「笑顔あふれる智と健康のグローバル拠点」です。大阪市の大学として地方自治体と協力しながら健康と笑顔あふれる楽しい社会をつくっていきたいと考えています。
先端研究として今1番アピールしているのは認知症の研究で、AMED研究ではJ-ADNIや第4研究があり年間4億円の資金を得ています。その中でも力を入れているプロジェクトは、認知症は発症した段階で薬を投与しても効果がないことが分かっていますので、発症前後の患者さんのデータ取得することです。日本だけではデータ量が非常に少なく、研究解析を行うのは難しいのが実情です。研究を発展させて行く為に、4月11日にアメリカの認知症研究をリードする南カリフォルニア大学ATRI(Alzheimer’s Therapeutic Research Institute)のポール・アイゼン教授らをお招きして講演会を行い、同時に相互協力協定を締結することとなりました。そして日本にもATRIと同じような組織をつくります。日本とアメリカの情報、世界中からアクセスしてくる情報の取得、解析が可能となります。すぐに創薬に繋がるわけではありませんが、今までのバリアを超える研究が可能となるのではないかと期待しています。
感染症では世界的にこの分野で有名な長崎大学の方々を招聘し感染症科学研究センターを立ち上げ、寄生虫や細菌などの研究者が集まり感染症の研究を行っております。感染症の克服ではなく撲滅活動を行っており、アフリカや南太平洋の国々に医師と学生を派遣、現地でのグローバルな研究所の支援を行っています。またWHOの研究事業の1つですが、まだまだ克服されない感染症のテーマに対して、グローバルな立場から取り組んでいます。
さらに国際化にも盛んに取り組んでおり、現在大学生の交換(incoming/outgoing)は、それぞれ約60名、30名です。私が担当する脳神経外科教室の毎朝のカンファレンスは全て英語で行っております。発展途上国からの学生に日本式の医学教育を教えています。また日本の医療機器の世界進展を国の事業として行っています。来週末は経済産業省関係の方15名とインドのAIIMS(All India Institute Of Medical Sciences)で現地の若い医師を集めて講習会を行うと同時に日本の医療機器を売り込みたいと思っています。日本は中曽根首相時代に車を輸出する代わりにアメリカの医療機器を購入するシステムができたとのことで、その為に日本の医療機器はあまり成長がなく、診断機器はあっても良い治療機器はありません。経済産業省と一緒に日本の医療機器を育てていこうと宣伝マンとして色々なところへ出向いています。売り込みたい医療機器がございましたら情報をご提供いただければと思います。
野崎氏:
発症前の認知症の問題、世界的にも非常に大切な問題だと思っています。国際化、日本の医療機器海外展開など、日本が貢献できることが非常に多いのではないかと思っています。
岡村氏:
パネルディスカッションのテーマは「WHOと8大学の共同研究をはじめ世界に貢献する健康医療先進国・日本へ」とありますが、医学とスポーツの融合による高齢者の健康増進についてお話したいと思います。和歌山県立医科大学のサテライトの施設として文部科学省の障害者スポーツ医科学研究拠点に指定されています。障害者スポーツに対して様々な研究を行っていますが、高齢者も色々なところに障害を持っていますので様々なノウハウが活かせるのではないかと思っています。また健康な高齢者な場合には、鍛えるという観点からスーパー高齢者というのを作ってはどうかと考えています。実は和歌山県は高齢化率が全国で下から8番目ぐらいであり、中心市街地の空洞化が問題となっています。その中心市街地に平成21年に診療所を開設しましたが、大学は研究機関なので単なる診療所ではなく研究が出来る拠点にしたいという思いで、地元の企業が寄付をしてくだり寄付講座というかたちでスタートしました。例えば車いす用のトレッドミル(ランニングマシーン)の機械、人工気候室、3次元の動作解析システムなど非常に良い設備があります。高齢者になると重心の位置が健常者と異なってきますので、どのようなかたちで動作を行えば安全なのか、もっと筋肉を鍛えられるのかなどを研究している施設です。パラリンピック等のスポーツ部門で非常に有名なイギリスのラフボラ大学、オリンピックのアメリカの全米アスリートのサポートセンターになっているテキサス大学と人的交流があり、既に共同研究を行い発表するなど国際的に活動しています。また研究所の一部を地域住民に開放し、今現在会員が3000名ほどいます。地域への健康増進に貢献しながら、高齢者あるいは障害者スポーツの方々に対しての様々なノウハウを蓄積していっています。
野崎氏:
スポーツ、スーパー高齢者、そして障害者の対応技術の応用などの観点からのお話を有難うございました。1985年に世界障害者連から「ノーマライゼーション」がキャッチフレーズとして発信され、日本の障害者に対する様々な技術、社会の認識などが変わってきたかと思います。障害者が普通に街に出て楽しく暮らせる社会をつくるということでしたが、これからは高齢者の方が多くなりますので若者も高齢者も楽しく暮らせる社会がノーマルな社会ではないかと思います。いまこそ、日本の経験を活かし高齢化社会に対応していく時ではないかと思います。
友田氏:
先程の講演の中で健康創生ステーションのお話をいたしまたが、少し補足をさせていただきます。皆さんは「健康ですか?」と尋ねられた時にどのように回答されるでしょうか。たとえば定期検診、人間ドックなどで検査を受け正常値が出れば健康でしょうか。検診などは年に1、2回の受診であり、それだけでは健康とは言えないと思います。そこで本日ご紹介したウェアラブルセンサーが役立ちます。ウェアラブルセンサーから日々の脈拍や睡眠量の変化を確認することが出来ます。つまり健康を意識しながらも無関心である方々を早く見つける、あるいは自覚して頂きたいと思っています。最初はセンサーをつけるのを嫌がる人もいるかと思いますが、実際は着けだすと止められなくなります。そして毎日の身体のチェックを行うことで、健康寿命を延伸出来るのではないかと思っています。また、家族の中で脳梗塞や癌など遺伝的要因が関連するような家系の方は多いと思いますが、ウェアラブルセンサーをつけることで日々の変化をチェックすることで検診へ行く機会づくり、頻度を増やすことが出来るのではないかと思います。良く似た社会活動は行われていて、検診を行いデータが取得されています。取得したデータをどう活かすかが重要であり、健康をサービスに繋げることを提言させて戴きました。
関西医科大学では4月からWHOの本部で難聴グループのチーフをされていた鈴鹿有子特命教授が着任します。耳鼻咽喉科なので、聞こえや匂いなどに関することが得意です。アルツハイマー病の初期病変に嗅覚障害、最近では難聴があると言われていますので、早期発見、早期治療へと繋がればと期待しております。
野崎氏:
健康創生という非常に重要なキーワード、そしてウェアラブルセンサーを使用したIT技術などについてお話いただきました。IT技術と言うと非常に高価なものばかりというイメージがありますが、センサーなどは非常に安くなっており、途上国を含めて導入されてきていますので、日本のみならず世界に技術を適用していくようエビデンスを含めて研究していければと思います。
大槻氏:
大阪医科大学の学風を一言でいえば「自由な大学」です。入学生はほぼ全員卒業させるという国公立型でもあります。本学は西日本の私立医科大学でもトップの偏差値を有し、偏差値が高ければ優秀な学生が入学してきます。大阪医科大学はクラブ活動が盛んで、国体に次ぐ西日本医科学生総合体育大会では2回ほど優勝しており、一時は大阪医科体育大学と呼ばれていました。そして、大阪医科大学の建学の精神は「至誠仁術」です。昨年度は第48日本医学教育学会大会を主催させて戴きました。一番力を入れているのは、研究部門で講演の中でもご紹介させて戴いた臨床実地に関する研究です。AMEDからは毎年相当の補助金を頂いています。医療を行っている限りは、何かこうあったら良いなということを有形化していき、企業の方々と連携してAMEDの事業に参画するというのがポリシーです。
また社会貢献も大学に課せられています。平成35年の高齢化問題があります。大学のある高槻も高齢化が進んでおり、本学と高槻市とのサスティナビリティ事業を展開しています。高槻には4つの大学があり、その中の大阪医科大学、大阪薬科大学、関西大学で医工薬連関という形で、市民に対しての啓蒙活動、小中学生に対する実験などの出前講座等の教育を行っています。高槻市とは本学が食育とオーラルケアや認知症ケアの多職種連携の人材育成のプラットホームとなることを協定で進めています。
WHOとの研究課題4テーマの中の「食育とオーラルケア」において、本学がリーダーとなり京都府立医科大学、兵庫医科大、和歌山県立医科大と連携し進めさせています。本日は多くの企業の皆様がお越しですが、この後の意見交換会に4人の教授陣が参加しますので、新しい企画が生まれることを期待しています。
野崎氏:
認知症、多職種連携、実地医療と色々なお話の中で、「食育とオーラルケア」につきましては、具体的なプロジェクトの開始に向けて議論させて戴いているところです。そういった形で1つ1つ内容を詰めさせていただければと思っています。
野口氏:
本学はWHO神戸センターの地元であります兵庫県下に2つある医学部の1校であり、西宮市の甲子園球場のすぐ側に立地しているため本学の教職員の90%はタイガースファンです。兵庫医科大学は元々精神病院からスタートしましたので、精神科、神経学が得意であり、大阪大学の免疫学の流れを汲んだ多くの先生方による免疫学、癌の研究も世界的レベルで、活発に取り組んでいます。先ほどの講演でご紹介させて戴きましたように、オーラルケアが全身の疾患に極めて影響することに関しては本学の教授が一生懸命取り組んでおり、患者教育、医業者教育にも力を入れていきたいと考えています。
ここから先は本学と言うよりは私個人の研究テーマに関してお話をさせて戴きたいと思います。私は神経科学者であり、その中でも三十数年間疼痛学を研究してきました。世界疼痛学会のアジア代表理事や現在は日本疼痛学会の理事長を務めており、日本の疼痛治療・研究の舵取りを行っています。疼痛、痛みというのは高齢者の活動を落とす最大の要因となります。緩和医療の観点で考えますと、人間の最後に癌の末期であった場合には生命予後よりも痛みをとることが重要となる場面が多くなります。何よりも大事なのは痛みをとることにより、最期の数か月を痛みのない幸せな生活を過ごしていただくことです。しかしながら日本では、長年に渡り痛みを我慢することは良い人、良い子であると考えられています。例えば日本では無痛分娩率は欧米に比べると非常に少なく、歯が痛くなっても我慢するという風潮があります。その為、痛みの研究は欧米が圧倒的に進み、日本は非常に遅れていました。しかしこの10~20年において、高齢者の痛みをとることがいかにQOLを上げヒトを幸せにし健康寿命を延ばすかについて、その重要性が理解されるようになり、その結果日本でも痛みの研究が進んで参りました。痛みは鎮痛剤を飲めば治るというものだけではなく、薬が効かない痛みが数多くあります。難しい痛みを抱えた患者さんに対しては、多くの医師が諦めてしまうこともあり、医師の教育や一般大衆に対しても痛みに対する教育を行っていく必要があります。WHOでも慢性痛が大きなテーマとなっており、その活動に関しては我々の学会が協力しています。慢性痛をきっちりと対処することが、恐らく次の時代の大きなテーマとなるのでは思っています。発展途上国であれば生きるか死ぬかが重要かもしれませんが、先進国では痛みへのケアが重要となります。痛みは感覚系であり定量性がなく極めて難しい研究テーマであり、しかも人の幸せに直結するため、今後何十年か続く大きな研究テーマであると考えています。
野崎氏:
痛みの問題は非常に重要です。痛みが高齢者のQOLを下げているというのは様々なエビデンスがあり大事なことであると考えています。
伊木氏:
WHOと8大学との共同研究が進んでいます。その中でも我々は高機能住宅・健康まちづくりに関わっています。本学には建築学部があり、住んでいるだけで健康になれる高機能住宅を進めています。例えば採光によって睡眠の質が変わってくる。睡眠が短くなったりすると血圧が上がる、そうすれば脳卒中となる。このようなことを防ぐためには、採光の取り方とはどのようにすれば良いのかといった研究を行っており、治験を組み込みながら、どのようなまちづくりを行えば良いのかについて極めていきたいと考えています。
近畿大学の医学部と病院は、堺市の泉北高速の泉ヶ丘の駅前に2023年に移転をします。1000床の病院が移転してくるのは地域にとって非常に大きなインパクトであろうと思います。そこで地域にとってどのようなインパクトを与えるのか調べていきたいと考えています。病院が出来ることで人・もの・情報の流れが変わろうかと思いますが、単に病院が出来るだけではなく良い方向へと繋がるように、まちづくりを行っていきたいと考えています。まさにWHOの研究プロジェクトである「健康とまちづくり」で得られた知見は、我々の移転で起こるまちづくりで効果を試せるのでないかと期待しています。
高齢化問題に関してですが、私は疫学・公衆衛生学、予防医学を専門であり病気を治す立場ではありませんが、人々の健康増進やQOLを保つことに関してコホート研究を行っています。主に骨粗しょう症コホートを行っています。日本の要介護老人の10~12%は骨折によるものであり、認知症の割合と同程度です。全国に7ヶ所のコホート追跡集団を持っており、既に20年ほど追跡を行っていますが、女性が発症する確率が高いため私たちの追跡は女性が対象です。日本では女性患者が1000万人、男性も高齢化が進み300万人ぐらいの患者がいます。そのうち年間3万人が太ももの付け根を骨折し、半分が寝たきりとなり、10%は6ヶ月ぐらいで亡くなります。男性は無関係だと思っている方が多く、また厚生労働省の骨粗しょう症検診も女性のみを対象にしています。その為男性のコホートがなく、現在は奈良県立医科大学の藤原京スターディという地域住民のコホート追跡研究に乗っかる形でお世話になっています。対象住民4000人のうちの男性2000人を対象に行っています。元気老人の秘訣を探る研究であり、元気な老人を集めています。5年間の追跡データが出ており、日本人の平均の1/3しか亡くならない元気な集団ですが、足の骨折をすると死亡のリスクが4倍になることが判明し、骨折は生命に非常に大きな影響を与えることが分かりました。このようなことは日本では研究事例が少なくほとんど分かっていませんが、どうすれば高齢者のQOLを高めていけるのか、世界のモデルとなるよう8医科大学で協働して研究を進めていければと思っています。
野崎氏:
自らの1000床の病院の移転を通じてのまちづくりという壮大な社会実験のお話や、骨粗しょう症のお話もありましたが、どのようにお年寄りのQOLを上げていくのかというお話でした。
それでは、8医科大学の学長・医学部長の先生方に会場から質問、コメント等はございませんでしょうか。
質問者(大阪医科大学 奥田様):
がんセンター先端医療開発部門で主に大腸がんの治療を行っています。高齢化に伴って癌の患者が増えると共に、原因は分かりませんが30~40代の若い若年層の大腸がんが増えています。それを支えるのが我々外科医ですが、外科医も高齢化が起こっており、なかなか若い先生方が育ちません。大学が本来あるべき教育、育てる非常に重要となっています。数だけではなく質の良い、問題を見つけ出していくという勉強熱心な医師を育ていきたいと考えています。今回先生方のお話を拝聴し、非常に勉強になりました。
野崎氏:
大変重要なポイントだと思います。
大畑氏:
私は脳神経外科医で外科医と同じ立場です。海外の様子と比べますと日本は医療がチャリティとなってしまっています。インセンティブがあると人がそこへ流れていきますので、まちづくり組織づくりという点では他の診療科とのバランスがありますが、インセンティブを取り入れるなど一致団結して行っていきたいと思います。
岡村氏:
私は心臓血管外科医で全く同様に考えております。日本全体の社会問題の1つだと認識しております。
質問者(ロート製薬 山田様):
いわゆるピンピンコロリを私は願っていますが、これからのまちづくりと健康管理はセットとなってくると思います。先生方のお考えを教えて頂ければと思います。
吉川氏:
非常に難しい問題であり誰もが願っています。どのように死ぬのかという死生観に関して、これまではあまり医学的に取り組んで来ませんでした。昔の達観した人は自らが駄目だと思えば食事をあまりとらなくなり消えるように亡くなっていた人が多かったそうですが、最近はとことんまで頑張っていこうとするために苦痛となり、なかなかピンピンコロリとはいかないように思います。消えるように亡くなるまで元気で過ごすには、医学の教育とは別に、どのように亡くなりたいかについて今までにタブーとなっていたことを教育、世間一般の常識を変えていく必要があるのではないかと思います。特に宗教のない日本人にとっては、達観するのは非常に難しい難問であると思います。緩和医療の緩和病棟が全国に拡がっています。このことを周知し、考え直す必要があるのではないかと思います。
細井氏:
先程の外科医不足、この問題もそうですが、何かを起こせば反作用が必ず生じるので責任をとらないために何も行動しないことが原因だと思います。足りないのであれば何か仕組みを作る必要があります。誰が責任をとるのかということになりますが、私は学長となってから2つのことでガバナンスを行っています。1つは合理性であり、理にかなったことを行っているのか自分自身に問いかけます。もう1つは責任の明確化です。全て何か起これば理事長や学長が責任をとると思っている人もいますが、たとえ今年入った新人であっても自覚して欲しいと伝えています。やはり、誰かが責任をとる形で進めないと何も進まないのではないかと思っています。
野崎氏:
さきほど細井学長より合理的というお話がありましたが、今日私共のアレックス・ロス所長からもお話しましたように世界中でSDGs(持続可能な開発目標)の中で保健医療分野では、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)という言葉が出てきています。伊勢志摩サミット、神戸で行われたG7神戸保健大臣会合でもユニバーサル・ヘルス・カバレッジが1つの大きな概念となりました。これは大いに世間では誤解があり多くの人が健康保険をつくったことだと思っていますが、健康保険をつくったことではありません。全ての人があまり高くないない費用で質の高い医療によってカバーされることであり、お金のことだけを言っているわけではありません。この考え方は、WHOの究極な目標でもあります。その時に我々が懸念していることは、世界に多くの高齢者が生まれてくることです。高齢者が生まれれば色々な疾患が出てきます。お金のこと、医師・看護師の数など色々なことを考えなくてはいけません。お年寄りが元気に生きるためにはどうすれば良いのか、今日の話の中でも創薬、iPS、癌の制圧、健康長寿の解明、MBT、認知症の問題、スポーツ・健康の問題、IT、食育とオーラルケア、骨折の問題と色々な問題がありました。こういう事を解決するために色々なソリューションが必要です。その為には、リサーチが必要です。今まで我々はきちんとエビデンスのあるソリューションを提示してくるべきでした。色んな国、日本のケースモデルが世界にどのように役に立つのか、あるいは高齢化に役立つのか、我々WHOは研究機関であり8医科大学の先生方と手を取り合って色々なエビデンスを生んでいくのが我々の使命だと思っています。本日は貴重な機会を与えて頂き有難うございました。
最後に吉川学長から代表として一言頂いて終わりにさせて頂きます。
吉川氏:
本日は貴重な機会を与えて頂きまして有難うございました。8医科大学とWHOとで共同研究を行っています。これから色々な研究成果が表れてまいりますので、この研究成果を発表させて頂く機会として、新たなトピックスを交えながら次回以降開催させて頂きたいと思います。本日は、WHOを中心とした関西公立私立医科大学・医学部連合との活動を開始する声明を発表する発端の第1回目のシンポジウムを開催させて頂きました。
今後も8医科大学が一丸となりグローバルなアイデアを生み出し、世界のニーズを把握しているWHOと一致団結して活動していきたいと思っています。今日はこの後に、教授人による個別意見交換会と交流会も御用意しておりますので、御参加いただければと思います。本日は誠に有難うございました。
閉会の辞:私立医科大学・医学部連合 代表
/ 関西医科大学 学長 友田 幸一 氏

本日は長時間御参加戴き有難うございました。ご講演戴きました先生方、有難うございました。非常に有意義な会でございました。健康社会の実現に向けて私ども一致団結して参ります。先日、京都大学の井村氏が、今生まれた子どもの平均年齢は100歳だろうと言っておられました。これから益々健康が重要となる時代であり、我々医療機関、企業、社会が一団となって健康維持の為に努めていき活躍していきたいと思っております。どうか皆様方からのご支援を賜りまして、日本の社会、そして世界が健康、平和でありますことを祈り、閉会とさせていただきます。
本日は誠に有難うございました。

シンポジウム閉会後には、佐治敬三メモリアルホールにて23分野の8医科大学・医学部の教授陣と企業との個別意見交換会が開催され、先鋭の教示陣と企業による活発な意見交換が交わされました。時を交えて交流サロン「サロン・ド・ラミカル」にて滋慶学園の浮舟総長氏の乾杯のご発声で、交流会が盛大に開催され、講師も交えて多くの参加者による活発な交流と意見交換が行われました。